女潜水艦モモ(プロット)

この物語にモデルはいません。架空の人物でありすべてフィクションです。


桃山桃子は40歳の独身ばりきゃりウーマン。重度のツイッタラーである。田舎から東京に出てきて努力すること数十年、多少性格に難はあるがフリーになってからそれなりの地位を築き稼いでいた。今夜も大手企業からの受注をこなしてご機嫌であった。

「長い事休んでないなあ・・・ そうだ!沖縄にでも行こうか!」

思い立ったが即行動が信条。一番早い飛行機の予約を取り、小さなカバンと念のための仕事用ノートパソコンを持って身支度だけして翌日さっそく羽田に向かう。そして謎の爆発。伊豆上空で飛行機は消息を絶つ。



病院 防衛相の制服と白衣の研究者

「お、覚醒したようです。聞こえますか?聞こえますか?あれ?これ聞こえてるんですかね?」

「脳波に反応があります。聞こえてるはずです。神経接続はうまくいってるはずですよ」

「桃山さんで間違いないですね?間違いなければ右手を動かそうとしてください。右手はもうありませんが動かそうとするだけでいいです。そう、それでいい。」

「時間がありません。よく聞いてください。私は防衛相のケミ山といいます。残念ながらあなたは飛行機事故で体の大半を失いました。手足はもうありません。口も動かせない状態で、目も見えてませんよね?ですよね。強引にマイクを神経に接続して音だけは拾えてるといった状態でね? あー それで、人工心肺や透析器機など大掛かりな装置であなたの脳はかろうじて生きています。ですがこれ、保険がきかないんですよね。仮に莫大なお金をかけても一生この病室からは出られない。おそらく病院は生命維持を断念するでしょう。そこでね、あなた、海上自衛官になりませんか?」

(何言ってんだこいつ・・・ ていうか飛行機事故?そうか、わたし入院してるのか。ていうか手が無い?自衛官?)

桃子はわけがわからなかった。気が付いたら死ぬか自衛隊かの二択だった。ただ不思議な事にそれほどのショックはなかった。夢の中で誰かが何か言ってるようなふわふわした感覚だった。

「予算は国が出します。生命維持装置も船になら搭載できる。もちろん訓練や資格もとってもらわなければいけませんが。どうです?もしそれでよろしければ右手を動かそうとしてください。断るなら左手を。」

嫌とは言えなかった。断れば人生が終わるのだ。船か・・・仕方ないのか。だがあまりにも一方的な言い方に多少腹が立った。もう少しレディを気遣えよ!と。桃子は何も見えないまま右手を振り回し男を殴ろうとした。もちろん動かないが。

「反応あります。右手を動かそうとしてます」

「そうか、OKですね。桃山さんありがとう。ここまで来た甲斐がありました。ではその方向で進めますね。よし、もういいですよ。眠らせてあげてください」

(こいつ、いつか殴る)

そんな事を考えながら桃子は意識を手放したのだった。


2週間後

目つぶし重工 横須賀ドッグ

桃子は目を覚ます。チタン製ボディとなっている。だけど形はメカメカしく宇宙船のようだ。

(船っぽくない?)

防衛省のケミ山と脳科学の権威玉置が見守る中、半透明の液体がかけられる。新たに開発された念動ジェル。これが船体を包み探信音からのステルス性を増し、また尾ひれのように動かしモーター駆動の無いまま静穏航行を可能とした。高速航行時には内部のポンプからのジェット噴流にて世界最高速とも言える速さで進む。また念動ジェルは桃子の思う通りに動くので手足のように使え、あらゆる特殊任務に対応できる。クジラに擬態すればまず見つからない。魚雷も発射管に注水する事無くジェルに包んでそのまま外に出すので無音発射できる。ジェルは色も多少は変えられる。上部には偵察用ドローン。そして船体の甲板部分に衛星からのマイクロ波による充電機能。全個体電池搭載による完全電動潜水艦である。魚雷は20発で発射管は左右に1つで2門。甲板からSLBM4発。対空ミサイル20発。頭部に高出力レーザー1門。 

念動ジェルは直接の神経接続のみで動かせるので、今まで桃子のような被験者がいなかったせいで技研本部で眠っていた技術。それをケミ山が周囲の反対を押し切って初めて人体に使った。博士で医師でもある玉置は無口ではあるが人道的にこの試みには反対している。

なんだかんだで桃子はそれなりに優秀なので半年後には船舶免許を取り、立場としては自衛官、海上自衛隊の(階級?)となり「潜水艦ももしお」の艦長となった。

これはいけない事だと思う玉置はどちらかというと表面的には桃子に冷たいが、影で桃子を心配している。ケミ山はいつもニコニコしてはいるが桃子を実験材料程度としか思っておらずこの実験が成功すれば多くの自衛隊員を使って艦隊を作ろうと画策している。桃子は最初玉置が嫌いだったがだんだんとその人柄を知り好意を寄せていく。

桃子にはよくわからなかったが、桃子はこんな体になっても食事をする。睡眠もとるのはわかるが、ほとんど脳だけになっても今までと同じ物を食べる。玉置は多くを話さないが、ケミ山によると脳を維持する為の栄養補給であるという。ただし外部からジェルを通して消化吸収するだけで味は感じない。これはとても悲しい事だった。もう二度とプリンもケーキも焼肉も味わえないのだ。悲しくて時折泣いた。

ドッグ内での訓練や学習を一通り終え、いよいよ進水式の日。

日章旗をかけ潜水艦ももしおが紅白のテープを切り海に入る。シャンパンがぶつけられ関係者一同の拍手。その時、なんと桃子はシャンパンの味を感じた。

(味だ!味がする!)ジェルに意識を集中すると海水の塩辛さや苦さが感じられる!喜んだ桃子だったが、それはわずかの間だった。そう、アルコールを摂取した時だけ味が感じられるとわかったのだ。

玉置は実験と称して時々桃子に酒を持ってくる。食前酒を飲めば食事も味わえる。横須賀の潜水艦ドッグでは時々、念動ジェルを手のように動かして潜水艦が日本酒を飲みながら焼肉を食うというシュールな絵が見られた。

だがさすがに毎日飲酒はさせられない。飲めばきちんと酔うのだ。だが桃子は飲まなければ味がしない食事をすることになる。あまりにも悲しかった。自衛官数人に頼み込んで酒をねだる日々・・・

リムパック演習 日米合同の大規模演習。桃子は海底に張り付き米艦隊の音紋を習得する任務が与えられた。海自の最高機密であり決して米軍にも悟られてはいけないと。その3日前、ケミ山は桃子に演習が終わるまで禁酒を強いた。反発する桃子だったが実はいくらかの酒を隠し持っていた。

演習当日。順調に音紋を拾う潜水艦ももしお。しかし結構ヒマで、隠し持った酒も海中ではうまく飲めない。せっかくのアルコールは海水と混ぜたくない。

少しぐらいならいいか と周囲の音を確認しながら浮上。晴天の海原は美しい。桃子は波に揺られてブランデーをひと口、とっておきのシュークリームをぱくりと楽しくやり始めた。そして段々とまらなくなってきて深酒。ブランデーが空になって次にウオッカを開けてひとくちやったところで近づいてくる米軍の対潜ヘリに気付く。

(やばい!)あわてたせいで酒瓶のフタが波にのまれて見失ってしまう。早く潜らないと!しかし大事なお酒は捨てられない。そしてウオッカを一気飲みして急速潜水。かくしてリムパック演習において世界一高性能な酔っぱらいが出来上がった。

桃子は怒っていた。なんでわたしこんなことになってんだ、と。なんで隠れてなきゃいけらいんだ と。にゃあにが演習だ わらしが本気になったらてめえら全員沈めてやるろ

手近な船に音もなく近寄り 応急修理工具のラジオペンチの先っちょで米艦隊空母・自衛隊を問わず、すべての艦艇の船底に「ももこ」とひらがなでガリガリと傷をつけた。そしてすべての船はガリガリという音を聞くまで潜水艦ももしおにはまったく気づかなかったのである。かくして日米合同演習で全員を沈めたという伝説を作ってしまったのだった。

翌日、二日酔いの桃子は横須賀のドッグで謹慎中であった。正式な処分は現在検討中。さんざん叱られる桃子ではあったが桃子にも言い分がありケンカとなる。その夜、玉置がショートケーキを持って桃子の様子を見に来ると、桃子の姿は無かった。リムパック演習で誰にも気づかれず行動できたことで自信がついた桃子は一人で生きて行ってやる!と勢いでドッグを自力で脱走した。魚雷・SLBMの実弾を搭載したまま。

事態を重く見た自衛隊は潜水艦ももしおの捕獲・場合によっては撃沈を命じたが、行方は一向につかめなかった。


1ヶ月後  ソマリア沖

大型コンテナ船に近づく潜水艦。そこから飛び立ったドローンが貨物船の艦橋に近づき音声を流す。

「あーあー こちら海賊船ピーチ 16歳の女子高生海賊です 魚雷がそちらを狙っている いつでも撃てるぞ 酒と食料を要求する! 」

スエズを使う貨物船の間では桃子はすでに海賊潜水艦ピーチとして有名になりつつあった。

「お前がピーチか!初めて見た!聞いてるぞ 酒も乗せてる!チリワインとハイネケンとどっちがいい?」

「えー 両方ちょうだい」

潜水艦めがけて酒瓶を投げると起用に触手のようなものでキャッチする。船員たちはこれが見たくて余分に酒を載せておくようになった。みんな面白がって食べ物もくれる。桃子はけっこう楽しくやっていた。天気のいい日は仲良くなった漁船の護衛さえやっていた。当然SNSに動画も上がる。

これに参ったのは自衛隊、特にプロジェクト責任者のケミ山である。ツイッターで海賊ピーチの動画を見て青ざめた。海自の最高機密がソマリアで海賊をしているのである。アメリカにばれて技術をよこせと言われなんとかごまかしていた。倫理的に危ない実験がバレれば世界的に批難される。すでに上層部からは桃子の撃沈命令が出ていたが、撃沈前に日本の潜水艦と世界にバレれば消すに消せなくなる。中国の人権問題を責めるどころではなくなるのだ。もはや政治問題である。

今なら海賊として沈める事ができる。ケミ山は自ら護衛艦いずもに乗り込み桃子撃破に向かう。

一方玉置は自衛隊の内部からなんとか秘密裏に桃子にコンタクトを取ろうとする。潜水艦ももしおは電動であり必ず衛星からのマイクロ波で定期的に充電しなければならない。衛星からのマイクロ波に信号を乗せてメッセージを送ろうとする。

「桃子、桃子、聞いているか。おれだ 玉置だ。ケミ山に口止めされていたが、お前の体はまだある。帰ってくれば元に戻せるんだ」

元に戻れる!桃子は喜んで戻ろうと決意する。玉置は言う。1ヶ月以内に戻らないといけないぞ。ももしおの生命維持装置の限界が近い。これ以上はメンテナンス無しでは危険だ、と。

それを傍受するケミ山。このままでは桃子がすべてをばらしてしまう。玉置はたとえ自分が処分されても桃子を元に戻すだろう。それまでに護衛艦いづも と搭載された対潜ヘリ数機だけで潜水艦ももしおを発見できるだろうか。とても無理だ。

ケミ山は水面下で米軍にコンタクトを取る。念動ジェルの技術と引き換えに桃子撃沈を手伝って欲しいと。リムパックでの実力を知っている米軍は出せうるすべての海軍力をだしてくる。

インド洋・太平洋に展開された米軍艦隊を突破して日本に帰らなければいけない。ソマリアから日本まで途中、最低3回浮上して3時間充電する必要がある。戦闘行動した場合は5回必要かもしれない。そこが必ず狙われる。

何度も襲ってくる米軍を知恵と勇気でなんとかしのぎ、どうにかこうにか日本近海までやってくる桃子。もうここまでくれば大丈夫、そんな桃子の前にあらわれたのは、自らの体を念動ジェルに神経接続して「潜水艦けみしお」となったケミ山だった。

なんだかんだ言っても桃子は優秀であり、ここまで米軍と戦ってきた経験もある。ケミ山は苦戦する。なんとか桃子の精神を揺さぶって念動ジェルを少しの間だけでも止めないと勝てない。ケミ山は桃子に告げる。

「お前の乗った飛行機を落としたのは俺だ。たくさん乗ってたのになあ。実験に使えるのがお前しかいなかったのは残念だったよ」

「お前か!お前がやったのか!」

挑発にのって怒ってしまう桃子。あまりの怒りに念動ジェルの動きが制御できない。そこを突いてケミ山は魚雷を発射。避ける事ができず爆発の衝撃で気絶し浮かび上がるももしお。

とどめをさそうとするケミ山。しかしバッテリーが切れそうだ、浮上して充電しようとして充電器を展開すると、充電どころじゃない強烈なマイクロ波が潜水艦けみしおを襲う。玉置がこの瞬間を狙って衛星をハッキングしていたのだ。焼かれそうになるケミ山だったが慌てて潜ろうとする。

するといつの間にか目が覚めた桃子が言う

「最初に決めてたんだ あんたを殴る!」

渾身の力を込め念動ジェルでけみしおを強打。ケミ山は気を失いそのままマイクロ波に焼かれ大爆発し海の藻屑と消える。


戦いの後、自衛隊にばれないように横須賀には戻らず大磯ロングビーチに這い上がってくる潜水艦ももしお。海岸を走ってくる玉置。

「実はな、お前の体は最初から潜水艦に乗ってたんだ」

桃子の体は首に数か所のプラグが埋め込まれているだけで、それ以外は五体満足だった。最初に手足が無いとケミ山が言ったのは、断れないようにするウソだったのだ。手足に感覚が戻り意外なほどにあっさりと潜水艦から降りる桃子。

玉置は自衛隊に戻り処分を受けるという。去って行こうとする玉置に桃子は声をかけ、ハイネケンを1本投げる。

「その前に1杯やりましょうよ」

海。逆光でロングショットで引けてエンディングテーマ











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