クリスの物語Ⅳ #21 ホロロムルスの機能
それからぼくたちは、ひとり用の座席に移ってそれぞれカンターメルを試した。
もちろん飛行機の中だから危険なカンターメルは唱えないように釘を刺されたし、ぼくたちだってそんなのを試すつもりはない。
カンターメルはホロロムルスで調べることができた。
マーティスによれば、ほとんどすべてのカンターメルがホロロムルスに載っているということだ。
マッサージチェアのように大きな座席は、背もたれを倒せばゆったりと横になることもできる。
キャビンクルーがブランケットを持ってきてくれたので、通路を挟んだ隣の座席に1枚敷いてもらった。
そこにベベを寝かせてから、ぼくも背もたれを少しだけ倒した。
窓のシェードが全部閉められ、照明も少し落とされた。
『眠たかったら少し昼寝をするといい』と、ハーディがいった。
でもあまり寝すぎると向こうへ到着してから夜眠れなくなってしまうから、寝すぎない方がいいともハーディはいった。
「え、優里宿題持ってきたの?」
前の座席に座った沙奈ちゃんが、驚きの声を上げた。
「うん。わたし、宿題は先に終わらせておきたいタイプなの。今回どれくらい滞在することになるのかわからないし」
沙奈ちゃんの隣に座る桜井さんがいった。
どうやら、夏休みの宿題を桜井さんがやり始めたようだ。宿題のことなんてぼくはすっかり忘れていた。
「それにしても、何も今やらなくたっていいじゃない。せっかくだから映画でも観ようよ。それに、宿題なんて元の世界のわたしたちがきっと終わらせていてくれるよ」
沙奈ちゃんがそういうと、桜井さんは「あ」と声を上げた。
「そっか。それなら、宿題を持ってきちゃったらまずかったかな?向こうのわたしが、宿題がなくなったって焦ってるかもしれない」
心配そうに桜井さんがいった。
「うーん、どうだろう?でも並行世界を移動しても大体つじつまが合うようになってるってマーティスさんもいってたし、大丈夫なんじゃない?それに、そんなこといったらスマホとかも持ってきちゃってるし。
きっと別々の世界で、同時に同じ物が存在してるんじゃないかな?」
「ふーん、そっか。でもそれなら、わたしがこの宿題を持って元の世界に帰ったら、今持っているこの宿題がその世界での現実の物に置き換えられちゃうよね、きっと。ということは、やっぱりこの宿題やっておかないとダメかな?あー失敗した。持ってこなければよかった」
桜井さんがそんな風に嘆くと「いっそのことそれ燃やしちゃったら?」と、本気のトーンで沙奈ちゃんがいった。
結局、桜井さんは宿題をするのをやめて、正面の壁に取り付けられた大画面の液晶テレビで沙奈ちゃんとディズニー映画を鑑賞し始めた。
ぼくはそれを横目で見ながら、ホロロムルスの機能を色々と試した。
基本的な機能はオーラムルスとほとんど変わらなかった。
でも決定的に違うのは、ホロロムルスは使用者の頭脳とリンクするという点だ。
たとえば、オーラムルスでは調べたいことなど基本的に自分で操作する必要があるけど、ホロロムルスは頭に思い浮かべるだけで自動的に処理してくれる。
遠くにあるものをもっと近くで見たいと思えば自動的にズームされるし、視界を明るくしたいと思えば明るくなったり、暗くしたいと思えば暗くなったりする。
その調整のコツさえつかめれば、オーラムルスなんかよりずっと便利だ。
お読みいただき、ありがとうございます! 拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。 これからもどうぞよろしくお願いします!