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【小説】仮病


ーーAM 7:00ーー

【今朝から蕁麻疹がでていて、熱もあり辛い状況です。大事をとってお休みをいただきたく思います。申し訳ございませんが、宜しくお願い致します。】

ふぅ、送信っと。
今日はお休みだ。

だいたい、週に5日間も仕事なんて、どうかしている。
人間のなせる技ではない。
そこまで会社に尽くす意味なんて無いんだからさ。
働きたいやつは、せいぜい真面目に会社に通い詰めて、飼いならされてしまえばいい。
そのあいだ、俺は映画でも観に行ってくるからさ。


ーーPM 3:00ーー

いやぁ、いい映画だった。
あまり調べずに観に行ったがオフィスラブものもいいな。
これは無意識だが、ついついヒロイン役を同じ職場の由美子ちゃんに置き換えてしまう。
主人公はもちろん僕だ。
仕事より恋にうつつを抜かす彼らは、輝いて見えた。


ーーAM 10:00ーー

『こないだの件、由美子ちゃんと組んで色々と教えてやってくれないか。彼女、営業とか慣れてないからさ。頼りにしてるよ。』

返事のトーンがやや高くなってしまい恥ずかしかったが、僕は心の底から嬉しかった。恋にうつつを抜かす人生よ。ついに姿を見せたな。物陰に隠れていないで早く出ておいで。


ーーAM 9:00ーー

どうも身体の調子がおかしい。
おまけに頭が重たく、熱もあって、身体中が針に刺されたように痛くてたまらない。
由美子ちゃんとの営業は今日なのに、どうしてもすっぽかす訳にはいかない。
這うようにして会社へと向かうと部長が大爆笑で迎えてくれる。


『どうしたんだその身体は。おいおい、すごい熱じゃないか。お前、健康なときは休むのに、病気のときは会社に来るなんて、本当にどうかしてるんじゃないか?』

『どういうことですか、部長?』

『ん?いや、これだよこれ。ホンネガミエ~ル、知らないのか?これでメールの文章をライトで照らすとよ、面白いことが起こるんだ。ほら、お前のこないだのメールを見てみろ。』

【僕は健康ですが、会社に飼われる意義を見出せないので休みます。ちょっくら映画でも観てきやす。】

こないだ部長に送った僕の仮病メールが、見る見るうちに腹を割っていくではないか。僕は仰天してしまった。


部長はホンネガミエ〜ルをいじりながら笑っている。

『これさ、本社から送られてきたんだよ。俺はお前が仮病かどうかなんて心底どうでもいいんだけどさ、お前に何かモチベーションを作ってやろうかと思ったわけ。優しいだろ?それで由美子ちゃんとお前を組ませるように仕組んでみた。』

優しいのだか陰湿なのだかよく分からない上司を持ったものである。


『あれ、そういや由美子ちゃん、今日はまだ見てないな。さては休み・・・仮病か?お、やっぱり欠勤のメール来てるじゃないか。お前、振られちゃったなぁ。可哀想に。まぁ、俺はどうでもいいんだけどさぁ。残念だよなぁ。』

僕の目の前が真っ暗になっていく。
身体も心も限界を迎えようとしていた。
もういやだ、仕事なんて辞めてやるぞ。

『せっかくだから、由美子ちゃんのメールも照らしてみるかぁ。えっ・・・?見てみろよ、おい。』

【せっかく憧れの先輩とバディを組ませてもらったのに、風邪を引くなんて。無理やりにでも行こうかと思ったけど、先輩に伝染したらきっと嫌われるよね。悲しい。】

その日以来だったか、
僕の辞書から"仮病"の文字は消えて、せっせと真面目に働くようになった。
すべては由美子ちゃんのために。


仮病くんさようなら、お元気で。

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だりあ

"物語作家兼ライター"▼ #ブロギル ショートショート創作サロン1期卒業生▼法学すき→平成27年度行政書士試験合格▼創作依頼はこちらから→https://coconala.com/services/617237

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これまでの僕の足跡。コンテストの応募作品は【各コンテスト参加作品】のノートに纏めています。
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