樹海

煙草だけありったけ持って富士の樹海へ行こう
きれいな空気を煙で台無しにしながら
待ち侘びる死のなんと潔いことか
深い深い森の奥で
歌声が途切れる時が来る
代わりに鳥たちがさえずり出したら
もう私はそこにはいない
無に還るのだ
天国も地獄も信じちゃいない
ただ永遠に闇の中を彷徨うのだとしても
この人生を続けていくほうが闇は深かったから
人は何日で餓死するんだっけ
それまでずっと歌い続けよう
生涯愛した煙草をふかしながら
昔先生が褒めてくれた歌声で
誰も助けに来ないことが
やっと安らぎへと変わる
もう寂しくない
もう悲しくない
森は私を抱きながら優しく囁く
大丈夫よじきに楽にしてあげるからね
樹海という聖域には病魔も入ってこれない
果てしない年月を生きてきた大きな木の根元に腰かけて
私はきっと微笑んでる
明るい歌声が森に響く
きっと森も歌っている
誰も助けに来ないことが
長い長い苦しみを経て
やっと安らぎに変わる
やがて歌声は途切れる
私はきっと微笑んだままだ
森はちっぽけな一つの命を飲み込んで
また何事もなかったようにさざめき出す
それこそ私の望んでいたことだ
願いなんて一つだって叶ったことはなかったのに
ようやく夢というものが見れる



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