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断髪エッセイ_春の目覚め〜バレー部のショートカット〜

中1の時のクラスはなぜかバレー部に入る女子が多く、入学した時はロングヘアやボブだった女子がバレー部に入部を決めた女子から、だんだんとショートになっていく姿をたくさん見ることができました。

仮入部の四月のうちに、二つ結びが可愛かったKさんが耳出しのショートになったのを皮切りに、5月の正式入部となるゴールデンウィーク明けには、小学校の頃はポニーテールが似合っていたMさんや少し茶色がかったワンレンのロングヘアを下ろしていたWさんもバッサリ。
サイドは耳上で一直線に揃えられ、バックが刈り上げという今でいうハンサムショートと言われるような部活ショートになっていきました。ロングヘアから刈り上げのショートカットになった女子は、なんだかみんな大人びて見えました。 Wさんは「髪切る時、美容師の人がほんとにいいんですか?って何度も聞くから、もういいから早く切ってって思ってたんだけど、切った後やっぱりすごいショックで後悔した」と言っていたのが印象的でした。

みんな潔く耳出しのショートになっていく中、5月の時点ではボブまでしか切れなかった女子もいました。

Nさんはクラスの中でも目立つ美人で、小学校の頃はロングヘアだった髪を中学入学時に肩上のボブに切っていました。
「こうやって耳の辺りでクリッとするといい感じなの。お姉のドライヤーで何度も癖つけたんだー」とボブの髪を耳にかけながら言って、おしゃれにも気を遣っているようでした。

そんなNさんがバレー部に入り、5月の段階ではそのままボブの長さだったものの、運動神経も抜群だったNさんは、一年の中でも期待される存在になっていきました。

夏休み前のある日、教室に入ってきたNさんの髪は、バッサリと耳上で切られていました。一生懸命癖をつけたというサイドの髪もなくなっていて、他のバレー部の女子よりも一際短く耳上で一直線に揃えられており、後ろも短めに刈り上げられていました。

以来、Nさんは耳上の刈り上げショートが定番となり、二年生になった時にはバリバリのレギュラーとして活躍するようになっていました。

そんなある日、体育館で顧問の先生と1対1でアタックの練習をしている女子がいました。誰だろう、とよく見てみるとOさんが鬼気迫る感じでボールを打ち込んでいて、思わず目を疑いました。彼女の髪は、男子のスポーツ刈りぐらいに短くなっていたのです。耳上の長さで揃えられていたサイドの髪は地肌が見えるぐらいに刈り上げられて、センターパートで分けていた前髪もツンツンに立つぐらいに短くなっていました。さすがにそこまで極端に短いショートにしていた女子バレー部員もいなかったし、こんなに髪を短くした女子を見るのも初めてだったので衝撃でした。

バレーに身も心も捧げているように見えたNさんでしたが、三年生になる前に突然バレー部をやめてしまいました。詳しい理由はわからないのですが、顧問の先生と何らかのトラブルがあったようです。
バレーをやめたNさんは、スカートも短くなってすっかりおしゃれな女子に戻っていましたが、髪は相変わらずショートのままで、それが少しだけバレーに未練が残っているように感じるのが印象的でした。

* * *

小学校の時からロングヘアだったOさんは、入部の時に髪は切ったものの肩にかかるぐらいのボブまでしか切れませんでした。最初はボブだったNさんも夏休み前にはショートになり、結べるぐらいのボブの長さはOさん一人だけ。同調圧力もある中、Oさんは一年生のうちはボブを貫きました。それでも、一年間かけてだんだんと襟足ギリギリのボブぐらいにまで、短くなっていきました。

2年になったある日、そんな彼女がついにショートになって登校してきました。ショートといっても耳たぶが少し出るくらいの長さまで。バレー部のショートといえば、サイドは耳出し、後ろは刈り上げが普通だったので中途半端な長さでしたが、たぶん、そこまでが限界だったのだと思います。
下駄箱の前で「わー、Oがショートになったー」「似合うー」などと同じバレー部の仲間から冷やかされていました。
Oさんは恥ずかしそうに頭を隠すようにして「えー恥ずかしい。ねえ、どう?似合ってるかな?」と話しかけられたので、「いいんじゃない?もっと短くても似合うと思うけど?」とあえてそっけなく返事をすると「ほんとー?そっかー」と嬉しそうにしていました。

そんな自分の願いが通じたのか、2ヶ月後には、Oさんの髪はさらに短くなって、いつのまにか他のバレー部員と同じく、サイドは耳上で切りそろえられ、後ろは刈り上げるぐらいにまで短くなっていました。入学の時のロングヘアからここまで短くするまで約一年ほど、それまでの葛藤や心の揺らぎなんかが想像できて、とても印象的でした。

三年の一学期ぐらいで部活を引退すると、女子バレー部の部員もみんな髪を伸ばし始めるのですが、その中でもOさんは誰よりも早くおかっぱぐらいの長さに揃えてカットしてきました。引退前から少し伸ばし気味だったのだと思います。
やっぱり髪切るの嫌だったんだなと思って、ショートカットのOさんを思い出して忘れられない断髪になりました。

今思えば、元々断髪フェチだった自分に刈り上げフェチという要素が目覚めたのは、あの頃の女子バレー部が髪をバッサリ切って刈り上げショートになったことが要因になっている気がします。思春期は春の目覚め、とはよく言ったものです。

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