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そっちがキミのメインルート#3

長い時間迷っているダイジョーブタを見て、
「そんなに慎重にならなくてもいいのに・・・」
とフー子は心の中で思いながら、どうにか説得しようと試みた。

「会社の同僚の女性がね、このあいだ上級者ルートを登ったんだって。
 滝のそばを歩いたり、ハシゴとかガレ場もあるみたいだけど、
 全然問題なかったって言ってたよ。
 大人はだいたいこっちなんだし、早く着くし・・・」
「でもフーちゃんはその人と同じじゃないでしょ?最近疲れているって
 わかってるんだから、こっちにしよう」
「うーん・・・」
半ば強引にダイジョーブタに初心者向けのルートを選択されて、
不満気味なフー子だったが、最後には分かった、と
初心者ルートに向かって登山道を歩き始めた。

「フーちゃん、最初から飛ばし過ぎじゃない?」
フー子の背後からダイジョーブタが声をかけた。

「でも、こういうゆるやかな道で時間を稼がないと、
上級者ルートよりもだいぶ遅くなっちゃうよ!」
「登山って、最初から飛ばすと、あとがバテバテになるんじゃない?」

ダイジョーブタは一歩一歩踏みしめるように歩いているが
反対にフー子は先を急ぐように大股で歩いている。
「私、結構体力あるかも・・・ダイジョーブタ、先行くね!」
そう言ってスピードを上げていくフー子のことを見つめつつ
ダイジョーブタは道端の花などを眺めながら自分のペースで歩いていく。

登山口から登り始めて30分が経ち、マイペースに登っていたダイジョーブタ
の視線の先に、切り株に座って休んでいるフー子の姿が見えてきた。
「おまたせ・・・フーちゃん!?」
ダイジョーブタが近づくと、フー子はぐったりしたまま下を向いている。
「大丈夫!?」
「うん・・・やっぱり最初に飛ばしすぎたかも・・・」
「お水、飲んだ?」
「もうなくなっちゃった・・・。荷物は軽い方がいいかと思って
小さな水筒しか持ってこなかったんだ・・・山ガール失格かも」
フー子のそばに、空になったドリンクが置いてある。
「多めに持ってきたら、ひとつあげるよ」
ダイジョーブタがリュックからドリンクを取り出して、フー子の目の前に置いた。
「ごめんね・・・簡単なルートの方でこんなにバテちゃうんだったら、
もうひとつのルートを選んでたら絶対に途中で引き返すことになってたね」
「途中で引き返してもいいんだよ?頂上に行くことが目的じゃないんだからさ。でも、やっぱり自分の体力にあった登り方をした方が楽しいよね」
「たしかにそうだね・・・」
しょんぼりするフー子を元気づけようと、ダイジョーブタは笑顔を見せた。

「でも、ここで休んだから見える景色もあるよ。
ほら、フーちゃん。顔をあげて?」
ダイジョーブタが指差す方を見ると、木々の隙間から遠くに湖が見えた。
「わ!まだたいして登ってないと思ったのに、もうこんなに高いところまで来たんだ〜。湖もきれい・・・」
「ここまで登るのも、ずいぶん頑張ってきたよね。
 それにね、こっちの湖は上級者ルートでは見られない景色なんだよ。
 こっちでよかったね!」
でも・・・とフー子は口を開いた。
「あっちのルートの方が、時間短縮で行けるから、達成感も大きい気がするんだよね・・・」

腕時計を見ながら、フー子は登山口にいた同世代の女性チームのことを
思い浮かべていた。

「人は人、比べるのは意味がないよ」
「そうだね・・・。あんまり休みすぎても体がなまっちゃう。
 そろそろ出発しなくちゃ」
「そうそう。休み時間は短めにしないと、気持ちも切れちゃうから」
ダイジョーブタに分けてもらった水を一口飲んで
「まだまだ先は長いしね!」
と一歩踏み出した。

                             <つづく

イラスト:かわい ひろみ
物語作 :今西  祐子

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