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『さようなら、オレンジ』

『さようなら、オレンジ』(岩城けい、筑摩書房)を読んだ。前代未聞な感動をして驚いた。衝撃波。イチオシの第29回太宰治賞受賞作。★★★★★

最近は組織内の人間関係だのスクールカーストだのドメスティックな心性をいじくり回す文学が多い。それはそれで現代日本の一側面をとらえていると思うが、この新人作家はそういう内向きの風潮から思い切り突き抜けた。国際化した日本文学。世界文学と言ってよいのかも。だってこんなのは読んだことがない。

アフリカ難民の女性が異国のオーストラリアで、精肉場で働きながら2人の子供を育てている。友達も頼るものもなくて孤独な日々を過ごしていたが、英語学校で知り合った他の外国人たちとの交流が彼女の人生に変化を与えていく。

主人公がアフリカ人で、舞台がオーストラリアで、登場人物は日本人、オーストラリア人、イタリア人、イギリス人、スウェーデン人など多様。文化も価値観も階級も異なるものたちが、異国でぶつかり合いながらそれぞれが人生の真実を見つけていく。

「先生。私はなにもわかっていなかった。人の心がどのようなものか、哀しみとはどういうものか、生きて死ぬということがただならぬことだということが。それゆえに怖がらずにおとぎ話ばかりを書くことができました。でも、あの頃には戻りたくありません。あの頃の私は、自分は特別だと思って大いばりで道を歩いている裸の王様と同じだったからです。 だから、もう二度と、おとぎ話は書きません。」

グローバルな環境設定で骨太なテーマでありながら、言葉が心に響き過ぎて痛いくらい突き刺さってくる。日本語の名手だ。

それにしても、こんな日本人作家が遂にでたかという感じ。英語の公用語化より、こんな小説を書ける日本人が出現することが、本当のグローバル化だと思った。日本文学はまだまだ拡張できる。

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