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ウォロフ語について

セネガル共和国で最も話者数が多いウォロフ語について、言語としての特徴や「民族」分類との関係についてまとめる。



ウォロフ語って何?

ウォロフ語とは、西アフリカのセネガル、ガンビア、モーリタニアなどで話されている言語である。最も話者数が多いセネガルでは、国民のほとんどがウォロフ語を話すことができる共通言語となっており、日常会話だけでなく、テレビやラジオ、音楽、さらには政治家の演説でも広く使われている。
言語分類としては、ニジェール・コンゴ語族の西大西洋諸語である。同様の分類に、セネガルでも話されているセレール語やフルベ語がある。


ウォロフ語の表記

アフリカは文字を持たない社会がほとんどであり、ウォロフ語も同様に独自の文字体系を持つことはなかった。
フランスによる植民地支配を経て独立した際、ラテン文字アルファベットの表記法も作られたが、セネガルの教育制度はフランス語のみを使うことが独立以降一貫して続いてきたため、その表記法を学ぶ機会はほとんどないと言える。パソコンや携帯電話が普及しはじめてから、フランス語表記で書くことが急増したため、ウォロフ語の表記は非常に揺れが多いのが現状である。
なお、20世紀初頭頃より、イスラーム教団の中ではアラビア文字を使ってウォロフ語を表記した著作も書かれており、それらは「ウォロファル」(wolofal)と呼ばれる。ただし、アラビア語も一部の知識人にのみ共有されてきた言語であるため、文字がそのまま日常的に利用されてきたわけではなかった。


ウォロフ語とウォロフ「民族」

セネガルの民族は、ウォロフ(Wolof)、レブー(Lebu)、セレール(Sereer)、フルベ語話者集団プラール(Pulaar あるいはHaalpulaar)に属するプル(Peul)やトゥクロール(Tukulër)、ジョーラ(Joola)、マンディング(Manding) など、20以上の民族で構成されている。

セネガル国内の人口比では、ウォロフ約4割、プラール約2割、セレール約1 割、ジョーラ5%程度、マンディング3% 程度を占めている(Diouf 2021: 113)。

ただし、ここで言う「民族」(ethnie)の分類は、地縁・血縁集団、あるいはセネガルにかつて存在した王国の版図にいた人びとの名称、そして言語集団の分類が複雑に絡み合っている。

特に言語集団の分類は、「民族」の分類に大きく影響しており、主要な「言語集団」であるウォロフ語話者、セレール語話者、プラール(フルベ語話者)、ジョーラ語話者、マンデ系言語話者が「民族」として分類される傾向にある。

セネガルにおいて地縁・血縁による出自集団や言語集団を一概に「民族」と呼び表すことは容易ではなく、現代に至るまでの政治的、経済的、社会的なさまざまな要因によって変化 している。

加えて、セネガルでは「ウォロフ化」(wolofization)と呼ばれる特殊な社会状況が形成されている。この現象は、使用言語と「民族」的帰属という二つの側面の結びつきとして説明できる。
現代に至るまで、セネガル国内で人びとが移住や通婚を繰り返す中で、父系出自によってセレールやプラールといった「民族」的帰属の認識を持ちつつも、ウォロフ語を第一言語として使用するようになる状況が普遍的に見られるようになってきた。
その中で、例えば、ウォロフ以外の出自のものがウォロフと結婚した場合、家庭内の共通言語はウォロフ語であり、その子どもがウォロフとみなされることが一般的である。そのため、ウォロフ語使用が国内で著しく拡大することと連動して、世代間のウォロフ語第一言語話者数が増加しているのである。
こうして、セネガルにおける「ウォロフ化」は、使用言語と「民族」認識が強く結びつき、その結果ウォロフの「民族」人口比率が増加傾向にあるという現象が起きているのである(砂野 2007: 50; Diouf 2021: 32, 77, 84–87)。

(文責:池邉智基)

※本論は、拙著『セネガルの宗教運動バイファル―神のために働くムスリムの民族誌』(明石書店、2023年)の序章(pp. 13-15)の文章を加筆修正したものである。

参考文献

Diouf, Makhtar. 2021. Sénégal : Les ethnies et la nation. Les Nouvelles Édition Africaines du Sénégal.
砂野幸稔. 2007.『ポストコロニアル国家と言語―フランス語公用語国セネガルの言語と社会』三元社.


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