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河北新報に掲載されたイージス・アショア論

◎持論時論/元参院議員/松浦大悟/(49歳・秋田市)


 秋田市を候補地とする地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」問題を考える時、思い出すエピソードがある。
 2014年に「琉球」の思想家、知念ウシ氏が秋田市のアトリオンで講演した時のこと。ウシ氏は「秋田には広い土地がたくさんあっていいわね。沖縄の米軍基地を引き取ってくれないかしら?」と提案した。その言葉に会場は凍り付き、社民党、共産党の地方議員を含め、ウシ氏の問いに答えられる者は誰もいなかった。
◇   ◆   ◇
 日本は、米軍基地の7割を沖縄に押し付けることで「平和」を維持している。沖縄を特異点とすることで、その他全体が救済されるシステムが戦後の「9条体制」だったといえる。ウシ氏の思いを真摯に受け止めた東京大大学院の高橋哲哉教授は「国民の8割が日米安保の必要性を訴えるのなら、沖縄の米軍基地は本土が引き受けるべきだ」と主張した。
 しかし、高橋氏の意見に真っ先に反対の声を上げたのは「本土」のリベラル派の人たちだった。
 かつて橋下徹・元大阪府知事が「米軍基地の関西での受け入れを検討すべきだ」と発言した時も、リベラル住民の大反対に遭い、このアイデアはほごにされた。(現在は、大阪に米軍基地を移設しようという住民運動がわずかながらに起きている)
 政府が秋田市に配備をもくろんでいるイージス・アショアも、日米安保を機能させるためのパーツの一つである以上、設置場所については水面下で米軍との「あうんの呼吸」があったと推測できる。今回はそれが沖縄県ではなく、山口県萩市と秋田市だった。
 私自身は弱くてエゴイスティックな人間なので、大阪府民が米軍基地を望まなかったように、巨大軍事施設がわが街に建設されることを望まない。日常のささやかな幸せを手放したくない、と思うのは私人としての自然な感情だ。
◇   ◆   ◇
 Mr.Childrenの『HERO』は、そんな気持ちを代弁するかのように次のように歌う。
 例えば誰か一人の命と
 引き換えに世界を救えるとして
 僕は誰かが名乗り出るのを待っ ているだけの男だ
 愛すべきたくさんの人たちが
 僕を臆病者に変えてしまったん だ
 この逡巡は、痛いほどよく分かる。けれど、もし私がいま現職の国会議員だったとしたら、拒否を表明するだけで本当にいいのだろうかと日々考える。
 防衛省は秋田市で住民説明会を開いたが、地図データの計算ミスが見つかり、職員が居眠りをしたことで、逆に不信感を招いた。
 こうした緊張感を欠いた対応は論外だが、だからと言って膨大な負荷のかかるミサイル防衛施設を再び沖縄県に押し付けていいのだろうか? あるいはお隣の青森県や山形県ならいいのだろうか? 私たち秋田県人は自分たちだけが幸福ならそれでいいのか? さまざまな思考が頭の中を渦となって駆け巡る。ウシ氏が投げかけた問題は、深くて重い。

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dai

元ABS秋田放送アナウンサー、元参議院議員の松浦大悟です。セクシュアリティはゲイ。よろしくお願いします。誰もが生きやすい社会を!
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