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ダイアンさんと私①

左椎骨動脈解離。おおよその日本人が聞き慣れないであろう病の名を私が口にすると、「それ千鳥のノブが罹ってなかった?」と即答する友人がいた。

大学来の友人、Tである。

その時点で私は彼女をダイアンさんの単独ライブに誘ったことが間違いでなかったと確信した。彼女はダイアンさんのことをあまり存じ上げていなかったようで、最近東京に出てきたお笑い芸人、着実に売れている、ボケの方の歯が多い、くらいの知識がなかったそうだ。逆にダイアンを知らずして、左椎骨動脈解離を知ってる彼女の引き出しの豊富さに驚いた。

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私はダイアンさんの熱烈なファンである。きっかけは忘れもしない、たしか5〜6年前に、ダイアンのなんとかって言うお二人のラジオ番組に大ハマりしたことがきっかけだ。津田さんが奥さんの愚痴をこぼすと乗っかって西澤さんが奥さんをボロクソにこき下ろして、津田さんが西澤さんに最終的にキレる、という鉄板のくだりがとても面白かった。就職して東京の生活に馴染めない私の心をほぐしてくれたのが、木曜日の夜中の彼らのたわいも無い会話だったのだ。それからというもの、新卒入社した会社で自己紹介でダイアンの話をし、当時の東京育ちの同期たちには伝わらなかったので、細かくギャグを説明するなどして、最終的には団体ゴイゴイスーが少し流行るくらいまでその知名度を上げるに至った。最終的な私はダイアンさんに影響を受けて、時々友達と漫才を書いては人前で演じるなどするに至っている。もちろん、お二人の足元にも遠く及ばないのだが。

もとい。職業柄、国内外に出張が多く、時差の関係もあって仕事のコントロールがままならない私は、まんざいさん2020をオンライン配信でようやく見れたレベルで、今回のまんざいさん2022はチケットの申し込みすらままならない日々を過ごしていた。気づいた頃には大阪公演のチケットは完売。仕事に忙殺されて、好きなお笑い芸人のライブさえ行けない。人生ってなんなのだろうか、そんな虚無に暮れる私に追い討ちをかけるように、ユースケさんの病気の知らせ。私は悲しかった。その絶望感たるや、かのNBAプレーヤー・コービーブライアント氏が亡くなった以来の喪失感である。世界に与えた損失は大きい。

それからユースケさんが復帰するまでの40日間は、自分の無力さを痛感し、非力な自分を悔い、酒に逃げた私は荒れた生活を送っていた。自らを見つめ直すためにベトナムへ旅立ったりなどもした。

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復帰したユースケさんはなんかちょっとだけパーマを当てていた。

よかった。またあのダイアンのお二人をこれからも見ることができる。さらに、私の背中を撫でるかのように重ねての朗報、まんざいさん2022大阪公演の追加募集である。

日程の変更による払い戻し分の補充だろうか、もう一度、神は私にチャンスを与えた。枠はものすごく少ないだろう。それは承知の上だ。公演の時間は、19時から、私の仕事のスケジュールではまず間に合わない。そんなことはもう、関係ない。私は即座に申し込むことにした。

そこでなぜかふいに友人Tの顔が思い浮かぶ。
彼女は、同じ熱量でお笑いのことを話してくれる数少ない友人の一人だ。ユースケさんの復帰を祝うなら、少しでも人は多いほうがいい。ということでTを誘うことにした。

私は彼女に経緯を説明した。私がダイアンの熱烈なファンであること、ユースケさんが病に倒れたこと、その振替公演に申し込むチャンスが巡ってきたこと。彼女は左椎骨動脈解離を聞いた途端、ノブがなってたやつや、というコメントを挟んだのち、「怖い病名。すごくこわいね。」と言った。

そう、ユースケさんと全く同じ感想を述べたのだ。
そして、「漢字は六文字以上並ぶとこわい」と付け足した。

そうして、彼女は二つ返事で参戦してくれることになった。震える指をもう片方の手で押さえ、どうにかこうにか申し込みボタンを押す私。その姿は、どこか祈る姿に似ていた。

抽選結果は2日後、神社にも行き、玄関に塩を撒き、毎朝お守りを手にして、できる限りの神頼みをした。

結果、めちゃくちゃ落選した。

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