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私小説のようなエッセイのような限りなく実話に近い小説『麻生優作はアメリカで名前を呼ばれたくない』7

「このパンツ、いくらですか?」

 レジャー用の簡易椅子の上で微睡んでいた優作は、声にハッとして目を開けた。
 気がつくとあたりは夕暮れ時になっており、明日には明け渡さなければいけない社宅の一軒家は、すっかり生活感を無くして寂しい影を落としていた。

「パンツ、いくらですか?」

 見上げるとマッチョな男が立っていた。
 夕暮れ時で温度も低く、肌寒いというのにランニングシャツに短パン姿の白人だ。

「あっ! あなたは!」

 そこには回転寿司屋で話しかけて来たらくだまつ毛が立っていた。

 自分のことを神と自己紹介してきたイカれぽんち野郎だ。なんでこいつがここにいるんだ。無視したいと、優作は思った。しかし、彼は典型的な日本人であり、あからさまに嫌な顔を見せることも、はっきり拒絶することもできなかった。

「あなたはいつぞやの回転寿司の……あの時はおせわになりました」

 思わず思っても見ないことを言う。

「お世話? 私はなにも世話などしてませんが?」

「……」

 これだからここの奴らは嫌だ。常套句が通じない。

「本当はあなたとゆっくりお話したかったのですが、ジムが満杯になってしまうので急いでたんです」

 こっちはゆっくり話したくなどなかったです。優作は内心で呟いた。

「ジム、ですか?」

「はい」

「なるほど。だから、それでそのように筋肉ムキムキなんですね?」

 優作はランニングシャツから所狭しと押し出される彼の鍛え上げられた胸筋をまじまじと見た。

 アメリカ人はジム好きが多いなぁとつくづく思う。健康志向の人が多いというが、優作からすると、こってりしたマズい食べ物ばかり食べる妙なヤツ等としか思えなかった。運動するよりましな食生活にした方が健康的で長生きもできる気がするが、どうなんだろうか。

 以前、アメリカ人の同僚に聞かれたことがあった。

「アメリカ人なら一週間で倒れてしまいそうなストレスの多い仕事をあんな安月給でサービス残業までして毎日を送っているにもかかわらず、日本はどうしてこんなに長寿国なのか?」と。

 真面目時な顔で聞かれたとき、優作は真っ先に「うまい飯のおかげだ!」と答えてやりたい気持ちを抑え、「さぁ、なぜでしょう。あははは」と日本人特有の曖昧な返事を返しながら、外国人のように両手を広げて眉毛と口角を曲げた。

 長生きしたかったら運動より食生活を変えろやボケが!

 本当はそう言いたかった。 

 肥満大国で深刻な悩みを抱え、早急に改善策を検討する必要があると、毎回政府が痛烈に訴えているが、そんなの検討しなくても明らかだ。食生活だよ。食生活を改善すればいいだけだ。量より質。脂肪分0%に惑わされていっぱい食ってりゃ意味ないんだよクソが! 

 優作は脳内でそう叫びながら、

「あ、ところで、そのパンツは25セントです。えっへへ」

 と両手をこすり合わせた。


……この、「私小説のようなエッセイのような限りなく実話に近い小説」、読んでる人いるのかな。たまに❤︎してくれている人がいるから読んでる人がいるってことでいいのかな?読まれてなかったら載せるの面倒になってきたからもうやめようかなと思っている。

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