日記

 僕がたとえば女子高校生とすれ違う。するとあの日が蘇る。耳の底では執行人が僕に自殺を促す。遺言は2通、処刑台のスイッチは3個あって、どれかを押すと、次には首を吊った僕のシーンが挿入される。あの日の話をしようと思うと、サイレンが鳴る。すると、レコードが現れる。レコードは無秩序を好む。ビートルズの叫び声。ロックンロールの衝動。君に再びあの日の話をしよう。あの日僕は毎日ようにクラスメイトの女子から執拗なイジメを受けていた。生々しくてあまりこんな場所で言えるような内容でない。酷い。特に1番辛かったのは昼休みだった。あいつらはこぞって群れから外れた子羊を笑う。あいつらの弁当のミートボールが転がり、僕の股間に直撃した時なんかは、キンタマ!キンタマ!なんて笑われたれしたなあ。あいつらは小型の監視カメラを僕の家の周りに設置して毎日僕のことを監視していた。録音機も付いていたんじゃないかな。家に帰ると、僕はエレキギターを孤独に弾いていた。僕は爆音をあいつらに聞かせてあいつらの鼓膜を破るために何度も何度もノイズミュージックを弾いていた。しばらくして僕は学校には行かなくなった。そして退学した。高卒認定をもらうために図書館で勉強したり世界の文学を味わいつくした。あるとき、図書館でひとりで黙々と読書に集中していた。ちょうどジュネ全集の第3巻を読み終えた頃に母が死んだ。叔父から電話がかかってきたのだ。母は毎日Twitterで闇ツイートを呟いていた。父は僕が幼い頃にバイクに乗って空を飛ぼうとして死んだ。ライト兄弟に憧れていたそうだ。そう、もう、こんなザマなのに、僕はいまを生きているんだ。医者からはあまり人と接触するような仕事はしないようにと厳しく言われてて、だから君に話しかけている。君のような優しい人に話しかけている。しかしあまり誰にも優しすぎるとかえって僕のようにいつか攻撃してくる害虫に目をつけられるんだな。いつかバンドを組んで空を飛びたい。そのためにたまにひとりでディズニーランドの絶叫アトラクションに乗って死を夢想する。死は怖い。と夢想するたび思う。死にたくないよ。生きているのも辛い。保険の事とか、電気代の事とか、すれ違う女子高校生の事とか、考えると頭が痛くなる事がたくさんあって辛い。薬を飲む。銭湯に行く。食べた肉を吐く。トマトケチャップのような色をした僕の血も一緒に吐くとスッキリして、そんな時には君に電話をする。「いつでも電話待ってるよー」なんて言ってた君の優しい笑顔を思い出す。僕は誰と話しているのだろうか。君とは誰なのだろうか。掴めないものが掴めたり、見えないものが見えたり、聞こえないものが聞こえたりするんだよな。そうやって君は言い訳を繰り返して今を生きようとしているんだな。

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