便乗ヴィーガン?「アニマルライツセンター」


動物はおかずだ歩き食い祭りの総括」で、アニマルライツセンターという団体がもともとは「ヴィーガン運動」ではなかったことを指摘しました。その点を、もう少し詳しく書きます。

 アニマルライツセンターがヴィーガン運動を標榜しているとは言っても、「ヴィーガン運動がアニマルライツ運動に発展した」のか「アニマルライツ運動が後付けでヴィーガン運動を利用するようになった」のかによって、両者の関係についての捉え方は変わります。そこで、「動物はごはんじゃないデモ行進」を行ったアニマルライツセンター(ARC)が、最初から「ヴィーガン」を標榜していたのかどうか、ちょっとだけ調べてみました。

 2002年、ARCの前代表(創設者)である川口進氏がイギリス発祥でエコテロリスト団体とも言われる「SHAC(Stop Huntingdon Animal Cruelty)」のメンバーとともに順天堂大学の実験用の犬を盗む活動に関与し、2003年に逮捕されています。川口氏は裁判を待たずに亡くなったとのことで、判決は出ていないようです。

 これについてARCは現在のウェブサイトで、こう説明しています。

この事件への前代表理事の関与は、アニマルライツセンターの他のメンバーには何も知らされないままおこなわれたもので、アニマルライツセンターとしての関与はなく、他のメンバーは逮捕も起訴もされていません。https://arcj.org/faq/arcj-9/

 当時、上記のSHACの活動家は日本の5つの大学に侵入し、動物実験の映像を盗み出すなどの活動をしていました。そのレポートは日本語訳されてARCのウェブサイトにも掲載されていました。仮に建造物侵入や窃盗そのものにARCの組織的関与がなかったとしても、それらの犯罪行為を含む活動によって得た情報をARCはしっかり自身の活動に利用し、それをウェブサイトで公式にアピールしていたわけです。


 そのレポートが掲載されていた2002年当時のARCのウェブサイトには、ヴィーガンやベジタリアンを推奨するコンテンツは見当たりません。動物実験やペットに関する内容ばかりで、「畜産」を問題視するコンテンツすらありませんでした。


 2004年に入ると、ウェブサイトに「工場畜産」というコーナーが開設され、そこに養鶏場の不衛生さを指摘する「卵生産地レポート」が掲載されます。

https://web.archive.org/web/20040201052337/http://www.arcj.info/

 ウェブサイト上で畜産関係の問題提起が始まったのはここからです。当初は養鶏場についての記事が1~2本掲載されているだけでしたが、2005年11月頃に「肉食を考える 肉食.com」という別サイトを開設します。

https://web.archive.org/web/20051125144719/http://www.arcj.info/

 「肉食.com」は、動物に対する倫理だとか倫理に基づく菜食といった主張より、「畜産と環境破壊」「食料問題(飢餓問題)」「健康被害(人の健康と畜産)」という、環境保護の視点を前面に押し出したものでした。つまり「人間の都合」を拠り所にした動物愛護です。


 ただし、同サイトは開設時から「今日からできること」として、ベジタリアンやヴィーガンを推奨しています。これが、今回発見できた「ARCが最初にベジタリアンやヴィーガンに手を出した」シーンです(文字通り最初かどうかはわかりません)。


 一方、ARCは同年2006年12月頃に、これまた別サイトとして「ベジガイド」というベジタリアンやヴィーガンの飲食店情報を掲載。ARCのウェブサイトのトップにこのサイトへのバナーが設置されました。

https://web.archive.org/web/20060125023657/http://www.arcj.info/

 ARCは1987年から活動を始め、1999年にNPO法人として東京都の認証を受けています。ウェブサイトは少なくとも2002年から存在していました。

 しかしウェブサイト上で畜産批判や菜食推奨の推奨を始めたのは2006年からです。

 Googleトレンドを使って、日本で「ビーガン」「ヴィーガン」というワードが検索された数の推移を見てみると、増加していったのは比較的最近です。2006年には「ヴィーガン」という単語をウェブサイトに載せていた点でARCは先駆的ですが、「ベジタリアン」については、それ以前から安定して検索されています。言うまでもなく、ARCが先駆けなわけでも何でもありません。

 ARCがウェブサイト以外の会報や内部での勉強会でこうしたテーマを扱ってきた可能性はあります。ウェブサイト内にも、もっとよく探せばそういった痕跡が存在しているかもしれません。

 しかしいずれにせよ、NPO法人化から7年間、サイト開設から4年間も、彼らは畜産批判や菜食推奨を前面に押し出さないまま活動してきました。それがいま、ウェブサイトのトップに「ヴィーガン」と言う単語や、ヴィーガン飲食店案内へのリンクなどを掲載し、「動物はごはんじゃないデモ行進」で「GO VEGAN」などと掲げているわけです。

 「アニマルライツ」や「ヴィーガン」を大雑把に捉えるなら、動物に対する人間の倫理の探求という点で共通しており、全くの別物とは言えないでしょう。歴史的にも無関係とは言えないかもしれないし、実際に活動している人たちが相互に影響しあっているケースは少なくないのではないかと思います。

 しかしARCに限ってみれば、ヴィーガン思想をテーマとして始まった団体ではありません。当初は実験動物やペットなど、「食事」以外の動物の問題に取り組んできた団体です。むしろ環境保護運動的な側面が強い動物愛護運動ありきで、途中から「ベジタリアン」「ヴィーガン」を取り入れていった(有り体に言えば便乗した、利用した)という流れです。

 「標準的ヴィーガン」が「一緒にしないでくれ」と言いたくなるのも当然ですね。

 ただ、ウェブサイトだけで見てもARCが「ヴィーガン」に手を出してからすでに13年が経過しています。Twitterなどで、「肉食人」を差別し憎悪したり、焼き肉を取り沙汰して韓国人を差別したりといった暴言を吐いている人々のほぼ全てが「ヴィーガン」を自称しています。雰囲気的には「アニマルライツ要素」が強いように見える差別主義者たちですが、「ヴィーガンではない」とも言えません。「アニマルライツ(もしくは過激派)」は、もはや別物扱いするのが難しいほどヴィーガンの中に混ざり込んでいます。

 この状況下で新たにアニマルライツルートでヴィーガン思想・実践に加わってくる人々にとっては、もはや両者は不可分でしょう。GWにお台場の肉フェスに対してグロ写真を掲げる抗議活動を呼びかけた箱山由実子弁護士も、Facebookのプロフィールにこう書いています。

動物の権利を提唱したイギリスの学者、ヘンリー・ソールトの遺灰が撒かれたという、丘の上の美しい墓地を訪れて以降、色々な不思議なご縁から、動物たちが置かれている悲惨な状況を知り、ヴィーガンになりました。
https://www.facebook.com/profile.php?id=100015016151019

 過激と言っても、日本では暴力などを用いるケースは目立っておらず、表現手法がどぎついという意味で過激なだけに見えます。それでも過激であるがゆえに目立ち、彼ら自身がヴィーガンに対するネガテイブキャンペーンの牽引役であると言えそうです。

 前回の記事に書いた通り、「ヴィーガン」が動物性の食品を摂らない人々の総称だという定義に従うなら、「にわか」だろうが「便乗」だろうが過激だろうが差別主義者だろうが、ヴィーガンでしょう。新興宗教だろうがカルトだろうが、宗教ではあることに違いはないというのと同じです。

 どこまでいっても、「ヴィーガンとは別物」ではなく「ヴィーガンを名乗る人にもいろいろいるから、大雑把に一括りにするな」と言うしかありません。

 だとしたら、区別するためのネーミングには「ヴィーガンでないわけではない」というニュアンスが必要です。とりあえずアニマルライツセンターについては「便乗ヴィーガン」かなあと思っているところです。

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