見出し画像

悪ふざけを“パフォーマンス”と誤認するMリーグの問題点とは

「熱狂を外へ」二年目を迎えたMリーグの本気

昨年、サイバーエージェントの藤田晋社長がチェアマンとなって発足した、企業スポンサーによる麻雀界史上最大規模のチームリーグ戦「Mリーグ」。二年目の今年は、開幕時に藤田チェアマンが話した「熱狂を外へ」というスローガンのもと、ファンサービスも重視した施策が取られているようです。ダイジェスト番組「熱闘!Mリーグ」の地上波放送開始、チームごとでのライブビューイングといったファンイベントの増加、一部ゲームの土日開催(既存団体のリーグ戦もあり、土日開催は調整が難しい)などなど……。

しかしそんな中、筆者としては看過できない出来事がひとつありました。それは「麻雀格闘倶楽部」チーム選手による、対局直後のパフォーマンスについてです。

10月22日の第1ゲーム、前原雄大プロはオーラスで微差の2着目だったところから、自身の雀風らしい強引な仕掛けで2000点をアガり切り、見事に勝利しました。いつもの対局終了後の前原プロといえば、激闘後の疲労もそのままに、虚空をただ茫然と眺めていたりして、その異様な様子は「熱闘!Mリーグ」でも話題になっていたのですが…今試合は少し違っていました。

突然、右手の人差し指を天にかざした

勝った直後、いつものように目線を上へそらし、虚空を見つめていた前原プロですが、その呆けた表情のまま、おもむろに右手の人差し指を上に向けたかと思うと、座ったまま仰反るようにして、天に指をかざすポーズを決めたのです。

ネットやSNSでは「『北斗の拳』に登場する“ラオウ”のようだ」「素晴らしいパフォーマンス」と称する意見もあった一方で、「対局者をバカにしている」「見ていて不愉快だ」という意見も多く見受けられました。実際問題、同卓していた対局者も、どういう表情をしていいか困っていたようです。

サッカーの選手のように、歓喜のあまり喜びを天に捧げたというような感じでもなく、また勝利を視聴者にアピールするようなカメラ目線でもありません。ただただ、ぼんやりと虚空を見つめて右手を上げるだけ。もちろん、宗教的な儀礼といったものでもないでしょう。

つまり、そのポーズに何の意味もないのです。視聴者を意識したというよりも、前原プロは「面白そうだから」「またみんながネタにしてくれそうだから」とやっただけではないでしょうか。少なくとも勝った喜びから思わず取ったポーズだったとか、サポーターを鼓舞したパフォーマンスではありません。はっきり言ってしまえば、ただの「ウケ狙い」です。多くの視聴者から不満の声が上がったのは、真摯に対局へと向かい、敗退した同卓者への挑発行為に見えたからでしょう。

Twitter上で不満を表した筆者に、「日本の野球では許されているガッツポーズも、大リーグでは“相手に対する挑発”として許されていない。結局、それぞれの人の捉え方次第だ」とふっかけてきた方もいました。しかし、真っ向勝負の末に生まれた感情の発露であるガッツポーズと、「勝ってこんなポーズしたらウケるかも」で生まれた悪ふざけな振る舞いを同一線上で語ることに、何の意味があるのでしょうか。少なくても「熱狂を外へ」と標榜するMリーグにおいて、初見の観戦者に誤解を与えそうな行為をそのまま放置すべきではないのではないか――。

“エンタメ”と“悪ふざけ”を同一視するな

しかしゲーム終了後、前原プロが所属する「麻雀格闘倶楽部」チームのオフィシャルTwitterでは、下記のような驚くべき見解が示されました。

・終局挨拶後であり、ルール上の問題はない。
・パフォーマンスは、エンタテインメントとして歓迎。
・常に相手への敬意を欠く行為は当然NG。
→今回挑発等の意図はないが、不快に感じた方がいたことには、これまで、そして今後の前原選手含めチームの言動から理解を頂けるよう努力する。
https://twitter.com/mfcmleague1/status/1186640035006894081?ref_src=twsrc%5Etfw

まず、“終局挨拶後であり、ルール上の問題はない”は論外です。極端な話、終了後に同卓者の態度が不遜だろうが、その態度に腹を立てて同卓者をぶん殴ってしまおうが、ルール上は「抵触」しません。

そして二番目にある“パフォーマンスは、エンタテインメントとして歓迎”という一文。これにはさすがに首をかしげざるを得ません。先にも触れたように、あの意味不明なポーズにどんな「エンタテインメイト」が成立しているのでしょうか。

皆さんは、あの「虚空を見つめながら天に指をかざす」ポーズをカッコいいと思いますか? 雀荘で麻雀を終わった後に真似してみたいと思いますか? パフォーマンスというのであれば、多くのファンから支持されるよう、カッコよく決めることが重要です。苦笑・冷笑・失笑混じりにイジられることを目的とした“さもしい”振る舞いを「エンタテインメイト」として奨励する……何か間違ってはいませんか?

結局これは、挑発行為とも受け取れるウケ狙いの悪ふざけを、競技後の行為とはいえ、そのまま許容すべきなのかどうか……その一点につきます。「パフォーマンスの是非」というスポーツエンタメ論とは切り離して考えるべきです。

たとえば、天に指をかざすポーズを、視聴者やサポーターへのアピールとして、カメラに向かって行っていたのならどうでしょう。もしくは、笑顔のまま拳を突き上げるようなガッツポーズをしていたとしたら? そのポーズを取るまでの過程や意図によっては、パフォーマンスの是非をエンタメ論の俎上に載せる余地もあると思うのですが……。

「挑発の意図なし」チーム公認ポーズの不可解

さて、さらにチームの公式見解を見ると、最後に“今回挑発等の意図はないが、不快に感じた方がいたことには、これまで、そして今後の前原選手含めチームの言動から理解を頂けるよう努力する”という素っ頓狂な理屈で、自ら認めた“不快”なポーズの「追認」を図っています。

Mリーグを世間へ広めるには、初見の方へのアピールが最も大切です。Mリーグを見たことがない人たちは、当然“チームの言動”など知りません。情報のない人間を誤解させると自ら認めているのに、なぜそんな醜悪なパフォーマンスを許容するのか……ちょっと理解できません。

自分たちの行為が、初めてMリーグを観戦した人に「プロの麻雀ではバラエティ番組みたいな悪ふざけもOKなのか」という誤った情報を伝える可能性に気づいているのでしょうか。これは、間違いなくMリーグ発展にとって大きな障害になると断言できます。というか、麻雀そのもののイメージに悪影響を及ぼしかねません。

Mリーガーに選出された麻雀プロの矜恃とは、長年リーグ戦で培った技術や品格をMリーグというメジャーシーンで披露し、世間を魅了することです。大きな舞台に浮足立ち、奇をてらう行為で道化師として衆目を集める――それがあなたたちの言う「エンタテインメイト」なのか。

“悪ふざけ”の連鎖は続く――Mリーグの問題点

その後前原プロは、10月29日、11月5日のリーグ戦でも勝利し、あのパフォーマンスという名の悪ふざけポーズをそこでも披露します。さらには、11月11日のリーグ戦では、チームメイトである佐々木寿人プロまでもが、対局終了後に前原プロと同じポーズで勝利を誇示してみせたのです(しかも二回も)。

前原プロだけではなく佐々木プロもこのポーズをしたことに、個人的には衝撃を受けました。誰もこの悪ふざけに疑問を抱かない――実はここに、今のMリーグの一番の問題が潜んでいるのではないかと思います。

常識のある人間ならば、運営なり、他団体の選手なり、マスコミなりがこの無礼なポーズにストップをかけるはずです。そうはならずに「暴走」が連鎖していくのは、「麻雀を世間へと普及する」というそもそもの使命を見失い、「面白ければなんでもいい」という誤ったエンタメ論にみんなが陥っているからです。Mリーグという大きなステージに舞い上がり、全員が前後不覚の中毒症状に襲われているといってもいい。

ある意味、競技麻雀の世界は、会費を払ってリーグ戦に参加して、終わった後は打ち上げでシャンシャンという、大学サークル的なムラ社会で形成されたマイナージャンルです。この「なあなあ」なノリから脱して、麻雀がメジャーシーンへと羽ばたくために、藤田チェアマンが東奔西走して成立させたのがこのMリーグなのですが、どうもスタッフのほとんどがそんな麻雀ムラ出身ばかりで、その「大志」を理解していないように思えてきます。

スタッフもがんばっている、選手もがんばっている……知ってます。だから言うのです。その歩いてる道は本当に正しいのか、と。

今こそ問われるMリーグの「自浄作用」

流されやすい「負のエンタメ論」に埋没するのではなく、麻雀プロフェッショナルとしてポリシーを持ちながら前進しなければ、メジャーシーンの道などすぐに閉ざされてしまいます。

10月29日の第1回戦、デビュー戦だった丸山奏子プロが奇跡の大逆転勝利を演じて、「麻雀エンタテインメイト」のいいお手本を見せてくれたじゃないですか。視聴者を熱くする闘牌こそがMリーグを支える根幹のエンタメであり、それこそが藤田チェアマンが外へ伝えようとしている「麻雀熱」なのです。うすら笑いでネタにされるパフォーマンスに、熱さなどどこにもありません。

二年目を迎えたMリーグ。「視聴者を楽しませるために」という耳障りのいい言葉に流されず、自分たちが今まで歩んできた競技麻雀プロのプライドをいかに守っていくか。その「自浄作用」が実は問われていることに、何人の方が気づいているのでしょうか。

真のファンサービスとは、その麻雀の「熱」を余すことなく伝え、ファンを感動させることであり、上辺で取り繕ったエンタメ論ではないことを、今こそ関係者は知るべきではないかと思います。

(了)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?