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プロダクト人間がコンサルをやってる理由

※この記事はリンクトイン上に書いた"Why is this product guy doing a consulting business?"の本人が和訳・加筆したものです。

「スケールしないことをやれ」(原文和訳)いうのは、ポール・グレアムのエッセイの中でも大好きな物の一つです。

ポール・グレアムはYコンビネータを設立し、ファイブスターズ(*)はそこから生まれました。ファイブスターズ草創期の頃から私を知っている人は、私がスケールするプロダクトを創ることに情熱を持っているのを知っています。ファイブスターズ時代、エンジニアだった私は、たった一人でタブレット製品を立ち上げました。最初は何もリソースがなかったのでデザイン、サポート、セールスの役回りまで買って出ました。それは同スタートアップにいた期間で、一番孤独で、耐えきれないほど苦しい年月でした。それから何年か経ち、情熱的で才能あるたくさんの人々の助けを借りて、製品は全米50州で1万以上の店舗で数千万人に使われるまでに成長しました。

* ファイブスターズ:2011年にYコンビネータを卒業して出発した顧客ロイヤルティスタートアップ。ハーバーベスト、メンローベンチャーズ、DCMといったベンチャーキャピタルから合計で約120億円を調達し従業員300人規模の会社に成長。2018年には時価総額ベースでYコンビネータポートフォリオのトップ3%に入った。

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それならば何故、私が次のステップとして、シリコンバレーで主にアメリカ企業を相手としてコンサルティング&サービス会社、ANELENを始めたのでしょうか?第一の理由は、顔の見えるところで人の役に立つのが好きだからです。でも、もう一つの意図があります。それは私はスティーブ・ジョブズではないので、人と会って皆の問題や痛みをよく理解してからでないと、良い解決法に辿り着けないということです。業務を通じて、一人ずつ助けてゆく。そしてある日、人々の痛みに共通点を見出し、より多くの人々を一斉に助けるエレガントなシステムを発明するかもしれない。

何年ものスタートアップ経験で気づいたのは、起業家が製品アイディアを思いつき、それが何百万人の人々の役に立つまでになる確率は、起業家志望の人数と比べると非常に小さいということです。殆どのケースは最初のハードルを超えないでしょう。そのハードルとは、たとえ資金調達に成功しても「人々が欲しいものを作る(**)」までに至らないという意味です。私達が思う以上に、往々にして起業家は頭でっかちになり、ありもしない問題をでっち上げて、それを解決しようとするものです。彼らの本当の問題点は、そもそも彼らの言う「問題」が実在しないことなのです。

** この言葉もポール・グレアムのエッセイから: Be Good(善くあれ, 原文)

実在する問題を見つける確率をあげるには、痛みを抱えている人と会うことです。コンサルタントとして、私は問題が解決するならお金も払う、という人々と出会います。私は彼らを助けるために大きな努力を払います。自分の仕事に対し、フィードバック受け、時にはダメ出しをうけることもあります。しかし私はより良い解決策をもって必ず戻ってくる。そうして人々の笑顔を見れたとき、自分の仕事がどのくらい価値があったかを知るのです。その繰り返しから、同じソリューションを待ち望んでいる人々が世の中にもっといる事を学ぶかも知れません。

「コンサルティングはスケールしない仕事の典型的な例です。」とグレアムは冒頭掲げたエッセイに書いている。「(自分の好意を惜しみなく与える他の方法と同様に)対価が支払われていない限りコンサルティングは安全です。これは企業が最後の一線を超える場面です。顧客を特別に気遣う製品の会社である限りは、たとえすべての問題を解決しなくても彼らはとても感謝します。しかし顧客がその気遣いへ明確に支払いを始めるとき、つまり時給で払い始めるとき、彼らはあなたが何でもやってくれると期待します。」(前掲和訳記事から改変)

グレアムの書いていることは、主業務がコンサルティングの会社にとっても非常に重要なことだと思います。サービスを時給換算にした途端、それはコンサルティング会社でなく、スタッフ派遣会社になってしまいます。時給(コスト)ではなく、生み出される価値こそが値決めの際の議題でなければいけません(***)。そうすれば、次に似たような顧客が現れた時、前回ほどの汗はかかずとも、同じ(もしくはそれ以上の)価値を届けることに挑戦できるのです。結果として会社がコンサルティングビジネスに留まる事となる場合でも、自社ソリューションの「プロダクト度」が段々と高まっていくでしょう。

*** 私の母国(日本)で多くの人が、高いクオリティのサービスを無料で受けられて当たり前、という態度なのには辟易しています。

もし私が人々に共通する問題を発見してスケールする製品を創れずに一生を終えたとしても一向に構いません。サービスを通じて、皆をひとりずつ幸福にしたと胸を張って言えるからです。たった一つの笑顔には百万の笑顔と同じだけの価値があるのです。

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