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ENHYPENが「Given-Taken (Japanese ver.)」MVに込めた希望のメッセージ。


ENHYPEN日本デビューおめでとう! 
ヒューヒュードンドン!


だけど暗い
日本語バージョンになっても相変わらず暗い「Given-Taken」なのである。


つくづく思うが、本当にHYBEはよくもまあここまでダークなコンセプトで新人を売り出す勇気があったなと。
でも、これは彼らがやろうとしていることを思えば必要な手順なんだろう。
だって闇が深ければ深いほど、光の輝きは増すものでしょ?


というわけで今回は予定を変更して、日本デビュー曲「Given-Taken ( Japanese Ver.)」のMVについて少し書こうと思う。

本当は前回の続きの記事を公開するつもりでいたのだが、
前回の記事とこのMVの内容が思いがけずスムーズに接続していたので、今のタイミングで触れた方がいい気がした。

個人的にこれはとても重要なテーマだと思っているので、本記事はぜひ前回の記事(下記リンク)とセットで読んでもらえたら嬉しい。


ティーザーに突如現れた
『マクベス』のワンシーン

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イルデを数日後に控えた7月3日の午前0時、とうとうギブテクMVのティーザーが上がった。どこかの建物の屋上で雨に降られながら、言葉もなく佇む7人の姿だ。

かっこいいなーと思いながら2、3度繰り返して観たところで突然鳥肌が立った。
バックで微かに鐘の音が響いていることに気づいたからだ。

『マクベス』だと? 
 ここで??


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『マクベス』はシェイクスピアが自主隔離中に執筆した戯曲のひとつだ。


生涯で繰り返しパンデミックに遭遇したシェイクスピアの作品には、ところどころに感染症の存在を感じさせる描写が現れる。

たとえば『ロミオとジュリエット』でロミオに手紙を届けようとした使者が検疫官に見咎められたり、『ハムレット』や『恋の骨折り損』などで恋は熱病(疫病)に感染したようなものと表現されていたりするのがそうだ。
(ハイもうお分かりですね、これが「FEVER」への引用になります。だから「君を患いたい」という不思議な歌詞になるわけです)


ただ、"匂わせ"以上にペストの実態を表現したものはほとんどない。疫病や死があまりにも身近すぎて、舞台で再現されることを観客もシェイクスピア自身も好まなかったためだろう…と言われている。

そんななか唯一生々しさを感じるのが、『マクベス』の第四幕第三場に出てくるこの台詞なのだ。

溜め息と、うめきと、叫びが空気を劈くが、誰も気にとめぬ。
激しい悲しみはありふれた狂気となり、
弔いの鐘が鳴っても誰が死んだか問う者もない。 

(「コロナ禍中の生き方をシェイクスピアに学ぶ」河合祥一郎 より)


疫病が流行するスコットランドの空に、死者を弔う鐘の音が絶え間なく鳴り響いている。だが誰の心にももう、それを気に留める余裕などない…。

諦め、そして深い絶望を感じさせる描写だ。
これが書かれた時、シェイクスピアが暮らすロンドンにも毎日のように同じ音が響いていたかもしれない。

(と思いながら呟いたTwitterで、うっかりマクベスの舞台を「ロンドン」と書いてしまった…なぜ後修正できないのかTwitter。。)


黒装束に全身を包んだ7人は、ただ無言で鐘の鳴り響く街を眺めおろす。
血の気のないその顔には、深い悲しみと静かな怒りが湛えられているようにも見える。まるで、この状況をどうすることもできないやるせなさ、自分たちの無力さを噛みしめるかのように。

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こうして、彼らの日本デビューはあまりにも重苦しいムードの予告で幕を開けた。

「BORDER」2部作でさんざんシェイクスピアを引用してきたとはいえ、正直イルデでもまだやるとは予想していなかった。

一体どんなMVが作られたというのだ?


すべてのことはいつか過去になる。
でも、僕たちは忘れない。


ENHYPENのミュージックビデオの特徴のひとつは、「リアル」と「ファンタジー」が絶妙なバランスで両立していることだ。

彼らのMVは「アーティストとして歩み始めた等身大の彼ら(リアル)」「ヴァンパイア少年たち(ファンタジー)」の、それぞれの成長過程を同時に描こうとしている。互いの世界は影響し合い、時にクロスオーバーしながら進んでいくことになる。

それをふまえて「Given-Taken (Japanese ver.)」のMVを見ていきたい。

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序盤に現れるのは、窓を閉めきった部屋にいる虚ろな眼差しのヒスンだ。
部屋は薄暗く雑然とし、壁には乱暴に引きはがされた壁紙の跡が残る。

おそらく彼は長いことここに閉じ込められて(あるいは閉じこもって)いるのだろう。画面は閉塞感とフラストレーションでいっぱいだ。
汚れたバスルームにはソヌもいる。
割られた鏡がストレスの大きさを物語る。


見ればヒスンの目の下には深い隈が刻まれ、傍らには点滴をイメージさせる赤いコードが垂れている。
「彼は病の中にいる」と言いたいのか。

そうだ。彼らは病の中にいるのだ。
何の?
感染症の。

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日の光にさらせない肌。
微かな日差しにも刺激を感じて反応する体。
忌々しげに板が打ち付けられた窓、首筋に残る何かの傷跡…。

「ファンタジー」の目線で見れば、これらはヴァンパイアの典型的な特徴に絡めた描写に違いない。
だがヴァンパイアに噛まれることでヴァンパイア化するという現象は、感染症の性質とよく似ていないだろうか?


そう。
「リアル」の目線にスイッチした途端、これらはことごとく私たちのよく知る感染症の隠喩に見えてくるのだ。

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思い出してみてほしい。

外出にも、素手で何かに触れることにも命の危険を感じていた時期が。
隣人とさえ顔を合わせず、誰に対しても疑心暗鬼になっていた時期が。
散らかりがちな部屋で延々とスマホを眺めていた時期が、
私たちにもあったのではなかったか。


ジェイが佇む集合住宅の廊下には切断されたたくさんのケーブルがぶら下がっているが、これは、他者との関わりが突然絶たれてしまった当時のことを連想させる。

健康にあの時期をやり過ごした私でさえそう思うのだ。
実際に発症したり、隔離生活を送った人たちはまさにこんな光景の中で、想像もつかないほどの恐怖や孤独を感じていたんじゃないだろうか。



そう思いいたって、私は少し愕然とした。
あんな思いをしたはずなのに、いつのまにかその記憶が薄れていたということに。


もしこの映像を去年の今頃見ていたなら、誰もがきっとすぐに自分の状況と照らし合わせたはずだ。
だが、その時は…もしかしたら直視できなかったのかもしれない。
シェイクスピアとその観客が、身近すぎる死と疫病の存在を舞台の上にまで持ち込みたくなかったのと同じように。


パンデミックが落ち着きつつある今だからこそまっすぐ見ることができる、そして今だからこそもう一度心に刻む必要のある、そんなMVを彼らは作ったんじゃないだろうか。

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では、もしヴァンパイア化が感染症にかかることのメタファーならば、MVの中の彼らはヴァンパイア(感染症)の自分を否定するのだろうか?

否、彼らはそれを受け入れる。

なぜなら、彼らがパンデミック時代に生まれたグループだからだ。
自分たちの出発点がどんな時代だったか、それが自分たちにどんな影響と教訓を与えたのか。たとえ世の中からその記憶が少しずつ薄らいだとしても、「僕たちは忘れない」と彼らは誓う。

「忘れてはならない記憶として自分たちの細胞に刻みこみ、それを抱えて成長していく」と、彼らはそう約束しているのだ。


優しい夜の闇を駆け抜ける
7人の行く手にあるものは


さあ、話をMVの中に戻そう。

他者との関係が分断された世界で、絶望の淵に立たされた彼ら。
その魂が救われることはあるのだろうか。

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MVの中の少年たちは、まだ太陽の光を直視することができない。


だが、よく見てほしい。
このMV全編を通して頻繁に現れる小さな「光のちらつき」
どうやら彼らは、その中に何かしらの信号を感じ取っているようなのだ。

ジェイは廊下の蛍光灯から。

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ヒスンはブラウン管から。

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ジョンウォンは車のライトから。

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ニキは電話ボックスの照明、

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そしてジェイクはショーウィンドーの明かり

ソンフンやソヌもまた、電灯から発せられる
細かい「光のちらつき」に何かを感じ取っている。


この類の「光のちらつき」を何と呼ぶか知っているだろうか。



「フリッカー(Flicker)」というのだ。


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彼らの代表曲のひとつでもある「Flicker」は、離れた空間にいる者同士が、またたくような信号を送りあって互いの存在を確かめる歌だ。
たったそれだけで、ずれてしまった互いの空間が繋がり、僕たちはひとつになることができる…
そんな歌詞だったことを思い出してみてほしい。

彼らは、私たちENGENEに
直接会えないこんな状況でも思いは届いている、そしてそれはちゃんと彼らの原動力になっていると、
このMVを通してはっきり伝えてくれていたのだ。

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その時、世界に反転が起こる。
(「反転、逆さま、覆り」は重要なテーマ。これは次回にて)

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彼らは、ひとつひとつの窓に人生があることを知り、その中でさまざまな思いが極限状態にあることを悟る。

僕たちにできることは何だ。
僕たちにできることがあるはずだ。

虚ろだった目に光が差し、彼らの中には今、決意が芽生えている。


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ラストシーンは、シャッターが下りた夜の街を全力で駆け抜ける7人の姿だ。
全編を通して重苦しい雰囲気の中で進行してきたMVだが、ここでようやく彼らの表情に少年らしい無邪気な笑顔が浮かぶ。

太陽が沈み、蛍光灯の明かりだけになった夜は彼らに優しい。
たとえ先を見通せない闇の中にいても、今の彼らはもう、彼らを照らすかすかな光の向こうに味方がいると知っている。

だから彼らは、やがて訪れる夜明けに向かって力強く走り出すのだ。



ここで再び、『マクベス』の一節が鮮やかに浮かび上がってくる。

彼らが本当に伝えたかったのはこの一言に尽きるのだろう。
街に陰鬱な鐘の音が響いていたあの第四幕第三場、
その同じ幕の最後を結ぶ、もっとも有名な、もっとも印象的なあの台詞だ———


「明けない夜はない」。

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【元動画】
ENHYPEN (엔하이픈) 'Given-Taken [Japanese Ver.]' Official Teaser


ENHYPEN (엔하이픈) 'Given-Taken [Japanese Ver.]' Official MV


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