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夜行

森見登美彦の『夜行』を読み終わった。
時刻は11時をまわり、そろそろ日付が変わる準備をしている。窓の外から虫の声が聞こえる。昼には気がつかない秋の気配を感じる。私もまた、夜に囚われている。

子どもの頃から夜が好きだった。夜は昼間にない、何かひっそりとした秘密が隠されているようで、そのことに誰も気づかない。ただ1人、私だけが知っている。
特に秋の気配漂う夜は、その秘密が一層輝きを増す。
誰もいない道を夜空を見上げながら歩いていると、まるで夜の秘密を探るスパイのような、宝物を探し当てる探検家のような、そんな気持ちになってワクワクした。
かと思えば、ただ1人世界に取り残されたような、私以外この地球から消えてしまったような感覚に囚われた。
もし家に帰って誰もいなかったら。このまま朝が来なかったら。私は一体どうなってしまうのだろう。
そう考えると、悩んでいることがとても些末な事で、今の自分なら何でも出来るような気になった。

そうして、若かった私は幾度も夜を越え、今の私がある。今でも時々、夜になると外に飛び出したくなる時がある。特に秋の気配に気づいた夜は。
そんな時は、家の近くのコンビニまで夜空を見上げながらゆっくりと歩き、肉まんを買って帰るのである。

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