組織の病気~集団浅慮~
以前、私の大学のゼミの講義でのこと。
ある学生のプレゼンを聞いた。そのプレゼンを聞いたあと、それをもとに議論をする時間があった。担当教官はその時間、席を外しており、私たち学生だけで質疑応答をすることになった。私は、少しそのプレゼンテーションの論旨に反論したいところがあったので、素直に反論した。しかし、プレゼンテーションをした学生から帰ってきたのは驚くべき答えだった。「これは、ぶちゃけていうと、先生に合わせて作ったので、僕自身もそうは思っていない。」
その後もこのプレゼンテーションに反対する言論はいくらか聞かれ、それに反論するものもあらわれ、議論は盛り上がった。私が伝えたいのはこの後の出来事である。担当教官が再び教室に戻ってきてそのプレゼンテーションに対して、「的を得ている」と称賛した。その後も議論の時間はあったが、私も含め、それに対していないときの方が反対の言論を広げる人々はいなかった。
教官はもともと自らの学問分野以外の分野や言論を嫌い、徹底的に排除する人だったし、ゼミ生は1年の歳月を通してその選好を理解していた。そして、いつしか教官の反論や批判を恐れ、プレゼンテーションの目的は教官の機嫌をいかにそこねないかということになっていたのである。それを表す顕著なものが上であげたようなエピソードだ。
これは、危険な組織の典型的な症状だった。それは、『集団浅慮』という言葉で表される。集団浅慮とは、成員が集団の維持に力を注ぎすぎるあまりに構成員のアイデアが十分に発揮されないかたちとなってしまうことだ。
その症状は主に8つのものがあげられる。
①同調圧力:相互批判、異論が出せない環境が作り出されている。
②自己検閲:自らの意見を集団にそぐわないものと考えるとそれを言う前に捨ててしまう。
③逸脱意見から集団を防衛する人物:異論を封じる人物が存在する。
④表面上の意見の一致:成員の内心と、集団の決定との相違が起きている。
⑤無謬性の幻想:構成員の間で自分たちは優秀であり、すべてを乗り越えられるという考えが萬栄している。
⑥道徳性の幻想:構成員のなかで自分たちがやっていることは何でも理想を追求しているのだから、非倫理的行為は許されるという考えが萬栄している。
⑦外集団に対するゆがんだ認識:外のものは、間違っていて、自分たちの決定は絶対に正しいという認識がある。
⑧アイデアのつたなさ:①~⑦までにあげたような文化から異論を認めなあかったり、自己正当化を繰り返す結果、次第に均質的なアイデアしか出せなくなる。
それを生み出す原因として4つのものが上げられている。
①集団凝集性の高さ:似たような考えをもった人々が集まっている。
②孤立:集団の流動性がなく、外部からのチェックや情報提供が行われない。
③リーダーシップ:強い考えを持ったリーダーがその集団を支配している。
④問題解決のためのストレス:時間がない、失敗が許されないなどの状況である。
上のエピソードでは、同調圧力により、プレゼンターは自己検閲を行い、そして教官がいる場合と、いない場合を比べたときに集団の構成員の意見が異なっていたことから内心と集団の意見の相違があった。そして、結果的にその教官のお目がねにあう議論に方向性は及んだのでしまったのである。それは明らかに、集団浅慮であった。では、この反省を踏まえて私たちはいかに集団浅慮を防ぐべきか。
それは、次回の課題としよう。キーワードは『不協和音』である。
【参考文献】
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