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【小説】会舎(カイシャ)


オバちゃんは今日も僕のゴミ箱をめんどくさそうに空にしていった。

このオバちゃんが採用するゴミ集めのルートをAと定義するならば、火曜日と金曜日にシフトに入るおばちゃんが採用するルートはBとなる。

この2つでは、僕のゴミ箱のもとに訪れる時間に若干の差異があり(AはBよりも平均して2分15秒ほど早い)、時間までにゴミ箱を集めやすい位置に移しておかないと、おばちゃんは嫌な顔をする。

そして決まって
「ゴミ箱!」とだけ言い捨てて、僕の動向を伺うのだった。

会社の為に身も心も捧げる日々が終わりを告げ、ようやく定年退職を迎えたは良いものの、自宅では特にすることも無くフラストレーションだけが溜まっていった一方、妻に当たることしかできないジイさん顔負けの言いっぷりである。

「すみません。」
その日の僕はルーティンを忘れて、オバちゃんに上から物を言われる羽目になる。

しかしオバちゃんとて、何も好き好んで僕のゴミを集めたいと思う筈もない。嫌々やっているに決まっている。僕もゴミ箱を集めやすい位置に嫌々動かしている。オバちゃんの気持ちを少しだけ分かってあげられるような気がしたが、あくまで気がしただけだった。


さて、そろそろ会議室に向かわなくては。
我が社では毎朝、若手社員によるフレッシュなアイディアの抽出を目的とした会議が執り行われている。

会議といえど、アイディアが出るまで席を外すことは許されず、文字通り抽出といった表現が正しい、半ば取調べに近い感覚があった。出てくるまでキッチリと搾り取られる。ときおり雑で荒い上司に当たると、痛い思いもする。

そうしてようやく出てきたアイディアは、中堅の社員達がまるで自分の手柄のように仕立てて自分達の上司や企画部に売り込んでいく。アイディアが認められると彼等は褒められる。彼等だけが褒められる。


僕たち若手社員の存在意義といえば、なけなしの賃金で飯を食らい、栄養をつけ、脳を働かせて、良いアイディアを思い付き、搾り取られるのを良い子にして待っている事だ。

良いアイディアを思いつける個体は可愛がられ、そうでないものは冷遇される。最悪の場合、解雇される。
そんな中、どちらとも言えない僕は、何とかして可愛がってもらえるよう奮闘の日々を送る。


「ゴミ箱!」
「すみません。」
しまった。今日はまだ木曜日だったか。

#小説

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だりあ

"物語作家兼ライター"▼ #ブロギル ショートショート創作サロン1期卒業生▼法学すき→平成27年度行政書士試験合格▼創作依頼はこちらから→https://coconala.com/services/617237

ショートショートの館

これまでの僕の足跡。コンテストの応募作品は【各コンテスト参加作品】のノートに纏めています。
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