満月。天神の三越前の交差点で歩行者用信号が青になるのを待っている。「狼男に変身したらいま抱えている悩みが消えるか？」繁華街の真ん中、精神的狼男現れる。狼男に変身しかけている僕を見て、周囲の人たちは逃げ惑う。かと思ったけれど、ほとんどの人は微動だにせず、スマホを僕に向けている。インスタ、ツイッター、TikTok、その他あらゆるSNSにアップロード。人を襲う。そこで初めての悲鳴。背負っているリュックサックのベルトは巨大化する身体に耐えきれず切れる。地面に落ちたリュックサックの中に入っている免許証やパソコンから人間の時の情報が漏れる。全世界が注目する僕の個人情報。平凡な人生は有ること無いこと情報を追加され、２時間の緊急特番になる。トレンド１位。イイね10億。僕を崇拝するカルト教団が現れ、連日ニセ狼男事件が発生する。自衛隊、科学者、マスコミ、ユーチューバーに追われ、僕は多忙な日々を送る。悩みは尽きない。僕には僕の、狼男には狼男の暮らしがある。家の近くの空は月が建物に隠れた濃い群青色で、Mr. Childrenの「口笛」のPVを思い出す。『口笛を遠く／永遠に祈る様に遠く／響かせるよ／言葉より確かなものに／ほら　届きそうな気がしてんだ』て歌詞が好きだ。最後に口笛を吹きながら歩いたのはいつだろう？狼男に口笛は吹けるだろうか？