甘くない今をしなやかに踊る――細野晴臣『HOCHONO HOUSE』を聴いて

細野晴臣『HOCHONO HOUSE』はすばらしい作品だ。自身の45年前の過去作である『HOSONO HOUSE』のリメイクだが、焼き直しでもオリジナル版の改良でもなく、細野晴臣が45年間に行ってきた活動の様々な面ともともとルーツとして身に付いていた音楽性が反映されている新鮮な新作として聴けるアルバムだと言える。
最近の細野晴臣のアルバムは、好きな昔の音楽をやる(ただし今の仲間と、今の技術で)ことをあくまでも重視しているようで、個人的にはあまり深入りしたくなるほどの好みではなかった(その姿勢を捨てないことを、このアルバムの最後に「ろっかばいまいべいびい」のギター弾き語りでの新録を置くことで念押ししているように感じる)。
細野晴臣の書いてきた日本語詞による曲はとても魅力的で、R&Bやテクノというスタイルのなかで猛烈にしなやかにグルーヴする歌だということを再認識させられた。フォーキーだったりロック色の強い『HOSONO HOUSE』よりも、踊れる上に音色の快楽も増し、何より曲と詞の魅力がより増して聴こえるようになったのがこのアルバムの最大のポイントだと思う。もちろん細野晴臣の歌も落ち着きとニュアンスの柔らかさ、節回しのしなやかさが45年前よりも増していて心地よく、言葉も自然に聴こえてくる。
驚いたのは、個人的にはいちばんの名曲だと感じていた「終りの季節」を歌でなくギターでメロディを弾いたインストゥルメンタルバージョンにしていたことだ。もったいない、歌で聴きたかったのにという気持ちにもなったが、何か、今も生身で楽器を弾くことをおろそかにしないギター弾きとしての意地のようなものを見た気がした。または、分かりやすく甘くロマンティックな良さにはしないよ、ベタないい曲をベタにやる気などない、ということだろうか。「相合傘」を短くかつ壊れたラジオから鳴っている体にしたのも同じ意志から来ているのかもしれない。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

2

トオイダイスケ Daisuke TOI

音楽家。ここでは音源の有料配信、および長いテキストを発表します。 URL: https://daisuketoi.com/ Twitter: @daisuketoi
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。