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苦手なアルトサックス

 サックスと一口に言っても、いくつかの種類がある。ソプラノサックス、あるとサックス、テナーサックス、バリトンサックスなどだ。自分は主に、バリトンサックスを吹いている。
 と言っても、トリッキーなバリトンサックスだけしか吹いたことがない人というのは稀で、大抵はアルトやテナーでサックスを始めてからバリトンに転向したり、バリトンを吹きつつもアルトやテナーを並行して使い分けることが多い。サックスというのはどれか一つ吹ければ大体他も演奏できる楽器だからである。
 自分もご多分にもれず、アルトサックスで楽器を始めたし、長いことアルトとバリトンを時と場合によって使い分けて併用してきた。

 ところが、ここ数年は9割以上バリトンしか吹かなくなってしまい、アルトはほとんど出番がなくなってしった。年一回演奏するかどうかという具合である。
 一つには、アルトは他にも演奏する人が多いので、上手い人もいくらでもいるが、バリトンはそもそも吹いている人が少ないので、その分使ってもらえることが多いからである。

 そんなわけで、アルトもアメリカンセルマーのマーク6という相当いい楽器を持っていたのだが、こんなに吹かないならと、先日知り合いに売却してしまった。

 と思ったら、売り払ったほんの1週間後に、急にアルトサックスで本番の演奏をすることになってしまった。あんなにも吹く機会がなかったというのに、楽器がなくなった途端、因果なものである。
 さあ困った。まず楽器をどうしようという話だが、これは実はもう一本古い国産の楽器を持っていた。さっきの世界的名器は瞬殺で売れたが、こちらは売るに売れず手元に残っていたのである。学生向けというほどではないが、ヤナギサワのエリモナというまぁ知る人ぞ知る的な80年代の楽器である。

 さらに、自分が使っていたマウスピースだのなんだののいいやつも一切合切その売り先に渡してしまっていて、手元には有り合わせのものしか残っていない。
 仕方ないので、とりあえず残っていたリードやマウスピースと楽器を持ってリハに出かけた。

 ところが、これが調子いい。
 こんなに楽に吹けたんだったろうか。音も抜けている。前まであんなに楽器やらマウスピースやらこだわっていたのだが、なんだかその時よりもいい意味で力が抜けているような気がする。不思議なものである。
 結局、いい感触のまま今日本番を迎え、最後までバテることもなく、まぁまぁいい感じでステージを盛況のうちに終えることができた。もちろん細かいミスみたいのはいっぱいあったと思うが、いわゆる無事つとめを果たした感の満足度は高いし、何より自分の演奏を俯瞰で見れていたというか、全力100%演奏することにしか意識が向かずに我を忘れて力んで潰れる、というような状況ではなかったと思う。

 結局、色々大事にしていたものが全部なくなってみて、改めてゼロから違うものを否応なしに扱い始めたら、結果なんだかひとつ違う世界がひらけてきたみたいな、そんなあるようなないような話でした。

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 関係ないのだが、昨日会社にiPadを忘れてきてしまった。
 だから何かということなのだが、実は譜面が全部iPadに入っているのだ。
 これも困った。
 しかし会社に取りに行くのは異常に面倒くさい。そしてライブは今日だ。
 どうする。どうする大源太。会社に取りに行くのか、行かないのか。
 結果、行かなかった。やっぱり、休みの日に会社に行くというのはなんだか神聖な休みが汚れてしまう気がする。
 本番はどうやって乗り切ったかというと、プリミティブに「頑張って覚えた」。
 なんとなく怪しかったところを頑張って行きの電車で聴き込んで、あとはなんとなくのステージの雰囲気で、「次キメ行くのね」みたいな感じでやり切った。
 これも、頑張ればなんとでもなるものである。おそらく、お客さんも「あああの人は譜面の入ったiPadを忘れてきたんだな」とは思わなかったに違いない。


これが売れ残って今回大活躍したヤナギサワエリモナ
このエンブレムが特徴
ちなみにこっちは売却したアメリカンセルマーマーク6。
やっぱりこっちの方がラッカーの色も重厚感あってかっこいいですね。

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