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救急車は絶対に呼ばんといてくれ!

「突き指治療が三万円。虫歯治療が十一万。帝王切開で産んだこの子は百万円。これぞ本物のミリオンダラーベイビー!」

笑いながらそう語る友人に「いくらなんでも盛りすぎだろ」と笑い返した私は、井の中の蛙であった。
外国は日本と違い、莫大な医療費がかかる。したがって、海外旅行では、万一に備えて保険加入を勧められる。にも関わらず、加入しない人が多いらしい。私もその内の一人だった。身体は至って健康。歯も目も良好。サーフィンやスカイダイビングなど、危険なアクティビティさえ参加しなければ、医者のお世話になることはない。そう侮っていた。

海外旅行二日目。のんびり荒野をドライブしていた私は突然、強烈な嘔吐と下痢に襲われた。巨大な自然公園の真っ只中、こんな遠い原野まで救急車を呼べばいくらかかるかわからない。街中でさえ十五万は当たり前と聞く。日本でタクシーがわりに利用している人が聞いたら心臓発作を起こし、本当に利用せざるを得ないレベルの請求金額が、海外では常識だ。私は薄れゆく意識の中、同乗していた友人に
「救急車は絶対に呼ばんといてくれ。呼んだら訴えるからな!」
と、上から下から、ありとあらゆる液体を荒野に撒き散らし、動揺する友人に肘鉄を食らわした。意識が薄れる中、友人が「こいつが死んだらどうやって帰ったらええんや。国際免許持ってへんのに……」というつぶやきが聞こえた。

車中で峠を越え、朝には症状が少し回復した私は、次からはちゃんと海外旅行保険に入ろうと猛省した。はずなのに、またしても無保険で海外へ。しかも短い旅ではなく、長期滞在。数ヶ月は何事もなく健康な日々を過ごしていたが、ある夜突然、尻に鋭い痛みを感じて目が覚めた。排尿すると灼熱の石に座したような痛みが走り、用を足すのも一苦労。地獄の日々が一週間続いた。さすがの私もいよいよやばいと感じ、医者のお世話にならねばと焦った。しかし、私には保険がない。病院に行けば即座に借金地獄へ落ちる。どちらの地獄がマシか本気で考えた末、現地のメキシカンの知り合いに相談することにした。医療費はもとより、医療保険自体が高いアメリカは、無保険者がはびこる社会問題を抱えている。そのため、無保険の患者を受け入れてくれる病院も多いのだ。

紹介で訪れた怪しげな病院で、モノマネ芸人のコロッケに似た胡散臭そうな医者(ごめんなさい)から座薬を処方され、どうにか九死に一生は得た。ホッとしたのもつかの間、治療費および薬代で約三万の請求を突きつけられた。無保険者用の格安医院だとしても日本人の私には高額。改めて日本の医療保険の素晴らしさ、安さに感涙し、すぐさま帰国したくなった。健康だと高を括っていても、突然の病気に冒されることがある。医療費の負担が低い日本でも、この先年齢を重ねれば病院の世話になるはず。でも、なるべくなら医者の世話にならず、自力で治したい。医療費貧乏は懲り懲りだ。

「時は金なり」ではなく、「健康は金なり」。海外旅行の際は保険加入を忘れずに!


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