悪寒

 悪魔が街にやってくる。新聞配達の少年はそう呟いた。コタンは笑い、誰かは悲しむ。モーゼとアイロンが乾き、水を欲する。しばし、矛盾した思想を持つ老人どもが意味のない葬儀の列を作る。なあ、次はだれが死ぬ? 君はちょうど村から外れた家で特等席を待つ。死ぬならちょうど今がいい。誰かがそういった。筋肉質なラテン系の兄貴はチャンドラーを読んでいる。失語症の彼らはそうやって治療を続ける。さあ、悪魔が来るまでの前座に売れないパンクバンドの演奏はどうだろうか。君はどうだろう? 興味はあるかい? ジェシー先生の推薦でそのバンドが街に来ることになった。じゃあジェシー先生の推薦で悪魔祓いも呼ぼうということになった。君はぼろぼろのスニーカーでジェシー先生のところまで駆ける。冬だった。足が雑踏の影を踏む。手が悴み、真っ赤になる。道の途中で悪魔とすれ違う。なあ、悪魔、お前が真実を知っているのか。君はつぶやく。君はもう、君は、もう、疲れた。だから暫く眠る。書き終えた小説を持って作家はペンを落とす。君は目を覚ます。この街は台北に近い。

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