クリスの物語Ⅳ #24 初日の予定
翌朝、目を覚ましたのは6時少し前だった。
おしっこをしたいというベベを抱いて、トイレに向かった。
ベベと喋れるようになってからトイレで用が足せるようにしつけていたから、トイレシートがなくても問題ない。
もちろんひとりではできないから、ぼくが抱えておく必要がある。こういうとき、ポルタールがあると本当に便利だ。
ベベのおしりをトイレットペーパーで拭いてから、ぼくも用を足してリビングへ向かった。
ダイニングテーブルでは、桜井さんが宿題をやっていた。
小さく姿を変えたままのエンダが、そのテーブルの上をトコトコと行ったり来たりしている。
「あ、おはよう」
ぼくに気づいた桜井さんが、顔を上げていった。
「おはよう。朝早くから偉いね」
「ううん。昨日寝たのが早かったから、5時には目が覚めちゃって。それですることもないから」
「そっか。沙奈ちゃんは?まだ寝てるの?」
聞きながら、キッチンに備え付けてある冷蔵庫を開けた。
中には、水やジュースがぎっしり詰まっていた。
外国語で炭酸水ライム味と書かれたペットボトルを取り出した。
ホロロムルスは外国語も瞬時に翻訳してくれるから便利だ。
「沙奈はさっき起きてきて、今シャワー浴びてるよ。わたしもこの後浴びるつもり」
そうだ。昨日はお風呂に入らずに寝てしまったのだった。
そうしたら、朝食前にぼくもシャワーを浴びておこう。
そう思いながら炭酸水をひと口飲んで、ぼくはむせてしまった。
「辛っ」
顔をしかめるぼくを見て、桜井さんはおかしそうに笑った。
『おはよう。みんな昨日はぐっすり眠れたかい?』
爽やかな笑顔でハーディが部屋に入ってきた。うしろにはマーティスもいる。
ハーディは、昨日とは打って変わってスニーカーにダメージジーンズ、それにTシャツにキャップというラフな装いだった。
『うん。よく眠れたよ』
そう返事をするぼくを見て、ソファに座ったハーディは満足そうにうなずいた。
シャワーを浴びて服を着替えてからハーディに連絡をしたところ、ぼくたちの部屋で朝食を取ろうという話になった。それでこうしてやって来たのだった。
『思ったよりみんな起きるのが早かったから、予定を早めて午前中には美容室へ行こうか』
ダイニングテーブルに山盛りに用意された、ビュッフェスタイルの朝食を取りながらハーディがいった。
ハーディによれば、選ばれし者としてぼくたちの存在は闇の勢力に知られているから、万一のために少しでも変装した方がいいということだった。
闇の勢力もまさかぼくたちが銀河連邦に遣わされてここへやって来ているとは微塵も思っていないだろうけど、念には念をということだ。
『それと街を歩くときはその格好だと目立つから、後で服を買いに行こう。それは、実際にクリスタルエレメントを奪いに行くときに着たらいいよ』
ぼくたちが着込んだピューネスを指差して、ハーディがいった。
自分の服装を改めて確認してから、ぼくたちは顔を見合わせた。
『でも、一応着替えは持ってきたよ』
桜井さんがそういうと、ハーディはわかってるというようにうなずいた。
『でも、どれくらい滞在することになるかわからないだろう?だから多少買い足しておくといい。もちろん、お金の心配はいらないよ』
ハーディのその言葉を聞いて、沙奈ちゃんがきらりと目を光らせたのをぼくは見逃さなかった。
ゆっくりと朝食を取ってから、マーティスをホテルに残し、迎えに来た4WDの大きな車に乗ってぼくたちは街の中心部へと向かった。
お読みいただき、ありがとうございます! 拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。 これからもどうぞよろしくお願いします!