エルトンジョン 隠れた名曲解説② 黄昏のレンガ路 より
エルトンジョンの名盤、名曲群にやや埋もれがちな曲を再発掘する。
第2弾。第1弾はこちら
The Ballad of Danny Bailey(1909-34)
架空のマフィアの人生を描いた曲。
この曲はサウンド面でのしかけがとても面白い。
サビの部分のコード進行。
D→F→GときてBmに移るあたりの「え?そっちに行く?」感。
まさに突然卑怯な手段で殺されたダニーベイリーの人生を表しているかのようだ。
続けて歌詞に登場するのは実在したギャングのジョンデリンジャー。
ここでのC→G/B→Gm/Bb→D/A→C/Gと半音ずつベース音が下降していくあたりも、没落、死、無法者の時代の終わりを彷彿とさせる。
I guess cops won again
の最後の急下降するコーラスも、そのイメージ力に一役買っている。
全編にわたってディーマレイ、ナイジェルオルソン、ディヴィージョンストンの美しくも悲哀を感じさせるコーラスも印象的。
そしてこの曲の最大のキーとなる楽器、それがベースであるように思う。ディーマレイは初期からのエルトンジョンのバンドメンバーだが、彼のベースの必要なところに最良の音を置く技術はこの曲で如何なく発揮されている。
曲の序盤のドラムと共に入ってくるあたりの自由奔放でいて一本筋の通ったベースは、まさに運命に翻弄されたダニーベイリーの人生を表現しているように思える。
ラストのインストゥルメンタルのパートでは、弦楽器や管楽器のそれも素晴らしいが、ピアノの連打が効果的に使われている。
ギャング映画でトミーガンを連射し、警官と戦うシーンのようだ。
エルトンとそのバンドの抜群の演奏能力、表現力の高さは、70年代のツェッペリンやプログレ勢の高い技術力に裏打ちされた音楽にも負けない強靭さがある。
Roy Rogers(歌うカウボーイ、ロイ・ロジャース)
バーニートーピンお得意の西部開拓時代をテーマにした楽曲。
ただ、今回のロイロジャースは30〜50年代に流行った俳優のことである。
つまりお芝居のキャラクターである。
結婚して家族をもち、夜中にテレビをつけて家族に内緒で昔憧れたヒーローの番組を見る男。
歌詞に明記されていないが、ボリュームは多分0。
その背中には男の寂しさもあるが、
傍には日常のさりげない幸せもある。
こんな情景を20代で書き上げたバーニートーピンはやはり稀代の作詞家である。
バーニーもエルトンも、このロイロジャースは少年時代によく見ていたという。
自分の世代でいえばなんだろう。
親世代であればウルトラマンや仮面ライダー?
自分の世代では遊戯王とかポケモンになるんだろうか。
色褪せることのない少年時代のヒーローは
テレビの画面で永遠に生きる。
だが、いつしか自分もそのキャラクターの年齢を抜かして、社会に対しての様々な不平や不満を飲み込んで生きていくようになる。
そんな時にふと心の安らぎを得られる、それぞれのヒーローが人には必要なのかもしれない。
最期のヴァースの寂しくもあり、暖かさを感じるメロディー。
Harmony
2枚組、珠玉の名曲群のラストを飾るのは
この美しいラブバラード。
曲、演奏、メロディー、ヴォーカルの全てが完璧に調和している、私がエルトンの全ての曲の中で最も好きな曲を挙げるならば迷わずこのHarmonyである。(というか世にある全ての曲の中でかもしれない)
10代、それも前半の淡い恋のおしまいを歌った歌。
相手の気持ちよりも、自分のことばかり。
応えてくれないのに、男は戻って来てくれると信じている。
いつだって女は男よりも少しだけ大人なのです。
これは恋人なのか
子供時代の仲の良い異性なのか曖昧な関係だが
初恋や10代前半の恋って、いつまでもレジェンドなんです。
そんなほろ苦さ、甘酸っぱさをいつもこの曲は刺激してくる。
また違う解釈では
エルトンと音楽(ハーモニー)の関係性と捉える向きもあるようだ。
幼少の頃からずっと音楽を愛し、音楽もそれに応えてくれていた。
デビュー当時は現代の吟遊詩人なんて呼ばれた時期もあったらしく、物静かで知的な音楽、シンガーソングライターとして人気を得た。
そこからのギラギラの衣装を纏った売れる音楽、ロックへと舵を切ることになるのだが
世界中でのエルトンジョンの人気が高まりを見せる中、ただ心から音楽を愛してきたレジ・ドワイト(エルトンの本名)にとって、音楽に対する姿勢や考え方に何かしらの変化があったのかもしれない。
ところで
20年くらい前に見た映画で、13.14歳くらいの少年と少女が微妙な恋愛感情を持ちながら、少しずつ仲良くなっていく。
家でこのエルトンのレコードをかけながら、2人で寝る(文字通りの睡眠)シーンがあり、そのバックでHarmonyが流れていたのがこの曲のイメージとマッチして印象的で、覚えている。
なのになぜか、どうしても映画のタイトルが思い出せない…
昔の小学校なんかであったらしい、足踏みオルガンでバンドメンバーに曲を聴かせるエルトン。
ヴァースからコーラス(メロからサビに移るところ)
でマイナーからメジャーに変わり
明るい雰囲気になるが、メロディーの切なさや寂しさがこの曲をただ美しいだけの曲で終わらせていない。
特筆すべきはタイトルにもある通り、ディー、ナイジェル、ディヴィーの美しいコーラスである。
クイーンや後期ビートルズにも匹敵するような強靭なハーモニーだ。
この曲のラストの
「Harmony Harmony…」と繰り返されるところはまさにこの『黄昏のレンガ路』という大作映画のエンドロールのようだ。
コード進行は半音ずつ沈んだ後、少しずつ上昇していきエンディングを迎える。
完璧な構成。
天才エルトンジョンを通して音楽の神様がくれた最も美しい2分46秒間。
これほどまでに美しい曲であるにもかかわらず
シングルとしてリリースされず、80年代に思い出したかの様に発売され、そこそこのヒットとなった。
もしも違う世界線があれば、『Your Song』に次ぐエルトンの代表作として聞き継がれていく未来もあったかもしれない。
1975年ごろからライブでも演奏され始めたが、
2度目のサビの
Pretty good companyのPrettyがレコードよりもやや高い音で歌われるところがたまらない。
細かすぎて伝わらないが、共感してくれる人がいたらすごく嬉しいです。
1980年ごろになると、エルトンの喉の調子もあるが、ライブによってはこの高い音が出なくなってくる。
このセントラルパークの演奏も、Harmonyの名演のひとつで、2度目のサビのリードギターのフレーズもたった8音ながら哀愁があって好きだ。
Looking for an islandのLookingがSeekingと歌われている。
こういうわずかな変化を探すのも楽しい。
最後に
これにて大作『Goodbye Yellow Brick Road』の隠れた名曲の解説はおしまい。
音楽理論も何もない、ただのギター弾きが
単に感情にまかせて「好き」「素晴らしい」「たまらない」
を繰り返すだけの記事になってしまったが
これでエルトンジョンという天才の美しい名曲を新たに知ってくれる人がでてきたら、感無量。
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