見出し画像

【全文書き起こし】 After 2020に求められる 〈 Be Branding 〉 とは (後編)

こんにちは。AM/D ltd. というブランディングを軸としたクリエイティブエージェンシーでプランナー兼コピーライターをしている金山です。

さっそくですが、宣伝会議主催のイベント「コーポレートブランディングカンファレンス 2018」で話した内容の後編を続けていきますね。前編をまだ読んでいない方はこちらからどうぞ。

〈 Be Branding 〉とは何かをお伝えするにあたって、まずは前編でご説明した3つの価値変容のおさらいから。

こちらがそのまとめとなるスライドです。

画像1

商品やサービスに求める便益においては、市場の成熟、モノ・サービスの飽和とともに、「自分らしいと感じるか」「自分を表現できるか」という自己実現的便益が重要になる。

ブランド認知においては、ネット社会により情報の「透明化」や「分権化」が進み、「企業そのもののあり方」や「経営者の立ち振る舞い」までがブランドとみなされるようになる。

ブランドコミュニケーション面では、時代背景を受けた人々のマインドの変化により、確固たるビジョンを通じた「生きるに値する人生の提案」がこれからの企業におけるブランドコミュニケーションに欠かせないものになる、というお話でした。

そして、このような大きな価値変容を経た時代に必要となるコーポレートブランディングの考え方が〈 Be Branding 〉です、という話の続きですね。後編ではようやく本題に入っていきます。

画像2

さて、この〈 Be Branding 〉という名称ですが、お察しの通り、英語のbe動詞から勝手に拝借しています。学校で初めて習うときに、日本人にとって不慣れな考え方で、いまいち馴染めないアイツですね。(僕はa動詞がないのにbe動詞があることを受け入れるのに数日かかりました。。)

このbe動詞、辞書で引くと、ざっくりこんな感じの意味が出てきます。

画像3

なんとなくですが、「状態」「存在」をつかさどるイメージのある言葉ですよね。どういう状態・存在「である」のか。どういう状態・存在「になる」のか。これを企業活動に当てはめるわけです。

画像4

つまり、先ほど挙げたような時代においては、どういう会社で、どんな “生きるに値する” 世界を創り上げようとしているのか。綺麗ごとではなく、リアリティーを伴う実体、企業の存在意義そのものをしっかりとコミュニケーションしていくことが重要だということ。

前編の中で、確固たる信念(=ビジョン)を掲げ、進むべき道、生きるべき道を指し示し、「私とともに歩もう! これが人間の生きる意義だ!」と旗を掲げてくれる存在、この人(企業)についていきたい、応援したいと思わせてくれる存在になることが重要と説きました。しかし、皆さんの中には、「ビジョンが重要なんていまさら言われたって。知ってるよ、そんなこと」「うちの会社はとっくの昔からビジョンを掲げているよ」と思われる方もいるかもしれません。

しかしそれは、実体の伴わない上っ面の美辞麗句となってはいないでしょうか? 社員全員がその思いを胸に日々の仕事に向き合えているでしょうか? 前編で述べたような世代が中心となる現代社会に、共感を集め、しっかりと呼応する強い志になりえているでしょうか?

当たり前ですが、単にビジョンらしき言葉を掲げるだけでは、誰もついてきてはくれません。そのビジョンを信じるに値すると思わせ、一緒に歩んでくれる仲間をつくること。そのためにはリアリティーを伴う実体、企業の存在意義そのもの、つまり、企業にとっての「be」を強く示すことが極めて重要になってきます。

そして、指し示すにあたっての力点を「be」の活用形をベースに4つの軸に整理して考えたのが〈 Be Branding 〉というわけです。

順を追って見ていきましょう。

画像5

まずは「ストーリー」。企業や商品の歴史や背景にある物語。be動詞では「was」にあたる部分です。

次に、「カルチャー」。企業文化や行動規範といった、企業の「is」を示す軸ですね。

そして「アクション」。「be」を指し示すにあたっての、現在の具体的な取り組み。現在進行系の「being」が当てはまります。

最後が「ビジョン」。創りあげたい未来や存在意義。「will be」で示すことができます。

ストーリーが重要だ、ビジョンが重要だと、それぞれ個別に耳にしたことはあるかもしれませんが、それだけではひとつの人物像、企業にとっての人格にはなりえません。前編で述べたように、それらがなぜ大切なのかということをしっかりと理解した上で、そのすべてを強く明確に打ち出す。これら4つの「be」がすべて重なり合って初めて、信じるに値する強靭なブランドとなる、というわけです。

この4つの「be」を自社に照らし合わせ、そのひとつひとつをもう一度再確認・再整理する。その上で、3つの価値変容を経た現代社会に共感を集め、しっかりと呼応するものとして強く打ち出していく。それが〈 Be Branding 〉。とてもシンプルな考え方です。

僕が実際に携わった事例を2つご紹介しますね。(他にもあるのですが、まだ取り組みとして公開されておらず。。)

画像6

まずは、大島椿さん。創業90周年を迎えた椿油製品のリーディングカンパニーです。椿油を使ったヘアケア・スキンケア商品で有名で、ファンも多い老舗ブランド。これからを見据えて、より広い世代に支持されるとともに、社員にとっても、企業原点を見つめ直し、創業100周年という節目に向け、結束、邁進していくためのブランドアイデンティティの確立に協力させていただいています。

椿の島・伊豆大島発祥、90年の歴史を持つ椿油専門メーカーかつリーディングカンパニーであることや、製品を作るにあたっての精製技術やこだわりなどは「ストーリー」としては申し分のないもの。また、「アクション」として、創業の地・伊豆大島への原点回帰を行なうと同時に、ブランドアイデンティティの強化や社内のさらなる結束にもつながる地域共創プロジェクトをスタートさせたいというところでお話をいただきました。

地域共創プロジェクトのような、大掛かりな「アクション」を起こしていくためには、社内外にその取り組みへの理解を示してもらう必要があります。そのためには、なぜやるのか、すなわち「ビジョン」との一貫性が最も重要。そこで、まずは100周年に向けた「ビジョン」、大島椿として、これから創り上げていきたい未来や自社の存在意義を改めて明確化し、「ストーリー」や「アクション」と一貫性を持って発信していくことから始めました。

ヒントとなったのは、伊豆大島にある地域共創プロジェクトの拠点を関係者全員で視察したときのこと。「プロジェクトスタート後は、桜を守り育てる“桜守(さくらもり)”のように、この拠点を管理していく“椿守(つばきもり)”のような人を設けないといけないね」という何気ない会話でした。もしかすると、椿守の役目は誰かに頼むようなものではなく、大島椿の社員全員がその心を改めて強く持ち、日々の仕事と向かい合うこと。それこそが100年企業となるに向けて、求められていることなのではないか。

そんな思いから、この椿守という、あまり聞きなれない言葉をピックアップ。桜同様に日本を代表する花である椿や、そこから生まれた文化を愛しつつ、後世に大切に受け継いでいく心を持った人物の意味をその言葉に担わせ、「椿守カンパニー・大島椿」として、創業100年に向けたビジョンをまとめ上げました。

画像7

ただ単に商品の製造・販売を行うだけでなく、椿油製品のリーディングカンパニーとしての責任を持って、「あんこさん」に代表されるような日本の椿文化の保存・伝承や、原点・伊豆大島の自然・植生の保護に努めること。それこそが、他のどの企業にも代えがたい、大島椿にしか掲げられない強固でサステナブルな「ビジョン」となります。

社員全員が「椿守」のこころを胸に宿し、椿と椿油から生まれた日本文化を継承していくという、大島椿の「カルチャー」を定義し直すことにも繋がりました。

画像8

100周年に向けた10年がかりのプロジェクトはまだまだ始まったばかり。この4つの「be」をより強く打ち出していくべく、「伊豆大島つばき座プロジェクト」を軸に、社内外への具体的な施策展開をこれから進めていく予定です。

*大島椿さんの「アクション」を代表する具体的な取り組み「伊豆大島つばき座プロジェクト」の詳細はこちらにも掲載しています。まだβ版に近い形ですが、プロジェクトサイトも公開しました。

画像9

続いては、日本瓦斯(ニチガス)さん。関東圏での確固たる顧客基盤を持ち、ICTの積極活用やエネルギー自由化市場への参入など、相次ぐチャレンジングな取り組みで総合エネルギー企業へと転身を遂げています。出川さんを起用したCMでご存知の方も多いかもしれません。

そんな転換期にいただいた、コーポレートサイトのフルリニューアルのお話。事業のさらなる拡大を見据え、企業姿勢や取り組み、目指す将来像を整理し直し、一貫したメッセージのもと、強く世の中に発信していくお手伝いをさせていただくことになりました。

ニチガスさんは非常にはっきりとしたコーポレートカラーをお持ちでした。まず、「ストーリー」としては、60年以上の歴史を持ち、1964年の東京オリンピックの聖火にもガスを提供した老舗のエネルギー会社。「カルチャー」としては、「音を立てて変わろうとしているエネルギー業界で、変えなくていいものなんて、何ひとつない」と豪語し、挑戦と革新の姿勢を貫く和田社長の攻めの経営方針が社内の隅々にまで行きわたっており、実際に「アクション」としても、保守的と思われがちなエネルギー・インフラ業界において、AIやIoTなど、ICTの積極活用・効率化による低価格、優れたユーザビリティーを実現されています。(IT業界出身の僕が驚くレベルでした。)

あとは、それらを横串で伝える「ビジョン」。なぜニチガスは挑戦と革新を続けるのか。どういった世界を創り上げたいという思いで取り組んでいるのか。ニチガスの創り上げたい未来、存在意義を強く打ち出すべく導き出したのが「エネルギーにも、愛とか夢とか、感動を。」から始まる一連のコーポレートメッセージです。

絶えず挑戦と革新を続け、商品・サービスに徹底的にこだわり続けた結果生まれるものこそ、 「愛」や「夢」、「感動」といった、使い手の精神的な充足。これらを「エネルギー」という、これまで遠い距離にあった言葉とかけ合わせることで、エネルギーのこれからを見据えるニチガスの先進性やチャレンジする姿勢を表現しました。

画像10

リニューアル後は、和田社長やニチガス社内のみならず、取引先の方からも好評の声をいただいていると伺っています。

〈 Be Branding 〉の考え方に基づくニチガスの4つの「be」は、ニチガスコーポレートサイトのトップにある「私たちについて」というコンテンツの中で存分に掲載しています。盛りだくさんな内容となっていますが、もしよろしければご覧ください。CMだけでは伝わらないニチガスの人格が透けて見えてくるかと思います。

画像11

エネルギーにも、愛とか夢とか、感動を。これからのエネルギーライフのあり方を創造していく積極的な企業姿勢をビジョンとして掲げ直すことで、4つの「be」、すなわち「ストーリー」「カルチャー」「アクション」「ビジョン」すべてに一貫した太い骨を通し、ブランドの人格を作り上げる。単なるコーポレートサイトのリニューアルにとどまらず、ブランドの考え方そのものからプレゼンテーションし、大島椿さん同様、今もなお継続してお仕事をご一緒させていただいています。

*ニチガスさんとの取り組みの詳細はこちらにも掲載しています。

画像12

さて、続いては、それら4つの「be」、それぞれを考えるにあたり、特に重要となるポイントをご紹介したいと思います。ただ、これらはあくまで一例であり、すべてではありません。また、企業ごとに状況がまったく異なる中、こういった方法論だけでは通用しない具体化の部分をサポートすることこそが僕たちの仕事だったりもしますので、あくまで参考程度に捉えていただければと思います。

画像13

ますは「ストーリー」における重要点から。

歴史や背景にある物語において、自分たちだけでは、本来発信すべき意外な価値を見落としてしまうことがよくあります。第三者視点が重要ということですね。例えば、事例として挙げたニチガスさんも「創業60年以上の老舗エネルギー企業」だけだと「へ〜」で終わってしまうかもしれませんが、「1964年の東京オリンピックの聖火にガスを提供した会社」と一言付け加えるだけで、急に親近感や信頼感が生まれないでしょうか? こういった、一見蔑ろにされがちな情報群の中から価値あるものを発掘し、物語性のある「ストーリー」に変換することが大切です。

ストーリーマーケティングなんかでよく言われることではありますが、無形資産である「ストーリー」は、そのまま企業・商品の付加価値となります。不毛な価格競争に巻き込まれないためにも、しっかりとこの付加価値を見つめ直し、ブランドコミュニケーションに役立てましょう。

画像14

続いては「カルチャー」。

こちらも「ストーリー」同様、第三者視点が重要となります。社内にいると当たり前に感じることにも価値があります。いきなり外部のコンサルに頼らなくても、中途入社メンバーへのヒアリングだったり、まったく別の業界の友人との会話だったり。戦略視点での「自社の強み」とは違い、意外と考える機会のないもの。改めて立ち戻り、自社を見つめてみてはいかがでしょうか。

また、それでも価値が見い出せない、他社と差別化できるポイントが見当たらないという場合も悲観する必要はありません。むしろチャンス。過去(was)は変えられませんが、今(is)は変えられます。変えるべきなら思い切って変える勇気も必要。業界の当たり前を壊して自社独自の企業文化を育てていけば、他社との差別化にも繋がります。

画像15

「アクション」で重要なのは一貫性と継続性。縦割り組織で「アクション」がバラバラ、流行やブームに乗っかるだけ、というのは、典型的なNG例ですね。継続性、やり続けることも重要。残念ながら、少しやってみた程度ではなかなか効果が出ないのがブランディング。長期的な視点を持って、地道に続けていく。

効果を最大化するという意味では、体験型、参加・共創型の「アクション」の仕組みづくりも大切ですね。やってます、であぐらをかかず、失敗を恐れず次々とチャレンジし続けることも重要です。

つまり、数年かけて続けていく覚悟、トップによる経営判断が必要不可欠。大した覚悟もないのにブランディングなんてものに手を出してはいけません。失敗し、お金を無駄にするだけです。

今の時代に必要なのは、フロー型のキャンペーンではなく、絶えず継続して、価値を生活者の中に積み重ねていく、ストック型の「アクション」です。一過性の消費を煽る、時代錯誤な使い捨ての広告キャンペーンなんか今すぐやめて、4つの「be」に投資しましょう。そのほうがよっぽどサステナブルな企業活動に繋がります。

「それだと売上が下がる」という声が聞こえてきそうです。では、今ある数字は純粋な企業と商品の力による売上ですか? ドラッグのような広告宣伝費や根性論の営業消耗戦によって水増しされただけの、亡霊のようなドーピングじゃないでしょうか。ドラッグや根性論を続けていては、人間同様、企業だって体が壊れます。いつ発作が起きるかわからない企業からは、当然投資家も離れていくでしょう。

画像16

最後に「ビジョン」。

こちらも一貫性が非常に重要です。目先の経済、流行、嗜好性に流されていてはダメ。根っこの部分はひとつというのが、大前提です。

また、先ほどお伝えしたように、上滑りする美辞麗句ではなく、社会(コミュニケーション相手)のインサイトを捉え、共感を集め、しっかりと呼応する強い志であることが重要。自社と社会との接点を意識し、点を面に広げていく「アクション」を通じて、確固たる「ビジョン」を世の中にコミュニケーションしていきましょう。

もうひとつは、独自性、唯一性その会社にしか掲げられないビジョンは強いという、当たり前のことですね。それこそ、その企業が社会になくてはならない理由に直結します。間違っても「Innovation for the future.」みたいな、どこの企業でも通用するようなメッセージを掲げてはいけません。グローバル感やダイバーシティー感、テクノロジー感、豊かな自然のある未来と子どもたちの笑顔、などといった映像を、壮大な音楽をBGMにつなぎ合わせただけのハリボテビジョンムービーなんか絶対に作っちゃダメですよ(笑)。最後の最後まで、何の会社なのかわからない、ロゴを競合他社に変えても成立するような"あのムービー"です(笑)。

前編で触れたように、あるいはクラウドファンディングなどで顕著なように、生活者行動は消費ではなく投資や伴走へと変化しています。応援したい、この企業と一緒に歩んでいきたいと思ってもらえるか。そういった意味で、ビジョンを考えるにあたっては、お客様を「消費者」や「生活者」ではなく、「投資者」「伴走者」として見つめ直してみるのもいいかもしれません。

画像17

長くなってきたのでそろそろ終わりにしたいと思います。いまさらですが、改めてブランディングのメリットの部分に少し触れると、価格競争からの脱却、景気や流行の影響減といった「安定的利益の確保」、採用コスト減、社員モチベーションの向上、離職率の低下といった「人的コストの最適化」、社会的信用の獲得、ブランドを活用した協業ビジネス、資金調達コスト減(ESG投資など)といった「ビジネス推進の円滑化」など、様々な面で経営の安定化に繋がるという部分があります。「ブランディングが企業経営そのものになる」などと言われている背景ですね。

しかし、お伝えしたかったのは、これからの時代に生き残るためのブランディングではありません。上のスライドにあるように、今回のテーマの副題は「After 2020. 企業は“どう生きる”のか。」 どう生き残るか、ではなく、どう生きるのか、です

画像18

2018年、「君たちはどう生きるか」という、1937年に出されたような昔の本が漫画化され、前編でお伝えしたような時代背景と相まってベストセラーになりましたが、この流れは決して各個人に限った話ではありません。企業の「生き方」や「人格」までもが問われる時代、企業の生き方そのものがブランドとなる時代が、もうまもなくやってきます

法の上の人、ひとりの法人として、あなたはどう生きますか?

企業そのものに生き方が突きつけられる時代の幕開けです。


<このnoteを書いた人>
Daiki Kanayama(Twitter @Daiki_Kanayama
1988年生。大阪大学経済学部を卒業。在学中にインド・ムンバイ現地企業でのマーケティングを経験。ソフトバンクに新卒入社後、孫社長直下の新事業部門に配属。電力事業や海外事業戦略など、様々な新規事業の企画、事業推進に従事。創業メンバーとしてロボット事業の立ち上げを経験後、専任となりマーケティング全般を担当。2017年、プランナー兼コピーライターとして、活躍の舞台をブランディングを軸としたクリエイティブエージェンシー AMD ltd. に移し、CSVやSDGsに絡んだ新規事業、新商品サービスの企画、自社事業となるSOCIAL OUT TOKYOなどを担当。2020年、ビジネスインベンションファーム I&CO にエンゲージメントマネージャーとして参画。

受賞・入賞歴に、Clio Advertising Awards、Young Cannes Lions / Spikes、Metro Ad Creative Award、朝日広告賞など。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?