時空を超えたメリークリスマス作戦のエンディング その3
時空を超えたメリークリスマス作戦のエンディング ローズメード編です。
ローズメードのクリスマス
ローズメードは押し入れから取り出した特大の靴下を枕元に置くと、小鍋で温めたホットチョコレートをマグカップに注いだ。
両手で持って黒い液体にフーフーと息を吹きかける。本人はあまり認めたがらないが、猫舌なのだった。
それでも去年のバレンタインからホットチョコレートはお気に入りだ。
手間はかかるがほかにやることがあるわけでもない。寒い時期にはよく作るようになった。
「うん、なかなかいいわね。上出来よ」
シスタールーンの提案で、服装は昨年のミニスカサンタ服だ。
同じサンタクロースだと錯覚させることで、サンタの油断を誘うのだという。
「必ずサンタを捕まえて見せる。そして、フロアマネージャーにつながる伝書鳩を用意させて奪う」
ローズメードはダクシスの誇る犯罪者である。本当に欲しいものは当然奪い取る。どんな手段を使ってもだ。
「さて、ほかに姉さんからの指示はと…」
『サンタ捕獲作戦』というタイトルで送られてきた、スタールーンからのメッセージにはそのほかにもいくつかの注意点が羅列されている。
「えーと、部屋は暖かくしておくこと、アロマをかすかに炊いておくこと、お風呂に入って清潔に、歯を磨くこと、新しい下…これ、本当にサンタに関係あるの?」
半信半疑になりながらも、一つ一つ実行してチェックしていく。
ローズメードはダクシスの誇る犯罪者ではあったが、犯罪者の中でも身近な人の話を鵜呑みにする犯罪者だった。
一つ一つ指差し確認。オイルヒーター、ヨシ。アロマ、ヨシ。靴下、ヨシ。
最後に電気を薄暗くして、ベッドに入り寝たふりをする。すっかり油断して忍び込んできたところを捕らえる。ヨシ。
いつの間にか外は雪が降り積もっていた。雪が積もるといつも静かな部屋がより静かに感じる。音を雪が吸収するせいだというが、真偽のほどはわからない。
「まったく、早く来なさいよね……」
起きていなければと思いながら、師走の忙しさに追われ、疲れた体は落ちていくように意識を薄れさせ……途切れた。
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ローズメードが眠る薄暗い部屋に金色の粒子が集まってくる。人のような形をとると、虚空から鳩のぬいぐるみを取り出すと、大きな枕元の靴下に入れた。
次に少し表面が焦げた日本茶の缶を置く。
最後に「ティータイムにどうぞ」「フロア・サンタクロース・マネージャー」と書かれたメッセージカードを添えると、少しの間、金の粒子はとどまり、そして闇の中へ消えていった。
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「ああっ……」
ローズメードは夜中に目を覚ますと枕元を確認して突っ伏した。
「私としたことが…なんというの不覚……」
鳩のぬいぐるみをモフモフする。立ち直れない。
何よ、フロア・サンタクロース・マネージャーって。モフモフモフモフ。
ベッドに向かってぬいぐるみを投げつけようとして振り上げ、そっとおろしてタンスの上に飾った。
立ち上がると電気をつけて、お湯を沸かす。沸かしながら考える。
ローズメードは犯罪者である。奪いっぱなしはよくても与えられっぱなしは性に合わない。
「ダクシスは全国に影響力をもつ犯罪組織だ。総力を挙げて、必ずシッポをつかんで奪って見せる」
日本茶の産地表示を見ると『静岡県・掛川市』と書いてある。まずはここから、洗っていこう。
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