藤井聡太のはなし

藤井聡太が最年少五冠で話題になった。複数人から聞かれたので、藤井聡太について思ったことをまとめておく。

藤井聡太が強いのは、4、5年前から知ってることで、五冠は驚くべき結果ではない。むしろ、将棋のファンからは、「やっとか」と思う人もいるだろう。そのくらい藤井聡太の強さはデビューからずっと隔絶していた。

29連勝ほどのインパクトのある連勝はないが、生涯成績が八割を超えていて、ずっと勝っている。勝ち続けている。いつ見ても勝ってる。

誤解を恐れずにいうが、そもそもに将棋というゲームは、実力が全てではない。

例えば、もっとレベルの低い話で、僕なんかが将棋を指す時は、一か八かの選択も多い。将棋には制限時間がある。結局はどこかで最後まで読み切ることができず、妥協することとなる。最初から一番最後の手まで読み切ることは人類にはできないのである。

将棋には指運(ゆびうん)という言葉がある。難しい局面で、確信が持てずに選んだ手が、結果的に勝利に結びついた時などに、「指運がよかった」というふうに使う。

もちろん、サイコロ転がして出た目で指す手を決めるわけではないので、ある程度感覚的に良さそうな方を選ぶことになる。そのため、実際には完全な運とは違うが、しかし意図しないところが勝敗につながるということは、よくあることである。

そういった理由で、将棋は実力差が覆りやすい。聞いた話では、実力が2段上くらいの相手ならば、4回に一回くらいは勝てる。それぐらい、弱者にもチャンスがあるゲームなのである。

こういう将棋に対する理解を持つと、藤井聡太がどれほど恐ろしいかわかる。

安定して勝つことが難しい将棋において、安定して勝つことができている藤井聡太は、それだけ普通じゃない強さを持っているのである。

藤井聡太はいつでも強いが、持ち時間が長い将棋とタイトル戦のような番勝負の将棋がめっぽう強い。

その理由は、藤井聡太の特徴にあるのではない。強いていうならば、藤井聡太が強いからである。むしろ長時間や番勝負以外の将棋には、制度的に実力差を覆せる可能性がある。

将棋の大会は基本的にトーナメント形式である。タイトル戦は、そのトーナメントの優勝者と前年度王者と番勝負(3、5、7)で決着をつける。

必然的に、いろんな大会で勝てば勝つほど対局が増え、逆に弱い棋士は対局が少ない。

将棋は初見殺しゲームである。将棋AIが人間よりもずっと強いから、例え藤井聡太であれ、AIと戦うと(おそらく)負けるだろう。そのため、藤井聡太との対局で起こりうる変化を、きちんと事前にAIで調べておき、藤井聡太が知らない変化に持ち込めば、力量差に関係なく有利に進めることができる。

しかし、初見殺しゲームといったように、その研究で完璧に不意をつけるのは、一度きりである。
何度も勝ちまくり、年間の対局数の多い藤井聡太が毎回新しい手を準備するのは不可能である。

逆に対局数の少ない棋士は藤井聡太と当たることになると、人生の大一番とばかりに、きっちりと準備をして臨むだろう。対局数の多いトップ棋士でもそうである。藤井聡太に勝てば、それだけで話題になるほどに、注目が集まる対戦なのだ。出る杭は打たれるのである。

持ち時間が長時間だったり、番勝負であったならば、罠を回避したり、多少の不利を実力差で誤魔化したりすることができるが、短い将棋だとそのまま終わってしまうことも少なくない。

そんな中で、藤井聡太は勝ち続けている。それが恐ろしい。

それも、まだ全盛期ではないだろう。その理由が5冠である。今後、タイトル防衛線が増えることになるのだ。

藤井聡太が長時間と番勝負強いことは先に述べた。自力が強いため、マグレの一発をもらいにくい制度の対局が強いのである。ならば、今後どうなるか。対局が長時間&番勝負ばかりになり、ますます手のつけれない怪物になる。

藤井聡太はいつのまにか主人公からラスボスになってしまった。誰か彼の無慈悲な快進撃を止めてくれと、祈るばかりである。

ところで、藤井聡太って何故かフルネームで書きたくなるよね。聡太がいい名前すぎる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?