また君はそうやって照れ笑いして

「智也、聞いてんの?」
僕のパスタの皿を睦美が箸(はし)でカンカンと叩く音がして我に帰った。

「おい、人の皿を、使った箸で叩くなっての」
「べつに汚くないんですけど〜」
睦美は嫌味っぽく箸で僕の顔を指す。

「で、何の話だっけ」
「ほら聞いてないんじゃん」
「はいはい。だから何なの?」
「だからさ、昨日LINEでも書いたけど就職の話。全然受かりそうな気配しないんですけど」
彼女の目が少しだけ、伏し目がちになった。
それは彼女が本当に悩んでる時の目だと僕は知っている。

「大丈夫だって。睦美は大丈夫だよ」
睦美の空いたグラスに水を注ぐ。
木曜日の夜の街を右に左に過ぎ去っていく人を、彼女は頬杖をついて見る。
「なんかやめちゃおっかな。就活なんて」

声のトーンがあまりにも本気すぎて僕はたじろぐ。
「どうしたの?」
そう言うと彼女は、何か言いたそうな目を一瞬して、吐息をもらして軽く笑った。
彼女のスマホがテーブルで振動する音がすると、
「なーんでーもなーい。私、そろそろ行かないと」
そう言って彼女は僕の反応を見ることもせずに帰り支度を始めた。
「カレシ?」
僕が聞くと、彼女はうんとは言わず、照れたように笑っただけだった。


そいつに、睦美の悩みが本当に分かるのかよ。

駅に向かう帰り道、何度もそう言って彼女の腕を乱暴にでも掴もうとした。
けど、言えなかった。
あの照れ笑いを見たら、そんなことは言えなかった。

きっと彼女が「部屋」に無事着いた時間にLINEをした。
「就活、睦美なら大丈夫だよ。
 おれならいつでも相談に乗るから」
何もなければいつもは遅くとも10分くらいで返事が来るのに、1時間たっても返信はなく、既読もつかない。
いつものことだ。わかってるんだけどな。
彼女の照れ笑いがいやと言うほど思い浮かんで来る。

毎日連絡だって取り合ってる。
2人でご飯だって飲みにだって行く
ただ、あなたが僕を好きじゃない。
これだけが、たったひとつの違いのような気がして。
だけど、とても大きな違いのような気がして。

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