温泉

温泉に上手く入れない。


温泉は昔から好きだ。
なのに、最近になって上手く入れなくなってきた。
気づかぬうちに、のぼせてしまうのだ。


どうも、思い出が快適な温泉ライフの邪魔をするらしい。
24歳ともなると、温泉で生まれる思い出も少なからずある。


壮大な山々に囲まれた地で、厳かな空気を感じて浸かる、秩父の湯。
叶わぬ恋に泣く僕を、夜ごと優しく包んだ、北国の湯。
退職の折に誘われ、励ましの声に笑い涙した、都会のスーパー銭湯。


温泉に浸かるとき、露天風呂で眺めた幾つもの景色たちが、一瞬にして蘇ることがある。
過去の匂いが鼻腔をついて、止まらなくなる。


温泉は昔から好きだ。
けれど、温泉での思い出が増えるほど、入浴が下手くそになって良くない。

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