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EP28 帰宅部生活の始まり

新たな生活の幕開けだ。部活を退部した次の日、帰宅部生活初日の僕は新たに始まる生活に胸を膨らませていた。今まで、部活に費やしていたただ苦しいだけの時間をこれからの僕は勉強に、趣味に回すことが出来る。これから、大そう有意義な高校生活が訪れることであろう。とにかく、希望は大きかったのである。

そのような僕の希望とは裏腹に、現実が突きつけられる。

まずは学校における肩身の狭さである。僕の所属していたのは部活加入率が100%を超える(兼部している場合も所属しているすべてが分子に入れられるので100を超える)学校である。そして、学校の理念として文武両道を掲げているのである。生徒たちはそれがいかによいか、教員陣にたたきこまれ、次第にそのことを共通善として受け入れ始める。その顕著な例として教師陣が語る過去に教えた生徒の美談がある。そこで紹介されるのは大抵が3年の夏まで部活をやりとげ、難関大に合格した人の話なのだ。教師陣はそんな話を、暇ができると話していたのである。

そういった学校で、帰宅部になることは異端となるのである。それと共に、学校の理念や共通善に背くといったことを意味するのだ。帰宅部と判明した瞬間、教員から他の生徒から冷ややかな目が向けられるのである。それを跳ね返すほどの強い哲学や信念があったわけでもない僕は帰宅部が経験する肩身の狭さというものを帰宅部開始1週間程度でもろに受けてしまい、予想していた以上に、自由や解放感を感じなかった。帰宅部生活の楽しさは想像に大分劣ったのであった。

次にあげられるのが時間の使い方の問題である。なんら具体的な目標も目的も持たずに時間だけ与えられた僕は今まで部活をしていた時間帯にぽっかり穴があくとたちまちやる気が起きなくなる。それゆえ時間が出来ても、前よりも早く帰宅し、前よりも家でだらだらする時間が増えるといったことしか起きなかったのである。実際に僕は趣味や勉強をやろうとしても、それに対してなんら具体性を持ち合わせていなかったのであった。時間が与えられたとしても、その時間を有効活用できる自制心や目的を持ち合わせていなければただ時間が与えられただけという風になってしまうのである。

以上が、僕が直面した帰宅部への希望とはかけ離れた現実である。

僕の帰宅部生活はまだ始まったばかりであった。

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