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【宮尾綾香】苦節19年でスタイル確立した返り咲き王者 初防衛突破で悲願の統一戦へ 2022年9月1日

◇IBF女子アトム級タイトルマッチ10回戦
 王者 宮尾綾香(ワタナベ) 27戦21勝(6KO)5敗1分
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 挑戦者 岩川美花(姫路木下) 17戦10勝(3KO)6敗1分

ようやく肩の力が抜けたベテラン王者「早く試合がしたい!」

 元世界V5王者の宮尾綾香は2月、松田恵里(TEAM10COUNT)との王座決定戦を制して王座返り咲きをはたした。正規王者のベルトを巻いたのは実に5年ぶりのこと。39歳になった宮尾は余韻に浸る間もなく、「早く試合がしたかった」と言葉を弾ませた。

「前回の試合に勝って、達成感というよりは『これで次にいける!』みたいな気持ちが強かったんです。年齢的に時間は限られていると思いますし、そういう意味でも次の試合は早くしたかったですね」

 20歳でボクシングを始めた宮尾は今、ようやく自分のボクシングスタイルを確立しようとしている。「早く試合がしたい」という心は、年齢による衰えを心配する以上に、ようやく手にした確かな感触を実戦で試したいという思いが込められている。

 スコアは2-0判定という接戦となった松田との試合で、宮尾には自らの成長をはっきり確認することができたのだ。

「自分のやりたいことがようやくできてきた感じはあります。前回の試合でも練習してきたことが普通以上に出せた。今までは一生懸命すぎて周りが見えていなかったけど、だいぶ周りが見えるようになったというか、力が抜けるようになってきたというか。いまのほうがナチュラルにできる。それがいいのかな、と思っています」

 スピードをいかした出入りのボクシングが宮尾のスタイルだ。しかし、いざ試合となるとお客さんを沸かせたい、という“邪心”が芽生え、不必要に打ち合ってしまったり、いらないパンチを被弾してしまったりした。

物事が悪い方に、悪い方に展開した2016年以降は特にその傾向が強かったかもしれない。同年12月の池山直(フュチュール)戦で右前十字靱帯を断裂し、復帰してからも含めて用意された5つの世界戦のうち4つで結果を出せなかった(ひとつはWBAアトム級暫定王座獲得)。

「崖っぷちだった」と振り返る宮尾がたどりついた答え。それが「ナチュラル」だった。

「力を抜いたほうが無駄な体力を使わないし、余計なことを考えなければ視野も広くなる。力んでお客さんを喜ばそうと意識するよりも、結果的にお客さんの期待にこたえることもできる。そう思えるようになりました。ここまでくるのにだいぶ時間がかかりましたけど(笑)」

 もう一つ付け加えるなら年齢に見合ったコンディショニングも大きなポイントだろう。宮尾は前回の松田戦の前から週6だった練習を週5に減らした。疲れがたまっているときに、中身の薄い練習をするくらいなら休んだほうがいい。そうは分かっていても、実行に移すのは怖かった。

「練習を週5にすると、体は休めても心が安まらない。これで大丈夫なのかって不安になるんです。でもやってみて、前回の試合でまったく問題ないことを証明できた。それは自信になっています」

 30歳のときに専門学校に入学。3年かけて取得した鍼灸師の資格も大いに役立てている。疲労や痛みが出たとき、自分の体に針を打って応急処置をするのだ。自分の体の声に耳を傾けることは、コンディショニングの要と言えるだろう。

IBF世界アトム級 王座決定戦の表彰の様子(2022年2月 Victoriva vol.8)

たどりついた境地は力を入れない「ナチュラル」

 試合に向けてのテーマを問うと「普通にやって普通に勝つ」との答えが返ってきた。これもナチュラルの延長線上にあるということだろうか。

「今までやってきた基礎をしっかり見直しています。ガードの位置とか、ステップインのときの足取りの位置とか。ここ数年取り組んできたパンチの打ち方もそうですね。以前は当てるだけという感じだったのを、梅津トレーナーと一緒に相手にダメージを与えるパンチを打つように練習してきました。それがようやく試合で出せるようになってきた。そういうところを繰り返し練習しています」

 対戦相手の岩川は前WBOアトム級王者の実力者であり、同じ年齢、同じバスケットボール出身という共通点がある。大いにリスペクトできる挑戦者だ。ただ、充実期に迎えたチャンピオンにとって、相手がだれかは大きな問題ではない。

「相手がどうというよりも、自分がやってきたことを試合で出せるかどうかが大事です。欲張らず、練習してきた通りにボクシングをすれば、勝ちは自然についてくると思っています」

 WBCアトム級暫定王者だったとき、統一戦をはっきりと意識した。「よし、ベルトを増やしてやろう」。そう思っていた矢先の19年9月、WBC正規王者モンセラット・アラルコン(メキシコ)に敗れて目標は遠のいた。久しぶりにベルトを手にし、いまは初防衛を成功させて統一戦に突き進むのが最大のモチベーションだ。

「(WBO王者で同じリングで防衛戦を行う)菜々江にはラインで『統一戦しようよ』ってめっちゃ送りました(笑)。菜々江とゆうこりん(元世界王者の黒木優子=YuKOフィットネス)が試合をしてどちらが勝つか分からないけど、勝ったほうと統一戦がしたい。だって、同じ階級にチャンピオンが何人もいて『で、だれが一番強いの?』って聞かれて答えられないじゃないですか。やっぱりベルトの数を増やしたいですね」

20代のころ、35歳で子どもを産んでいると漠然と想像していたが、気がつけばバリバリの現役チャンピオンとしてリングに上がっている。「ほんと、楽しいですよ」と笑う宮尾が、さらなる飛躍を求めて初防衛戦のリングに上がる。

●ライブ配信情報
 ▷配信プラットフォーム:BOXINGRAISE
 ▷ライブ配信:9月1日(木)17時45分~試合終了時刻まで
 ▷料  金:980円 ※月額会員制
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詳細はこちら


(カバー画像:DANGANカメラマン ヒノモトハジメ氏撮影)

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