ぼくの叔父さん

 ずいぶんむかしの話になるが、ぼくには叔父がいた。フランス風のファッションでかろやかなステップを刻みながら、颯爽と部屋を自由に移動する。それが、ぼくの叔父だ。あるとき叔父はぼくの財布から三千円を平然と抜き取り、こう呟いた。
「源ボウ、数学教えちゃるけん、これその塾代なあ」
 どうせ酒代にすべて使うんだろなあ。そして叔父は数学のスの字もわからないとんでもない馬鹿であるときている。これにはぼくもカンカンに怒って母親にチクった。母は自身の弟である叔父に厳しく「あんた源から三千円パクったね。いい加減にしなさい、もう出ていきぃ」と言った。
 叔父は真冬のチワワのように震えながら泣きながら家を出た。
 翌日、交番でお巡りさんと仲睦まじく話しているのを近所の人がみかけて、またぼくの叔父さんは部屋に転がり込んできた。
 これが僕の叔父さんである。もう、いない。

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