クリ物3タイトル入

クリスの物語Ⅲ #48 救世主


「アクアサルギータ」

 カンターメルを唱え、広場に足を踏み入れた男たちの顔めがけて噴水から数百本の鋭い水の矢を飛ばした。
 猛スピードで発射された矢は、次々に男たちの顔面にヒットした。
 男たちはみんな顔を押さえてうずくまった。致命傷には至らないけど、目をくらますには十分だ。

『今だ!走って!』
 ぼくのかけ声とともに、転移装置へ向けてみんな走り出した。
 転移装置にたどり着く前に、桜井さんが叫んだ。
「沙奈!うしろ!」
 ぼくと沙奈ちゃんはうしろを振り返った。
 そこには、男がひとり沙奈ちゃんに拳銃を向け立っていた。そのうしろにも何人かの男が控えている。

 しまった。ぼくたちがやってきた通りを見過ごしていた。
 ぼくはとっさに、かばうように沙奈ちゃんを抱きしめた。ぼくのピューラは鋼の肉体にもなる。銃に撃たれても大丈夫なはずだ。

 ブーンという奇妙な音がした。その後「うぐっ」といううめき声が聞こえた。
 振り返ると、うしろに盾を手にした男の人が立っていた。黒い騎士のような格好をした長髪の男性だった。
 黒マントの男たちが発射するレーザー光線を、その男性はことごとく跳ね返した。跳ね返ったレーザーが男たちを直撃して、男たちは地面に膝をついて倒れた。

「ラニグラムルグール」

 どこからか女性の声が聞こえた。
 すると、バリバリバリッと紫色の稲妻が走って、さっきぼくの水矢の攻撃を受けた男たちが次々に倒れていった。
 倒れた男たちのうしろに、剣を頭上に構える女性の騎士がひとり立っていた。女性の手にした剣は細長く、刃には細かい彫刻が施され、その模様がかすかに光を発している。

 騎士の格好をした長髪の男性が、無言でぼくたちを振り返った。色白でひょろっとしていて彫りが深く、頬はこけている。
 あまり健康的ではなさそうな印象を受けた。セテオス中央部の人だろうか。

 ぼくと沙奈ちゃんは、頭を下げて助けてもらったお礼をいった。
『ありがとうございました。おかげで助かりました』
 本当に危ないところだった。
 男たちが持っていたのは拳銃ではなくレーザー銃だったから、撃たれていたらぼくの鋼鉄のピューラでも防げていなかったかもしれない。
「あれ、あの人・・・」
 こっちへ近づいてくる女性を指差して、桜井さんがぎょっとした。
「やっぱり、上村君だったのね」
 そばへやってくると、女性がいった。

「田川先生・・・?」
 え・・・なんで田川先生がこんなところにいるんだろう?
 そうか。田川先生は闇の勢力の人間だから、ぼくたちを阻止しにきたということか。
 あれ?でも、たった今田川先生は闇の勢力たちを倒していた。
 一体、どういうことだろう?
 一瞬にして、頭の中をぐるぐると疑問が渦巻いた。

 ぼくは沙奈ちゃんと顔を見合わせた。
 沙奈ちゃんは眉間に皺を寄せて、不信感をあらわにしている。そんな沙奈ちゃんに向かって、「松木さんも無事でよかった」と先生はいった。


お読みいただき、ありがとうございます! 拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。 これからもどうぞよろしくお願いします!