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ENHYPENを読み解くキーワード 〜①シェイクスピアとパンデミック


「次のカムバは秋かな、それまでにのんびり情報の整理でも…」
とか思っていたが、どうやらそういうわけにもいかなくなった。


正直7月の日本デビューでは、ENHYPEN universe(仮称。EU/Dark Moon)の物語は大きく進展しない気がしてたのだ。でも最近の様子を見て「これは一気に進んでしまうかも」と思い直した。

どんどん先に行かれると機会を逃しそうなので、ここらで少し私の基本的な考えを書き残しておくことにする。


唐突だが、これから彼らは
ワームホールを通って時空を超えた長い長い旅に出る。
と予想している。

「急にドラえもんかいw」と笑う人もいるだろうし「そんなの分かってるよ?」という人も多いだろう。
おそらく後者はBTSやTXTの物語に詳しいはず。そう、先輩たちの物語は異世界へのジャンプが鍵となるファンタジーだ。そして、行った先で否応なしに自分の内面と向き合うことになる…という不変のパターンを持っている。
ENHYPENのMVにもすでにその傾向が見えるので、SF的展開はごくナチュラルな予測なのだ。


だがしかし。

そんなことも今は一旦横に置いておく。
なぜならENHYPENが時空を超えることには、もっと別の、とてもディープでエモーショナルな必要性があるからだ。

私もそれなりに物語の解釈を楽しんではいるけれど、そこにはいくつかの前提がある。今日はそのあたりをちょっと語らせてもらいたい。


これから先はしばらくキラキラしたK-popアイドルの世界から離れ、よほど物好きでないと「は?何の話?」となりかねない内容になる。
でも彼らが、一見何の関係もなさそうな意外なものと見事にコネッているのを知ったら、様々なことが違った景色に見えてくるだろう。
もし興味のある人がいたら、深海に潜る感覚でお付き合いください。


シェイクスピアの引用に見るENHYPENのテーマ


何はともあれ、シェイクスピアがものすごく大事だ。
これからENHYPENの物語の根っこにある
「シェイクスピアつながりの話」で知っておくべきことを3つ
取り上げ、できるだけ簡潔に説明したいと思う。


ひとつめは、ENHYPENの楽曲や映像に多く見られるシェイクスピアの引用について。
これに関しては、2020年12月7日に配信されたweverse magagine『ENHYPENの物語がシェイクスピアと出合う時』が詳しい。


実はこの記事を目にした時、「こんなに若いアイドルグループの、デビュー直後の記事がシェイクスピアとは…」とちょっと驚いた。
今時の子がソネットやハムレットなんかに興味あるのかな?と。

たぶんHYBEさんは最初にきっちり手がかりを示したかったのだ。
なぜならここにENHYPENの原点があるから。

シェイクスピアの作品には『BORDER:DAY ONE』に影響を与えたであろう箇所が散見されるのだが、この記事は、とくに重要な引用がどれかをきちんと教えてくれている。



①ソネット11 … 『Intro:Walk The Line』  

"she carved thee for her seal"
(自然が刻印のためにきみを刻んだ)

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'Intro : Walk the Line'
from BORDER : DAY ONE



②ソネット148 … 『Given-Taken』 

"the sun itself sees not till heaven clears"
(太陽でさえ、空が晴れるまでは何も見えていない)

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'Given-Taken'
from BORDER : DAY ONE



③ハムレット 第三幕第一場 … 『Given-Taken』

"to be or not to be, that is the question."
(生きるべきか死すべきか、それが問題だ)

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'Given-Taken'
from BORDER : DAY ONE



④ ハムレット 第一幕 第三場 … 『Outro : Cross The Line』

"This above all―to thine own self be true,
 And it must follow, as the night the day
 Thou canst not then be false to any other man."
(何よりも、自分に正直であれということだ。
 そうすれば、あとは夜が昼を追うごとく
 他人に対しても正直にならざるをえなくなる。)

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'Outro : Cross the Line'
from BORDER : DAY ONE



詳しい説明は記事を参照していただくとして、
これらの作品を引用しながら彼らが表現したものを(乱暴なのを承知で)一言に置き換えるとするならこうだ。


「永遠性への憧れ」

「太陽(光)との葛藤」

「自身の存在理由の問いかけ」

「自分に正直であることの誓い」



なんて分かりやすく、象徴的だろう。

これらはアーティストとして生き始めた彼ら自身のテーマに他ならないし、同時におそらくは、MVの中のヴァンパイア少年たちのそれでもある。


刹那的な快楽がほしいわけじゃない。
時間を超越して価値が失われない、そんな存在として生きたいのだ。
僕たちがこの世界に刻まれた理由は一体なんなのか。
それを知るために必要だというなら、
燃えるような強い光に身をさらしてでも進んでいくことを誓おう。



シェイクスピアを引用した『BORDER:DAY ONE』からは、彼らの思いをそんなふうに読みとることができる。
これから現実の彼らとドラマの中の少年たちは、ともにこのテーマと向き合い、「心の旅」という面では同じ道のりをたどっていくことになるのだ。



パンデミックによってコネクトされる中世と現代

ふたつめとして、シェイクスピアが生きた時代に何が起こっていたのか注目する必要がある。

パンデミックだ。

当時シェイクスピアの故郷イギリスは、すでに14世紀からの断続的な黒死病(ペスト)の流行下にあった。
1348~1350年のパンデミックではロンドンの人口が約半分に。大流行はその後もたびたび繰り返され、人々は実に17世紀まで疫病と隣り合わせであり続けた。

絵画『死の勝利』(ピーテル・ブリューゲル、1562年)
『死の勝利』(Pieter Bruegel
ピーテル・ブリューゲル/1562年)


まさにそんな時代、1564年に生まれたシェイクスピアは、生涯で3度もパンデミックを経験することになる。
生後3カ月の頃には、地元ストラットフォード・アポン・エイヴォンで町の約1割の人間が死亡する事態を経験。劇作家としてロンドンに進出してからは、1593年と1603年の大規模な疫病流行でロンドンの人口が2万人、3万人と減るのを間近で見ていた。


さて、ここに興味深い事実がある。

1593年からのパンデミックで、自主隔離を余儀なくされたシェイクスピアが自宅で黙々と書き上げた戯曲こそがかの『ロミオとジュリエット』。
そして1603年のパンデミックで劇場が閉鎖に追い込まれた際には『リア王』、さらにその後もステイホーム期間を利用しては『マクベス』『アントニーとクレオパトラ』といった後世に残る名作を次々と生み出して行ったのだ。

これらの作品には、ペストで混乱する世界を冷静に見つめることで培われたシェイクスピア独特の死生観が生きていた。
そしてそれこそが、不安の中で生きる人々の心を掴んだ理由でもあった。


さあ、それで何が起きた?って話だ。

シェイクスピアはこれらの作品によって成功し、劇作家としての人気を不動のものにした、…
だけではない。
彼は一時的な流行作家にはならなかった。その時代どころか、その後400年以上を経た今もなお世界中で愛され、絶え間なく作品が上演され続けるという「永遠性」を手に入れたのだ。

ソネット集の中で繰り返し「永遠性」の尊さを説いたシェイクスピアは、とうとう「世界に自分を永遠に刻み込む」ということをやってのけた。
それもパンデミックという途方もなく絶望的な状況の中で、人々の心に光をともすという方法で。

それこそまさしく、HYBEとENHYPENの目指すところではないか。

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2020年、パンデミックによって世界が停止したそんな時代に、ENHYPENというグループは生まれた。
I-LANDの準備が着々と進められていた頃は、HYBEの上層部だって誰一人、こんな世の中になるなんて想像していなかっただろう。だが世界がそうなってしまった以上、この時代に誕生した意義が必ずあると彼らは考えた。そして行きついたヒントがシェイクスピアだったのだ。


ENHYPENはこの偉大な文豪から"問い"と"答え"の両方を見出した。
次は彼らが目指す「到達点」への道筋を自分たちで見つけ、歩き続けることだ。



はい、
それでは聴いてください『Intro:WalkThe Line』

いや本当にこの曲、素晴らしすぎていつも鳥肌立つんですが!

生まれたての目がとらえた世界の美しさ。
その世界のことをまだ何一つ知らない自分が、ただ目の前に伸びる道をまっすぐ進むことだけを誓った最初の朝。

ENHYPENの原点や目指す道を思いながら聴くと、沁み方が変わってくるのではないかと思う。
イタリア語を入れてきたのがまた興味をそそるよね...


このまま「シェイクスピアつながり」の3つめの話に行くべきところだが、長くなったうえ脱線までしたので次回に。

今回のおまけ 

シェイクスピアといえば『ハムレット』。ハムレットといえばこの絵がすぐに思い起こされる。愛するハムレットに冷たくされ、失意のうちに死を選んだオフィーリアの最期。

スクリーンショット 2021-06-24 163350
『オフィーリア』(ジョン・エヴァレット・ミレー/1852年)

この絵の、ここんとこです。

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これがおそらく、絵画の世界でもっとも有名なForget-Me-Not(勿忘草)です。
イギリスでは、水際によく咲いてる花なんです。

印象的なその名は、恋人のためにこの花を摘もうとして川に落ちた騎士の最期の言葉が「僕を忘れないで」だった…という伝説からきています。


来世で会える日まで、どうか僕を覚えていて
大切に思う相手と死に別れる瞬間にそんな思いが溢れたのだと考えたら、なんて切ない響きなんだろう。

ENHYPEN universeではもしかしたらそんな使われ方をしてるんじゃないかな、って思っています。

イルデまであともう少し!yeah!

<2023年5月追記>
当記事の公開より約10日後の2021年7月6日、ENHYPENは日本語オリジナル曲『Forget Me Not』を含むアルバム『BORDER:儚い』で日本デビューしました。その後、2022年1月にwebtoonでスタートしたコミック&ノベル『DARK MOON:THE BLOOD ALTAR』では、前世で別れた姫と騎士のファンタジーロマンスが描かれています。


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