クリスの物語Ⅲ #55 沙奈ちゃんの能力
突き立てられたスタンの剣をミラコルンで払い、うしろに飛んでから拳を構えた。
「オンドーヴァルナーシム」
ぼくがカンターメルを発する前に、ミラコルン発動のカンターメルがどこかから響いた。それと同時に、白い光の龍が上からスタンめがけて飛びかかった。
スタンは、後方に飛び上がってそれをよけた。すると、その先にいたパオリーナを光の龍が飲み込んだ。
「うぎゃあああああ」
龍に飲まれたパオリーナは2本の角を生やした男へとみるみる内に姿を変え、やがて塵となって消えてしまった。
『そのエランドラも偽物だよ!』
クレアの叫ぶ声が聞こえた。
振り返った桜井さんに向かって、偽エランドラは炎の玉を放った。
危ない―――
桜井さんが体をのけぞらせる光景が目に映った。
すると、その前にラマルが立ちはだかって水の壁を作った。
『クリスー!ミラコルン!』
クレアに命じられるまま、すかさずぼくはミラコルンを発動させた。
「オンドーヴァルナーシム」
金色に光る龍が、ぼくのミラコルンから偽エランドラに向かっていった。
偽エランドラはよける間もなく光の龍に飲み込まれると、みるみる内に悪魔に姿を変え塵へと化した。
『スタン!』
田川先生が、突然走り出してスタンを呼んだ。スタンも走り出した。
走りながら、スタンはドラゴンへと姿を変えた。真っ黒で背中に角を何本も生やし、大きな牙を持つドラゴンだった。
田川先生が広場からジャンプすると、ドラゴンに変身したスタンは田川先生を乗せてまっすぐ上に飛んだ。
「ラージュボンバーダ」
上の通路にいたラーナミルが、杖を構えてカンターメルを唱えた。
すると、ラーナミルの構えた杖から大きな光の玉がドラゴンめがけて飛んでいった。
「アバーグラ」
ドラゴンの背に乗る田川先生がそういって剣を振ると、ラーナミルの放った光の玉が跳ね返された。
それをラーナミルがよけると、光の玉はそのうしろの転移装置をすり抜けた。
直後、外で大きな爆発音が轟いた。
田川先生を乗せたドラゴンはどんどん上へあがって、やがてその姿も見えなくなってしまった。
ぼくはベベに駆け寄った。ベベはぐったりと横たわっている。
頭を撫でると、かすかに目を開けた。涙が止まらなかった。
ベベ、お願いだから死なないで。
「べべ」
沙奈ちゃんも泣きながら、しゃがんでベベの頭を撫でた。
すると、沙奈ちゃんの手がぼおっと白く光った。
ベベが体をびくんとさせた。
びっくりした沙奈ちゃんはベベから手を離し、戸惑った表情でぼくを見た。
『サナ、そのままベベの体に触れておきなさい』
下に下り立ったエランドラがいった。
エランドラのうしろには、パオリーナもいる。
この二人は、どうやら本物のようだ。
沙奈ちゃんはエランドラにうなずき返して、もう一度、今度は両手で包むようにベベに手を触れた。
ぼおっと白い光が、再びベベを包み込んだ。それから、ベベの傷口がキラキラと光り出した。
流れ出していた血が止まり、どんどん傷口が塞がっていく―――
傷口が完全に消えると、ベベを包んでいた光も徐々に収縮していった。
光が収まるのと同時に、ベベがむくりと起き上がった。
『あれ?ぼく、大丈夫みたいだ』
ベベが尻尾を振って、くるりと回った。
驚きながらも、ぼくはベベを抱え上げてギュッと抱きしめた。
沙奈ちゃんも嬉しそうに、笑顔でベベを撫でた。それから、エランドラを振り返った。
『キュアドラゴンね。病や傷を治癒することのできる能力があるのよ』
エランドラはそういって微笑んだ。
『それがわたしのピューラの特性ですか?』
『どうやら、そのようね。わたしも目にするのは初めてだけれど』
沙奈ちゃんは、またぼくの方を振り返った。
戸惑いながらも、嬉しさを噛み殺しているような表情だった。
「すごいよ、沙奈ちゃん!ありがとう!」
ぼくがお礼をいうと、沙奈ちゃんは「えへへ」と照れるように笑った。
それから、沙奈ちゃんは気づいたように地面に倒れるユーゲンのそばへ駆け寄って手を触れた。
でも、何も反応しない。
『いくらなんでも死人を蘇えらせることはできないわ』と、エランドラは残念そうに首を振った。
お読みいただき、ありがとうございます! 拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。 これからもどうぞよろしくお願いします!