お母さんにも見せたことないのに

先週、親知らずを抜歯した。禁煙、禁コーヒー、禁甘いもので5日くらい過ごした。普段たばことコーヒーで無理やり出してるドーパミンだかセロトニンだかが枯渇して、3日くらいの間びっくりするくらいやる気が出なかった。でも、かつてはこんくらいやる気のない生き方をしていたので、憂鬱にはならなかった。

出版関係者って鬱になる人が比較的多くて、自分もいつかなったら大変だってびくびくしてたけど、こういうやる気のなさならいなせそうだなと思った。まあ、本当にやばくなったら堂々と逃げたるわって気概で生きているので、とりあえずなんとかなる気もする。

辛いというほどでは無かったけど、無性に甘いものが食べたくなるのを我慢した。どうやら、枯渇している興奮物質が、甘いものを食べると出てくるからだそう。ここで食べ始めたら、コカインやめてヘロイン始めたみたいな話で、甘いものにはまってしまうかもしれない。この先ずっと禁煙する気もなかったし、喫煙に加えて間食癖までついたらやだなと思って食べなかった。

3日目くらいに、コンビニの甘いものコーナーで3分くらい立ち止まってしまったことがあった。結局なにも買わないで店を出たんだけど、あんな精神状態になったのは初めてだ。耐えきった自分を褒めてやりたい。あそこで買ってたら今頃ヤク中だ。想像で口の中を麦茶の甘みでいっぱいにして、こっちでいいや、と思ったら買う気が失せた。なんでそれで耐えられたのかよくわかんないけど、とりあえず帰って家の麦茶飲んで仕事もしないですぐに寝た。

辛かったことがなかったわけじゃない。抜歯した箇所を縫合したんだけど、それがとにかく臭い。傷口がはやく埋まるように、歯磨きどころかうがいもあまりするなって言われていて、そこから血が腐ったような臭いが漂ってきた。常にうんこを口の中に入れてるようなもの。オエッって何度なったか。

そんな地獄の日々も月曜日で終わった。抜糸してもらったら、うんこもきれいに流れた。もう、本当に不快で、これまでの歯科治療でそんなに辛いと感じることはなかったんだけど、これだけで二度と親知らずの抜歯はしたくないと思った。幸いなことに、残り三本の親知らずは歯茎の奥の奥に収納されていて、恐らく今後出てくることはないだろうとのこと。お母さんにも見せたことのなかった歯は、一生見せず仕舞いで終わらせられそうだ。

抜歯後、例の自信満々の先生から、「これで一通り終わりですね。あとは治療したところに問題が起こらないか、しばらく様子を見ましょう」と言われた。ところが最後に先生がちっちゃい鏡で口内を見ながら「あー」と不穏な声を発した。

「これ、奥歯にほんの少しですけど、虫歯ありますね。来週削っちゃいましょう」

ほんとか……? 僕は今、なんらかの詐欺にかかっているわけじゃないよな。死ぬほど優しい先生からやたら自信満々な先生に変わったってのが、若くてかわいい女の子からヤクザな美術商に変わったみたいな、ラッセン買わされる恐さでいっぱいなんだけど。そもそも18年も歯を放置してたのに、親知らず以外の抜歯をしないで済んだことがおかしい。最終的には全歯撤去してガンプラとかを詰められた挙句、1000万くらい請求されるんじゃないか。

いかん。自分の悪いところが出てる。18年放置したのは自分だ。「let it out and let it in(すべてをさらけ出して、すべてを受け入れろ)」ってスネークマンショーのコントで有名な歌手の人も言ってた。まだ自信満々の先生を信頼しきれないけど、とにかく最後までこの身を任せていこう。Then you'll begin to make it better(そうすれば、良くなっていくはずさ)だ。

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大熊信

上野から浅草通り無限遠

大熊信(だいくましん)。東東京在住の編集者、ライター。たまに写真。cakesやnoteをやってるピースオブケイクという会社にいます。最近聞いた一番面白い話は「"坊主憎けりゃ袈裟まで憎い"の対義語は"シスターのことが好きなので下着をください"」です。
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