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Twin Peaks ('90-'91 TVシリーズ & 映画"Fire Walk With Me")/デビッド・リンチ監督他

デビッド・リンチ監督は以前から好きで、でも、ツインピークスを観るまでは「好き」の中身は空洞でだった。

そして、ツインピークスを観た今は…
ヘンテコな事ばかりを話す、なぜか好きになってしまう隣人のおじさん。手放しに「好き」というほど知らないけれど、側にいると安心するアットホームさを兼ね備える。如何しようも無い好奇心に駆られる対象になってしまった。

ツインピークスの評を書こうとすると、どうも文才の無さをわきまえないラブレターになってしまう。恐ろしく面白く、こんなにビッグな作品の評を書くには不相応ではあるが、感動の中身もしっかり書かねば。っていうか、好きの感情を飛び散らしたい!という自己満を解消させていただきたい。

Twin Peaksには大まかに、ファーストシーズン、セカンドシーズン、リターン、そして映画“Fire Walk With Me"’(→邦題は「ローラ・パーマー最期の7日間」だけれど敢えて原題にさせていただく)4つのシリーズがあるけれど、noteでは"25年前"の出来事と"return"の二回に分けて書きたいと思う。

ただセカンドシーズンの大半はマジクソで、ひどい、クズみたいな展開で閉口するので「大衆の意見を重要視しすぎてプロデューサーがダメにした作品代表」とだけ記しておきたい。まじでReturnが出てTwin Peaksは救われた。

あらすじ
【#1〜#17】前半は主に、殺されたローラ・パーマー事件を取り巻く話である。ワシントン州のカナダとの国境に隣接するTwin Peakという小さな町で人気者の女子高生ローラ・パーマーが死体となって湖畔で発見される。この事件を解決すべくFBIのクーパー特別捜査官が町に訪れ、あらゆる人々のアリバイを探していく。町の人々それぞれにアリバイがあるが、それぞれ殺人事件とは関係のないところであらゆる問題と関係を持っていた事が判明する。と同時に、なぜか殺されたローラが「あらゆる問題」に首を突っ込んでいたことも浮き彫りに。クーパーはツインピークスという町に流れる悪の根源に迫りながら謎を解明していくのだった。

ツインピークスの魅力
90年代の初頭に一世を風靡した作品なので、誰が見ても面白い作品だったのだと思う。恐らく、ツインピークスの人々の利害関係を解き明かしていくと、自然とローラ殺人事件に繋がっていく…
主軸が「ローラが誰に殺されたのか」をダイレクトに解くありふれた事件ものではないところが独特で面白かったのだと思う。

自分も、何が面白いのかを冷静に分析しながら見たかったが…すぐに冷静さを欠き、謎が謎を呼ぶ展開に手に汗握りながら「ヤベーまじおもしれえ」と膝を打ちながら魅入っていた。

“謎だらけのローラ殺人事件解決もの”というシンプルな展開ではなく、“ローラという人物そのものが謎”であり、いったいどんな女性だったのだろう?と言う疑問にどんどん引っ張られて行く「過程」が楽しい。

その「過程」は、ツインピークスの住人たちの日常、殺人事件以外にも存在している町の病理が明かされる過程でもある。ローラの謎を解き明かすことがツインピークスという町を知ることにつながり、見進めているといつの間にかツインピークスの人々にすっかり虜になってしまう。

もっというと、まるで自分がツインピークスの住人になったような錯覚に陥る。

自分の場合、「ツインピークスの続きが観たい」という感情よりも、「ツインピークスに流れている空気に触れたい」「クーパー特別捜査官に早く会いたい」という感情に突き動かされていた感覚があった。

さらに、作品の最大の魅力は何と言っても観続けていても「ローラの事件は解決することがない」設定がバックグラウンドにあることだと思う。

ローラを殺した犯人が「誰」かは分かったけど、「何者」かは分からない。「Twin Peaks」という作品の根底に流れているのがこの不条理であり、この作品が今も傑作として語り継がれていて、いつまでも新鮮さを失わない理由ではないかと思う。

クーパー特別捜査官に会いたい
90年代、リアルタイムでツインピークスを観ていた友人は、ことあるごとに「カイル、カイル」と唱えており、似顔絵まで書いちゃったりしていた。当時は光GENJIがブームだった頃でもあり、カーくんのプロマイドで喜ぶ女子たちを尻目に、カイルファンの彼女は確か写真の切り抜きを下敷きに挟んでいた。

光GENJIのプロマイドを集める心理も理解できなかったし、有名人の切り抜きに目をハートマークにして便乗していた彼女を「この洋画かぶれが!」と内心バカにしていたが、25年経った今、かつての彼女のように「クーパー、クーパー」と唱えている

クーパーの虜になっているのは、彼がイケメンだからではない。もちろん、イケメンであることも魅力の要素かもしれないが、クーパーの切れる頭脳と独特の勘、性格の良さには誰しも心奪われるはずである。

クーパーは謎をどんどん解決する。

しかし、解明するとまた新たな謎を呼んでしまい、クーパーはどんどん世の真理に近づいて行くのである。

ツインピークスの住人共々、いったいクーパーが導かれる先はどこにあるのかと観客は引っ張られてる。そして「この人についていけば世界がわかってしまうかもしれない」くらいの気持ちになってしまい、クーパーに圧倒的な信頼を寄せてしまう。

他者を卑下しない、常にポジティブ、悪を悪と扱わない、そして自身にも闇を抱えている。言葉にしてしまうと、よくいるスーパーヒーローなのだが、観続けていると、もう彼が登場してコーヒーを飲んだり、ドーナツを食べたりするだけで嬉しい気分になってしまうヒーローなんていただろうか。今まで観た数々の映画の中で、これほど魅力的な主人公は思いつかない。

クーパーを演じるカイル・マクラクランも「一生クーパーを演じていたい」と言っていたそうで、おそらくクーパーを演じていると心の中も善人化して
気持ちがいいのではないかと想像する。とにかくクーパーは「超いいヤツ」なのである。

(一応追記しておくと、ここまで魅力を兼ね備えた主人公になったのは「連続ドラマ」だったからであることも間違いないと思う。連続ドラマだと、映画の2時間とは違い、魅力を語る時間がたくさんあるので、映画と比較するのは少し違うかもしれない。)

世の理が垣間見える物語
※ここからネタバレ含む
超キレキレなクーパー捜査官が最終的に解明したのは、ローラ・パーマーの事件はただの殺人事件ではなく、もっと深淵に眠る世界の真実がツインピークスにあったことである。この深淵に眠る世界の真実が、ツインピークスの全シリーズに流れる壮大なテーマと言っていいと思う。

ツインピークスが25年を経て"return"してしまう理由にもなるけれど、ローラ殺人事件は人の心に住む「悪い魂(=killer bob)」によって引き起こされ、その悪はblack lodgeと呼ばれる宇宙に存在している。そして、ツインピークスという名前から推測すると、おそらく悪の対となる「良い魂」も存在していて、彼らもWhite Lodgeと呼ばれている宇宙空間に住んでいる。その善悪の魂たち両方が存在する宇宙への入口がツインピークスにある。

このアイデアに触れた時、日本の縄文信仰とよく似ていると感じた。

ツインピークスは、この雌雄一体を持つ土器と同様に、世界に存在している黒と白や男女、裏表、悪善、両極と一見思えるものが一の世界に存在していることを表しているのではないか。

人間というのはこの両極のどちらかに引っ張られがちだが、世界というのは二元に分けられるものではなく一元、あるいはカオスなのではないか。その信仰をツインピークスという物語に込められているのではないかと。

そして善悪のバランスを欠いてしまったローラは、この悪の存在を極端に感じてしまったから殺されてしまったのではないか。というのが私の推測である。

もっと深読みすれば、ローラという人は一般の人間よりも白に近い、善人だったからこそ、バランスを取るためKiller Bobに目をつけられたのではないだろうか。さらに、ローラと同じく、クーパーも然り。(ローラの父、リーランドも)

世界というのは、両極に傾けば中庸に戻ろうとする振り子のような仕組みになっており、中庸に戻ってもそこには長く止まらない。その象徴としてのローラ・パーマーの殺人事件であり、そしてReturnに続く物語なのだ、というのがツインピークスを通して流れているテーマだと想像する。

あくまでも仮定ではあるけど、そう理解するとReturnの謎もクリアになる部分があり、ツインピークスの全体像を楽しめる。

しかしながら、アメリカで「もっとも最悪な悪の象徴キャラ」としてキラーボブがベスト100入りっていう立ち位置に、なんとなく微妙な気持ちが。。ボブって安っぽいのが良いんだけどな、と個人的に思う。
(ちなみに私のベスト悪象徴キャラは「狩人の夜」のアイツだな)

テレビシリーズの後半は観なくていい
取り急ぎ、後半はクソすぎるので、いつか全編を見るつもりでいる人には「見る必要はない」と言いたい。全く大事な情報は入っていないので、とりあえず最終回だけ見ればReturnに続けるはず。

敢えて楽しみ方があるとすれば、クソ回を作る監督は毎度同じクソっぷりを披露することや、唯一楽しめる#28の監督スティーブン・ギレンホールは、あのジェイク・ギレンホールの父親だったり、なぜが#23はダイアン・キートンが監督をしていて、彼女が映画監督として世に羽ばたいてない理由が明確になったりすることくらい。

個人的にはネイディーンのドタバタが唯一心休まる時間だったけれど、こんなスラップスティック、ツインピークスには求めていない。
思い出しても腹が立つ。見た時間を返して欲しい。
それくらい得るものが少ない後半だった。

ただ、後半の長グソに耐えたからこそReturnを爆発的に楽しめたかもしれないので、時間に余裕がある心の広い人にはオススメ。

映画"Fire Walk With Me"は最高に楽しい
映画「ツインピークス ローラ最後の7日間」は意味不明な映画として語られることを度々目にするものの、個人的には非常に楽しい作品だと思った。

確かに謎を解き明かす情報が充実しているわけではないものの、ローラがいかに生前苦しい思いをしていたかが見えたことによってKiller Bobの存在理由に少し深みを与えてくれた。Killer Bobが彼女を殺したことは最悪な出来事ではあるものの、命を奪われることでローラは救われたのではないかという考えが過ぎったのが興味深い。

さらに、ブルーローズというコードネームを持つ事件がローラ殺人事件の前に存在しており、FBIがどういう過程でローラの事件に、はたまたツインピークスに介入するに至ったかが垣間見える大事な作品である。Returnをより一層楽しませてくれる情報はたくさん詰まっていると同時に、演出もリンチワールドが炸裂していて素晴らしい。

ただ、ツインピークスのテレビシリーズを観る前に見てしまうと、わけのわからない展開続きなので、意味不明な映画という不名誉な肩書きを持っているのは仕方がないかも。

何はともあれ、ツインピークスは(後半を除いて)最高傑作である。

まとめ
映画製作のテキストにしたくとも、面白すぎてツインピークスファンとなってしまい難しい。

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