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#2日目: 世界の解像度があがる瞬間

世界の解像度があがる瞬間が好きだ。

たとえば、「あ、田中さんって意外とお茶目なとこあるんだ」と気づく時。
たとえば、「え、日本にこんな見たこともない景色があるの?」と驚く時。

とても抽象的な話だが、世の中にどんな人がいて、
何を想って生きているのかを知りたい。
広くなくていい、狭くていいから深く知りたい。
行動範囲が広いわけでも、人づきあいが得意な方でもないのに、
いつもどこかでそう考えている気がする。
新しい出来事や一面に出会うことは楽しい。
ワクワクする。

知ることを通じて、ぼんやりした輪郭と、あいまいな境界線が
くっきり鮮やかに彩られる瞬間、
そこにあったことには変わりないのに、
見えなかったものが目の前にパッと現れる。
例えば見知らぬ風景、文化、その土地に根付いた人や生き物…

本は、時々そういう知らない世界につながる、どこでもドアになる。

私が出会った、そんな本を紹介したい。
表紙の自然の豊かさと、深い青色をじっくり眺めて読んでくれるとうれしい。


「そして、ぼくは旅に出た。(写真と文:大竹英洋)」

この本は、実は人におすすめされた。
イラストレーターで、高校からの友人が、キラキラした目で語ってくれた一冊。
別々の高校に通っていた彼女と出会ったのは、地元の画塾でのこと。
お互いキリンジを聴いている、という
当時の地方都市ではめちゃめちゃ希少な好みの一致で意気投合。
最近山登りが好きというのも妙に似ていていて、
昔から趣味嗜好を全面的に信頼している。
だから話を聞いてAmazonを即ポチした。期待通り素敵な本だった。

ノースウッズとは、アメリカの北、カナダとの境界に広がる湖水地方のこと。
この本は、著者の大竹さんが、大学を卒業したての20代のときのことを書いたノンフィクション。
彼が、ナショナルジオグラフィックなどで活躍する自然写真カメラマンに魅せられて、旅に出る話だ。

弟子になることを願うあまり、旅の途中から、存在すら初めて知るカナディアン・カヌーを乗りこなして会いに行く。
私はこの本を手に取るまで、アメリカに狼も出る奥深い場所があるなんて、思い浮かべたこともなかった。

20年くらい前だから、もちろん当時はスマホもない。正確な紙の地図さえなく、写真集から場所を推測し、バスも通っていない地域を目指す。
読み進めると、作者がカヌーを漕ぎだすように、心がすーっと森の中や川の上を滑り出す。素朴で飾り気のない文章は、鳥の鳴き声や魚の跳ねる音が聞こえてきそうなくらいだ。

世界レベルの写真家のところに、ファンが弟子にしてください!と一方的に訪ねてくるなんて、下手すれば押し掛け迷惑になりかねない。
それでも抑えきれない作者の純粋な気持ちと、みたこともない美しい風景を思い浮かべると、なんだか素直に受け止めてしまう。

旅が好きだけど忙しくてなかなか遠くに行けない、
しばらく見知らぬ場所へは足を踏み入れていない。
そんな人にぜひオススメしたい。

通勤時間の満員電車で開いても、
心ではノースウッズへの道を進んでいるような気がしてくるのだ。
きっと「アメリカ」という、派手なイメージの国が、一段ちがった鮮やかさで目に映るはずだ。

ちなみにいうと、件の友人は今度自分自身の本を出版する。きっとまた素敵だと期待している。

dan


#アドベントカレンダー #読書 #クリスマス #推薦図書 #advrco2018 #あどべるこ #本と出会う風景

※アドベントカレンダー2018こぼれ話。
この企画は、開始1週間前のギリギリに思いついた。
アドベントカレンダー形式にしようという、
コンセプト決定からプラットフォーム選定、人集めも大わらわ。
なので1日目は自分でやるしかない。
船出にかけて、ちょうど舟にまつわる本について書いて
テンションあげよう♪とルンルン思っていたところ。
声をかけた元同僚のinotakuが、
「書くよー!いくらでも書けるよー^^」と即レス。
短納期で引き取り手のいなかった2日目を引き受けてくれたばかりか、11/30の依頼から納品まで6時間というトップピードで仕上げてくれた。
かつ、私からのアドベントカレンダーがどういうものかという説明が不足するあまり、12月になる前にフライング投稿までしてくれたw(1日目参照)

最高かよw

 結局彼に先頭を切ってもらい、私は2日目に掲載。
おかげでゆっくり本を思い出せて楽しかった。
(手元になくて、うろ覚え)

その昔一緒に仕事をして、顧客のメールにどれほど素早く返信し、仕事が早いか分かっていたつもりだが、記事の面白さと合わせて、想像以上で爆笑してしまった。
また一つ、世界の解像度が上がってうれしい。ありがとう😊

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