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EP29 村上龍との出会い⓵

1年生の3学期最後の日、修了式と掃除を適当にやり過ごし、四人組(ノッポのH、MK、TO)と誰かの悪口で盛り上がった後、いつもよりも早く、正午過ぎに学校は終わった。

帰宅部生活を始めても、ぱっとしない僕はその日も即座に家に帰ろうとする。夕方にやる再放送の番組でも見ようと思っていたのだ。しかしその日は、接続の関係で放課から電車まで1時間程度も空いていた。即座に帰宅することはならなかった。せっかく休みに入ったのに、学校で時間を潰すというのも癪であるので、そこら辺で時間を潰すことにした。とりあえず駅の近くまで行こうと、学校から駅へと行く道で自転車を走らせていると途中で『本100円セール』というのが目に飛び込んだ。学校から駅に行くところには、ブックオフがあるのだった。

本でも読んでみるか。ぱっとしない帰宅部生活を送っていた僕は、春休みが始まるのを機になにか新しいことを始めようと心のなかでは思っていた。具体性はなかったが、ブックオフを見つけたとき読書ということを衝動的に思いついた。

僕はブックオフに入る。100円で、読みやすそうな本を何冊か買うことにした。今はそうではないのだが、その当時の僕は本をわざわざ定価で買うのはばかげていると思っていたのだ。なるべく安く買いたかった。

それまで読書というものを本格的にしたことがなく、何を読んでいいのかわからない、また何が読みたいわけでもない僕はとりあえず知っている作家の本を読むことにした。

100円の棚を見ると、ある名前が飛び込んできた「村上龍」である。テレビを見まくっていた僕は村上龍と言う人をカンブリア宮殿という番組に出ている人であるとは知っていた。しかし、その肩書は俳優であると思いこんでいた。まさか作家であるとは思わなかったのである。(今思えば、不自然な話である。なぜ番組の終わりに番組で取り上げた会社をまとめる端的で、わかりやすい文章を綴れるのか。また、そういった文章を発する場が設けられているのか。それらを踏まえたら、容易に作家であることは推測されるだろう。思い込みとは侮れぬ。)

へえ。あのおっさん作家だったのか。ちょっと読んでみよう。僕は「69」、「限りなく透明に近いブルー」、「希望の国のエクソダス」。この3冊を棚からとって購入した。いずれも村上龍である。もっと作家を分散して買えばよかったのであるが、その時の僕は村上龍しか知らなかったし、村上龍が読みたかったのであった。

僕は、電車の中で一番読みやすそうであった「69」を開いた。

⓶へ続く

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