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デザイン企業にシフト!?パナソニックのマーケティングトレースをやってみた

パナソニックの企業分析

日本を代表する総合家電メーカーといえば、パナソニック。テレビをつければ、俳優の西島秀俊さんや綾瀬はるかさんや水原希子さんを起用したCMを見ない日は無いと言っても過言ではないでしょう。
長年オリンピックのグローバルスポンサー(World wide Partner)にもなっており、日本だけでなく世界規模で知名度のある超大手企業のひとつです。
最近では開催まであと1年を切った東京オリンピックの観戦チケットキャンペーンを打たれています。
(オリンピック観戦チケット当選しなかったのでパナソニック商品買ってみようかなw)

創業者は「経営の神様」ともいわれる松下幸之助。2018年で創業100年を迎えた老舗企業で長い社歴を誇りますが、日本で初めて週休2日制を導入した企業であることはあまり知られていないかも。(それまで週の休みが1日しかなかったなんて信じられない…)

そんなパナソニックの事業はとても複雑です。なんでトレースの対象企業としてパナソニックを選んだんだろうと、記事を書きながら何度も後悔しました・・・(笑)。大きく分けると、みなさんもご存知の幅広い家電製品やパソコン、カーAV、住宅などのコンシューマ事業と、企業向けのAV・電気製品・電子機器やFA機器から幅広いIoTソリューションを展開する法人事業の2軸ですが、決算資料での事業構造を見ると事業ドメインの複雑さがよくわかると思います(下図)。

直近の2018年度(2019.3)の業績は売上8兆円、営業利益5.1%
前年度でみると売上はほぼ横ばい、2年連続での利益体質傾向ですね↓。

事業別の売上比率をみると、大型航空機の需要サイクルの関係でコネクテッドソリューション(BtoB系)事業の売上が落ち込んだようですが、各ドメイン20~30%とバランスのいい構成をしているなーという印象↓。
(NewsPicksのチャートグラフ、配色見づらい・・・)

売上・営利の観点で他の大手家電メーカーと比較してみるとソニーの営業利益率の高さが目立ちます↓。日立や三菱は営利率ではパナソニックと似ていますが総合"電機"メーカーのポジションなので比較は難しいですね・・・。あくまで参考まで。

各社の事業毎の売上比率をみると、家電・エコ・車載事業のバランスのいいパナソニック、情報通信や産業系システムの売上比率の高い日立、重電や産業系システムの比率が高い三菱。それに対してソニーは、ゲームやエンタメ、金融の売上比率が高いので製造コストが比較的安く営業利益の高さに表れているのかもしれません。(ここでは各社の分析はしないので詳細は割愛します)

この規模でこの複雑な事業を有する企業のマーケティングトレースをするのは億劫になります・・・笑。なので今回は家電事業(上記資料のアプライアンス)に絞ってトレースをしてみようと思います。

家電メーカーとしてのパナソニック

家電業界のグローバル市場状況は40-50兆円と言われています。白物家電に特化した規模ではなさそうですが、業界規模としては、卸売、電気機器、自動車、金融、小売に続き第6位とかなり大きな市場です。
2017年のデータになりますが、グローバルでの売上トップシェアを見ると欧州のフィリップスやボッシュ・シーメンスを抱えるBSH、韓国のサムスンやLG、東芝家電事業を買収した中国の美的(ミデア)グループといった家電では日本で馴染みのない海外勢が上位を占めています。ここに日本を代表する総合家電メーカーとしてパナソニックも5位に位置付けています。
(Appleの位置づけを家電メーカーとするかはさて置き)

このランキングから見てもやはりパナソニックは日本を代表するグローバル家電メーカーであることは間違いないでしょう。シャープや東芝も海外企業に買収されなければ、日本家電ブランドの地位は今以上に・・・という気持ちもありますが。

家電メーカーとしてのビジネスモデル

家電メーカーのビジネスモデルと言えば、大掛かりなマスCMの展開と量販店チャネルでの大量販売が想像でき、その反面、顧客と企業との直接的な関係性が強いイメージがあまりありません。
しかしパナソニックの場合は「Club Panasonic」というユーザコミュニティの仕組や、製品ごとに商品体験できるショールームで顧客との関係構築を図っています。またチャネル面を見ると、Panasonic Storeという直販ECもありますが、特筆すべきは街の電気屋さんと提携して「パナソニックのお店」というネットワークを全国6,000店に展開しており、量販店が近くにないエリアにも安心して販売・アフターサービスが可能になっています。
こうやってみると顧客と企業の関係性が他メーカーと比べて近いのかなと感じます。

デザイン経営にシフトするパナソニック

2008年のブランド統合から始まり、ここ数年ではブランドやデザイン戦略といった企業価値向上のためのアクションが目立ってきています。

2008:松下電器産業→パナソニックへの社名変更・グループ統合
ブランド統合したもののまだまだ縦割り感の強い組織構造
    ≀
2013:ブランドスローガン変更「A Better Life,A Better World」
2014:キャンペーンキーワード発表「Wonders! by Panasonic」
現場で自ら変わろうとする動きを顧客視点で具体化、見える化し、加速する取り組み
2017:イノベーション本部 設立
シリコンバレー流のデザインシンキングの手法などを導入。
縦割色の強かった組織から「ヨコパナ(横のパナソニック)」によるクロスバリューイノベーションを推進
https://www.panasonic.com/jp/corporate/ir/pdf/ir_technology_seminar_j.pdf
2018:京都市に「Panasonic Design Kyoto」を設立
これまでの開発方法・技術にこだわらず、新たな価値を提供する家電やサービスを、デザイナーの視点から発案して商品化するプロセスを導入
https://panasonic.co.jp/design/works/kyotoDC/

今回のトレースをしていて、そういえば昔のパナソニック製品ってどちらかという好きじゃないという印象を持っていたことを思い出しましたw
理由は、中学の時からApple製品を使っていたからかプロダクトデザインが好きで、当時のパナソニック製品にはそれを感じられなかったから。
でもブランドスローガンやキャンペーンキーワードを打ち出した頃、たぶんTVCMや家電量販店で「Wonders!」「ふだんプレミアム」というキーワードで西島秀俊さんのCMが展開されはじめたタイミングぐらいから、デザインが洗練されてきたなーと感じてブランドに好感を持ち始めた記憶があります。

競合比較

デザイン×家電メーカーという視点で競合を見ると、前述の売上・営利比較で上げた大手家電メーカー企業との比較よりは、下記の企業と比較してみるのがよさそうです。

ということで、マーケティングミックス(4P)の視点でこの3社を比較してみた図がこちら。
売上情報の出所はこちら
https://www.panasonic.com/jp/corporate/ir/release.html#2018
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1803/06/news140.html
https://gurafu.net/jpn/balmuda

やはり企業体力の大きなパナソニックはPlace(チャネル)Promotionに対する投資が大きいです。ダイソンもかなり売上を伸ばして日本国内でのDyson Demo(ショールーム)の展開が活性化してきています。
売上規模で比較するとまだまだ小さいBALMUDA。チャネル戦略やPromotion面では独自の動きは見えてこないです。
Product(商品)でみるとdysonは人目見てdyson製品とわかるほど圧倒的なデザイン性にこだわりを感じます。BALMUDAはデザイン面での統一感やBALMUDAらしさはまだまだ感じにくいですが、既存製品のデザインを洗練させ、かつデザイン面だけでなく体験面のデザインが優れている(自然風を感じる扇風機や毎日の食パンの常識を変えるトースターであったり)という印象。それに対して、パナソニックは既存製品のデザインを洗練させている点はBALMUDAに似た印象をもちますが、「ふだんプレミアム」というコンセプトから、日常生活をワンランク上げるような技術力による機能性とデザインのバランスを大切にしているように感じます。
デザイン思考というアプローチでも商品コンセプトやブランドイメージやポリシーなどから、各社の色がしっかり出ているなと感じました。

これからのパナソニックのマーケティング戦略(案を勝手に考えてみた)

デザイン思考という武器を手に入れて今後さらに魅力的な家電を世に送り出してくれることに期待していますが、自分がCMOのポジションだったらどういう戦略を立てるのかを考えてみようと思います。
デザイン思考プロセスではユーザの課題の掘り下げと言語化、そしてそれに対する最適解を徹底的に検討してプロダクト設計に入っていくイメージがありますが、有名人を活用してシーンをイメージさせるCMを打ったり、「ふだんプレミアム」というコンセプトと合わせて展開する現在のプロモーションは改善の余地があるのではと感じています。
デザインされたプロダクトによってユーザ課題の解決や新しい価値が提供されるのであれば、バイアスがかかりやすい有名人を使ったり、商品シリーズ全体を通じて「ふだんプレミアム」というコンセプトに統一することは、かえってプロダクトの価値を伝わりにくくしてしまっているのでは?という疑問です。個人的にはデザイン性は良くなったけど、"パナソニック製品じゃないと体験できない価値は何か"が伝わってこない印象。これからさらにデザイン経営を推し進めていく中で、従来通りのプロモーション方法を根本的に変えるタイミングがどこかで来るのではないかなと個人的には思います。

戦略案としては商品プロモーション時におけるユーザコミュニケーションの変革として、タレントプロモーションからの脱却させる。
タレントプロモーションに依存せずにデザインの力で認知と商品への興味を高める仕組が必要になってくるので、次の3つのアクションを実行する
①商品体験できる場所・環境を充実化させる(実店舗だけでなくAR・VRも活用したい)
②商品体験から購入の複雑な導線づくり(量販店にいくも良、価格comで比較するもよし、直販ECで買うのも良)
③プロダクト価値をわかりやすく伝え商品体験へ誘導するプロモーションの展開

最後に

デザイン経営にシフトする企業が増えてきています。背景には経産省・特許庁が推進する「デザイン経営」宣言が影響しているのかもしれません。

https://www.meti.go.jp/press/2018/05/20180523002/20180523002-1.pdf

デザイン経営にシフトした企業の中で、特に個人的に好きな企業が自動車メーカーのMAZDAです。プロダクト開発の在り方やプロモーションの在り方などがガラリと変わり、ブランド力が圧倒的に高くなった事例として、近々マーケティングトレースしてみようと思います。

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