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タクシーアプリの恩恵

 ここ数年の中で、もっともぼくの生活スタイルを変えたものといえば、タクシーアプリなんじゃないかと思う。
 我が家は車がないこともあり、基本的に昔からちょっとしたことでタクシーをよく使う。旅行で荷物が多い時、買い物帰りで少し半端な場所にいる時、急いで駅に行きたい時など、結構頻繁にタクシーに乗っている。
 タクシーに乗るもっとも大きい理由は、自分の楽器がバリトンサックスという呆れるほどでかい楽器で、単純に駅までの運搬に難があるからである。これから練習や本番というのに駅に持っていくだけで体力を消費したくないから、楽器を使う時はもうデフォルトでタクシーを呼んでいる。
 こういうと、贅沢だの豪勢だのと言われることもあるが、これは冷静に考えてみてほしいことで、自家用車を持つよりもタクシーに乗る方が明らかに安上がりである。
 だって、そんな感じで頻繁にタクシーに乗ったって、乗るのは基本週末だけなのだし、せいぜい月に一万円かかるかどうかと言ったところだ。
 首都圏で車を維持したら、全くこんなものじゃ済まないんじゃないかと思う。ガソリン代だけでも相当かかるし、仮に駐車場を借りているとしたらあっというまに一万円どころじゃ済まない出費になる。
 しかも、一番大事なところだが、タクシーは寝てても家に連れてってくれるのだ。こんなにいいことはない。
 と、いろいろなことをいいつつ、単に自分が車や運転があまり好きではないからなのだが、ともかくそんなわけでタクシーを日常的に使っている。

 そんな自分にとって、タクシーアプリというものは、まさに革命的なツールであった。
 なにしろ、スマホを開いてほんの2−3タップで、ものの5分後には家の前にタクシーが到着するのだ。こんなことがあっていいのだろうか。こんなのドラえもんの道具じゃないか。使ったらバチが当たるんじゃないか、代わりに寿命が削られるんじゃないかというレベルで便利である。
 じゃあアプリが出現する前はどうだったかというと、近所のタクシー会社に電話をしていた。ただ、当然だけれど手配できるかどうかはそのタクシー会社の車に限られるから、空いている車がない時は、電話帳で別のタクシー会社を調べて電話をかけて探す、ということを繰り返していた。
 雨の日なんか最悪である。こっちはいつもタクシーを使っているというのに、たまたまちょっと雨だからという理由でタクシーを呼ぶやつがたくさんいるせいで、全然車が手配できない。
 しかもそういう時って、タクシー会社の方もかなり上からの物言いで、「今車ないんですよねー(こんな天気の日に今頃かけてきてもあるわけねぇだろ)」と冷たくあしらわれることが続くことになる。
 これは心が折れる。
 というか、それを続けている間にも20分30分とどんどん時間は過ぎていき、急ぎたいからタクシーに乗りたいのに、もう歩いた方が完全に早かったとということも起こってしまう。

 それがどうだ。今ではアプリを開くだけで、タクシー会社の区別など気にすることなく、とにかく空いている車両を手配してくれるのだ。よっぽどのことがない限り、手配できないということもない。あまり使ったことはないけれど、ワゴンがいいなど車種の指定だってできる。行き先も先にアプリ上でマップ指定できるから、言った言わないで変なところに行ってしまうこともない。時間だって計算できる。ほんとうに、これほど根本的に不便を解消するグッズって、他のジャンルではなかなか出会ったことがない。本当に、タクシーGOやSRIDEには感謝感謝である。

 昔は、決まったタクシー会社に電話をかけて呼んでいたので、もう完全に名前と住所を覚えていてくれていた。岡島です、というだけで車を手配してくれた。
 そして、大体いつも同じ運転者さんだった。おじいさんの河合さん。ちゃきちゃきの下町喋りで、まだうちの子供が小さかった時、いつも可愛がってくれた。同じ会社のドライバーさんに聞いたのだが、岡島さんの家だというと、河合さんはどこにいてもすぐに迎車してくれたのだという。河合さんのタクシーで出かける時というのは、荷物がちょっと多い旅行の時などが多かったから、河合さんの姿と笑顔は、うちのきらきらした楽しい思い出と共にある。
 河合さんは引退されてしまったのか、そのうちに姿を見ることは無くなってしまった。よくご家族の話をされていたから、きっと隠居されて楽しく暮らしておられるのかなと思う。
 アプリになるとさすがにこんなふうな思い出はできないわけで、そこはひとつ、こんなほんの10年くらいの間だけれど、世の中の風景として変わったことなのかなと思う。

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