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正統的周辺参加:第二回読書会「会社内の透明性を高めたい」

正統的周辺参加について語り合う読書会の第二回目が、本日朝6時に行われました。こんな難しい本、そして参加しにくい時間設定なのに、なぜか参加者が増えました! すごい! 今回も話した内容の簡単なメモを残していきます。前回分は以下をご参照ください。

会社における技術伝承

技術職の界隈では、PDCAやトヨタ生産方式など様々な手法が知られていますが、その最後には「技術を伝承する」というステップがあります。開発の中で得られた知見を伝承していかないと、次にまた同じ失敗を繰り返して進歩しません。

しかし忙しいときは、そのような時間を確保するのが難しいのも事実。できれば仕事の合間合間にきちんとコミュニケーションを取って伝承していければいいのですが、気付いたら何も伝えられないまま有識者がいなくなって技術が失われる、というケースが増えています。

そこで、伝承したい技術内容を文書に残して、それをみんなに読んでもらうという方法を取る会社も多いです。しかし、文書を読んだだけできちんと理解して、自分事として応用できる人はなかなかいません。結果的に、文書を読めと言われて、しぶしぶ読んでチェックシートを埋めるだけとなり、数ヶ月後に実際自分が課題に直面したときには全く思い出せず、同じ失敗を繰り返すことが往々にしてあります。

こうした事例に対して、参加者の皆さんから2つの見解が出されました。

①具体と抽象の往復

認知の話になりますが、具体的な事象からエッセンスを抽象化する能力があるかどうか、というのは大きなポイントでしょう。過去の事例を具体的に聞かされても、そこから抽象化できないと、自分が現在直面している課題との共通項を見出せません。

なんでそうしたのか、どこを見て何を考えたのか、といった観点から抽象化ができれば、それを応用して自分なりの具体を作り出せるようになります。現状では、そういうことを自然とできる人が自主的にやっているだけで、システム化できていないのでしょう。

教育現場でも、先生たちの間で教育のノウハウが伝承されない問題があります。自分の授業を他人に見せるのが嫌、という人もいますし、逆に教材を具体例としてそのまま渡されても使えないことも多いです。先生と生徒の関係から、こういう考えでこういう教材を設計した、といった抽象を伝えられるかどうかが重要になります。

会社で伝承するための報告書も、もちろん具体は大事ですが、その背景となる設計根拠などの抽象をしっかり残すようにしないと、読み手に伝わりません。現状では、フォーマットが決まっているだけで、中身が薄すぎて何を書いているか分からないのもあれば、具体性が濃すぎて理解にものすごく時間のかかるものもあり、スムーズに伝承されない要因の一つになっているのではないかと思われます。

②周辺参加ができていない

ベテラン社員は商品開発に必要な幅広い過程の知識を持って、全体を俯瞰的に見た判断ができますが、若手の社員はなかなかそれができません。だからこそ技術伝承を通して知識を蓄えてほしいのですが、そもそも若手社員が商品開発活動にきちんと周辺参加できていないのではないか、という指摘がありました。

これは第三章の肉屋の事例にもありましたが、効率的な開発、生産性を向上させるために、若手社員は非常に狭い範囲の仕事しか割り振られていないことがあります。この部品のこの部分だけを担当しています、他の人がどんな仕事をしているかはよく分かりません、という状態では、商品開発への周辺参加が妨げられてしまいます。自分の仕事が、最終的にどういう道筋で最終製品にまで繋がっているのか、といった情報が見えないと、頑張って十全的参加を目指そう、と思うこともできません。

これは会社内でのアイデンティティの構築にも繋がってきます。将来はリーダー的存在になれるように頑張る自分なのか、今は大企業で開発キャリアを積んで転職に備える自分なのか、実践共同体との関りの中から自分の立ち位置も確立されていきます。技術伝承を進めるのであれば、社内の視野を広げて、周辺から十全的参加を促してあげる必要があります。

では、会社の中でそうした透明性を、どうやって作っていけばいいのでしょうか。

散歩しよう

オフィスのデスクに居続けて、実験の現場に足を運ばず、チャットやメールで指示を出すだけの上司では、情報の壁が生まれてしまいます。上司が積極的にふらふらとラボを散歩すると、メンバーは監視されている感じでちょっとピリピリしますが、いつでも相談できるようになって、仕事がよく進むようになったそうです。

もちろん上司の性格にもよるので、管理が強すぎると部下は疲弊して効率が下がるでしょう。でも、困ったことを相談したら、上司が「いまこの場で決めるから詳しく話して」とその場ですぐ意思決定できるようになれば、部下も仕事がしやすくなります。さらに、自分の仕事の行く先が見えるようになることで、プロジェクトへのコミットメントも高まります。だからあなたが上司であるなら、散歩をしましょう。

では、あなたが末端社員だった場合はどうしたらいいでしょう。散歩をする暇もないくらい仕事を課されて疲弊している状態で、どうやったら情報の透明性を高められるでしょうか。

散歩しよう

たとえば「今の仕事を効率化するために、別の手段が必要なので、相談させてください」などと言われたら、そうそう無碍にはされないと思います。どんな口実でもいいので、社内の散歩に出ましょう。どうしても業務時間が確保できないなら、勤務終了後にぐるぐる歩き回って帰るとか、お昼ごはんを食べる場所を変えてみるとか、少しでもいいので他のところを見る時間を作りましょう。

勉強会みたいなものもいいと思います。たとえば冒頭に出てきた技術伝承の文書を読むという例でも、一人でタスクとしてこなしているとなかなか頭に入ってこないですが、みんなで教え合いながら読んでいけば、詳しく知っている人の背景知識など抽象部分も共有しやすくなります。自分とは少し関りの薄い技術にも関心を持ちやすくなります。

とにかく、自分の仕事しか見ないような、視野が狭くなり過ぎないように気をつけてほしい。なんとかして壁の向こう側を見るように心がけてほしい。そうやって自分から情報を取りに行くことで、少しずつ透明性を高めることができるようになります。

越境しよう

公務員の人たちも、評価基準を複数持つことが大事だ、という話をしていました。給料は区役所からしかもらえないけど、社外に師匠と呼べるような人をつくって、その人から褒められるようになれば、市役所の中でぼろくそに言われてもやっていけるようになります。

小学校の先生も、学校内にしか評価軸がなかったら、学校の全権を握る校長先生の一言に振り回されてしまいます。若い先生は、やる気満々でこの世界を良くしようと思っているのに、そこを否定されたらダメになってしまいます。もし、利害関係のない学校外の繋がりがあって、その挑戦はとてもいいよとフィードバックしてもらえる環境なら、学校で否定されても完全につぶれなくて済むのではないでしょうか。

企業でも全く同じです。社内の「基準」に振り回されるのではなく、自分の「規準」をもつこと。これがやりたいんですと言えるようになること。そのためには越境して、自分の視野を広げるのが大事だと思います。

肉屋の小さな作業場に閉じこもっているのではなく、社内のいろんな現場を見てまわる。社内だけでなく社外のいろんな現場を見てまわる。そうすることで、あなたが参加する実践共同体は、小さな部署から会社全体へ、そして人々が暮らす社会へと広がっていきます。それによってあなたのアイデンティティはより確かなものとなり、活動も、人生も、充実してくるのではないでしょうか。

今回の感想と次回の読書会

今回はメーカーの技術伝承に関する話がメインとなりましたが、こうした具体的な話も非常に貴重で面白いですし、そこから抽象化して得られた課題は教育業界などにも通じるもので、多くの発見がありました。

業界は違っても、根底の部分で共通しているものが多いことが分かりましたし、やっぱり自分の業界ならではの特殊な部分もあるんだな、ということを客観的に知ることもできました。この読書会も、こうやって視野を広げる越境の役割を果たすことができているなら、何よりだと思いました。

次回は3月13日(日)の午前6時(日本時間)を予定しています。第三章をメインに第四章まで含めて、議論していけたらと思います。それではまた。

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