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読書感想文

・はじめに

 読書感想文という字面を見て、小学校時代の頃を思い出した。夏休みが終わる時期にもなってきたので、今ここに書き綴ろうと思う。小学校時代の夏休みと言えば、宿題がつきものだ。夏休みの友という問題集、図画工作、ポスター描画等、宿題は早めになんとかこなしていたが、その中でも読書感想文が1番嫌いだった。理由は単純。自分で文章を考えるのが嫌いだったからだ。今でこそ暇さえあればこのように文章を書き綴っているが、当時の私は文章を0から自分で考えて書かなければならないことに億劫さを感じていた。

・「何書けばいいんだよ〜!」

 読書感想文なのだから読書をして自分がどう思ったのかを書き綴れば良い。それが読書感想文だし、そう書けば誰でもできそうな気分になる。しかし、好きでもない本を読んだところで特に感想など思い浮かぶはずもない。好きでもない本を読む時間、それに対して思ったことを脳みそから絞り出す時間、それぞれに苦痛があったように思える。苦痛の中で文章を考えている間に、時間だけが無駄に過ぎてゆく。

・「何にも思うことなんかないんだけど……」

 小学校低学年のときに母からこのような助言を貰ったことがある。文章だけだと必ず飽きがくるから想像力を膨らませる為に、情景をイメージしろというものだ。絵はこのときから描くのが得意だったから、言っていることはよく解るし、その場面に於ける情景のイメージは容易だった。それでも飽きがくる。何故ならば、情景をイメージしたところで特に何も思うことがないからだ。何も思わないので登場人物に対する感情移入も無いし、どこで時系列が切り替わったのかもイメージが遅れがちになる。どこで時系列が変わったのかを確認している間に、読書中に読書以外の目的を達成したときに精神的に疲れてくるので集中力が無くなるといった具合だ。

・「えッ?どこまで読んだっけ?」

 0から文章を書き上げることが億劫だった理由は、「文章を読み上げる段階で何度も必要事項を確認しなければならない」ところにあると思われる。そして、必要事項を確認し終えて、続きを読もうとしても、どこまで読んだのかを忘れてしまっていることもある。必要事項の確認と情景のイメージを同時に行うことの困難さが、読書感想文が苦痛であったことに拍車を掛けていた。クリエイティブな仕事を昔からやりたがっていた身分としては致命的だ。とにかく集中力が分散しやすいのが読書感想文である。その結果、ろくな文章が思いつかないままグダグダと鉛筆だけが動き続け、読書感想文が酷いものに仕上がっていく。

・「これ読書感想文じゃないじゃん!」

 私の家庭では読書感想文を書き終えたら、まずは母に見せないといけなかった。私の読書感想文は1発で終わることは無く、毎年母に見せる度に「これ、読書感想文じゃないじゃん!」と怒られていた。先述の通り、何も考えないまま文章だけ適当に書いているので、文章に自分の感情が無い。読書感想文ではなく、話のあらすじだけを書き綴っていた。

 今思えば、確かにこんな文章では怒られても仕方が無いと納得できるが、同時に、感情の無い文章は書き綴るのが苦痛だったのであらすじに頼ってしまう小学生時代の私の気持ちも理解できてしまう。怒られた後に読書感想文をやり直さなくてはならなくなった私がイメージしていたのは、物語の情景なんかではなく、出口が見えない狭い道の黒き森。たった800字の文章が、10000字も20000字も書かされているような気分になり、終わる気配がしなかった。それが読書感想文。あらすじに頼った私が悪いとはいえ、読書感想文は楽しいものではなくて、辛くて理不尽なものであることが脳裏に強く焼き付いた。しかし、私も中々懲りなかったので、夏休みの時期になる度に読書感想文を如何にして適当に終わらせるかを考えていた。

・終わりに

 小学校6年生のときのことだ。新学期が始まるときに、読書感想文はどう書いたのかについて友達と話した。その際に友達の読書感想文を読ませて貰った。そして、私は友達の読書感想文に驚愕することになる。

「なんだこれ!ただのあらすじじゃん!」

 そう、ただのあらすじだった。友達は、これを提出しようとしていたという事実に直面する。自分のやっていたことは、なんだったのか。とんでもない虚無感に襲われたのは今でもよく覚えている。それと同時に、あらすじを提出しようとしていた友達が羨ましくも見えた。

 とはいえ、良かったこともある。確かに友達があらすじを提出していて虚無感に襲われはしたが、悪いことばかりでもなかった。中学生になったときの国語の試験では毎度のように文章問題が出されるのだが、苦しくても読書感想文に取り組んでいたお陰か、文章問題で言葉が次々と出てくるのでそれなりには得点稼ぎができた。他の科目で酷い点数を採っても、国語だけは点数が良かったのが救いである。読書感想文はもうやりたくないが、母親からやり直しを食らって嫌な思いをしたのが現在にも繋がっているのは1つの財産となっている。


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