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データ戦略の会社が考える「マーケティングとブランディングの違い」〜どちらもデータで測れるという話

ちょっと前にマーケティングとブランディングの違いについて、タイムライン上で話題になっていました。

これはもちろん定義の話で正解がある訳ではないのですが、少なくとも「ブランディングはマーケティングより優れている」とか「ブランディングなんていんちきだ」というような言い方は、若干のポジショントークも含まれているのではないでしょうか。 

その上で、定義を色んな角度から考えることで、個々の活動の目的を考えたり、目的を達成するための手段の視野を広げ、粒度を高めることに意味があると思うので、データストラテジー版の定義を取締役の竹中 @Nobu_TAKENAKA(P&Gマーケ出身)と一緒に作ってみました。

*今日は長くなってしまったので、ショートバージョンとロングバージョンがあります。

スーパーショートバージョン

・ブランディング ⊂ マーケティング
・「マーケティング」顧客の行動を変化させることに関わる活動の総称
・「ブランディング」顧客の行動を起こすため、顧客の認識を変化させることに関わる活動の総称
・マーケティングとブランディングの成果はどちらもデータで計測できる

ショートバージョン

マーケティング:
「事業を継続的に成長させることを目的とし」「顧客の行動を変化させることによってそれを達成しようとする」「活動の総称」。
ブランド:
人々の中にある、認識・連想の集合体

ブランディング(Brand+ing)or ブランドマネジメント:

「顧客に望ましい行動をとってもらうために」「顧客の認識・連想を変化させる」「活動の総称」
*ビジネスにとって重要な人、例えば従業員や行政、取引先なども必要に応じて含めることもあります。
マーケティングとブランディングの関係性:
・ブランディング ⊂ マーケティング  -> i.e. この定義では、「これはマーケティング活動の一部だけど、ブランディングとは言えないよね」は成立するが、「これはブランディングであって、マーケティングじゃないんだ」は成立しない。
・マーケティングは、最終的には顧客の行動に落ちないと意味がない。一方顧客の行動を物理的に無理やり起こさせることは多くの場合できない。認識・連想を変化させることによって、人の行動は変化するので、行動を変化させるためにブランディングを行う。
マーケティングとブランディングの成果はデータで測れる:
・顧客行動の変化の結果である、売上を顧客行動で要素分解して測定すればよい。具体的には・・
1)売上を要素分解し顧客の行動とそれに影響を与える認識・連想に落とし込む
  ・非利用意向/利用意向/接触/コンバージョン/アクティブ/ロイヤル化/リファラル
  ・認知の有無(認知率)/具体的な認知のされ方/購買意向/過去の購買有無/現在の購買頻度

2)顧客に聞いた結果 or 顧客行動の結果をデータとして収集・分析する
・外部からは正確に観察できないものもある(ex. 認知のされ方)
・そのため、データ収集方法と分析手法を、実務的だけでなく科学的な視点から設計する
・収集可能なデータ、分析可能な手法は広がりをみせている
・マーケティング・ブランディング上の施策改善に繋がる測定方法を設計して実行することが重要
・個別施策の効果測定(ex. TVCMのROI)も統計的に可能。ただし、時間とコストがかかるので、どこまでやるべきかはケースバイケース。

ロングバージョン

まず、マーケティング/ブランディングの定義を話す前に、私がこのマーケティング/ブランディングを体系的に考えるために置いている前提の確認です。

前提1
ほぼ全てのビジネスは「価値の交換」と考えます。古くは貝と米を交換していたものが、貨幣のを介するようになり、現在ではデータを提供する代わりにサービスを提供する(Facebook, Google検索)ようなような形態も現れるようになりました。その全ての時代や取引に共通しているのは、交換する相手(WHO)がいること、こちらが提供する価値(WHAT)があること、そして交換相手に自分の価値を知ってもらい・価値にアクセスしてもらう必要があり、そのためには様々な施策(HOW)を行う必要があるということです。

前提2
継続的に売上(ないしユーザー数等の成長に関わるKGI)が成長していくことが望ましい

その上で、データストラテジー版の定義は以下です。

マーケティングの定義
「事業を継続的に成長させることを目的とし」「顧客の行動を管理することによってそれを達成しようとする」「活動の総称」。

これは大きく3つに分けられます。

1. 価値を交換する相手を選択・理解し、その相手にブランドが提供する価値を定義すること
2. ブランドの提供する価値をプロダクト・サービスで体現すること
3. 消費者のブランドに対する認識を管理することによって、望ましい行動の変化を起こすこと

1と2をデザインマーケティング、3をデリバリーマーケティングということもあります。マーケティングに関連して語られる、様々な活動(調査、プロダクトデザイン、広告、PR、コミュニティマネジメント、インフルエンサー、販促etc)が、それぞれいずれかの部分ないし複数に渡って含まれることになります。

言い古されたことですが、これらを別に「マーケティング部門」という肩書の人が行う必要はありません。組織全体としてこれらのことができていることが重要で、かつそれらがCEO, CMO, 事業責任者誰かによって一貫性を持つように統合されていることが重要です。

ブランドの定義
「顧客の中にある、認識・連想の集合体」

象徴的な例としては、例えば Google, Apple, Samsung がそれぞれ自動車を発売するとしたら、どんな車でしょうか?見たことがなくても、それぞれどんな特徴がありそうかイメージが湧いてきませんか?かつ、どれに興味があるか、あるいはないか、何の情報もないのに既に差がありませんか?それが、認識の中にある連想です。
ビジネスにとって重要な人、例えば従業員や行政、取引先なども必要に応じて含めることもあります。従業員の採用・リテンション、行政や政治家からのサポート、取引先との関係性にもブランドは影響があります。

ブランディング(Brand+ing)の定義
特にマーケティングの定義3点のうち、以下の部分を指す。
2. ブランドの提供する価値をプロダクト・サービスで体現すること
3. における「ブランドに対する認識の管理」の部分

つまり

ブランディング ⊂ マーケティング

です。

したがって企業のマーケティング責任者は(業界・商材によりますが)ブランディングの知見ももっていることが望ましいし、マーケティングの中にも調査や店頭・SNS・マス等様々な専門性があるように、ブランディングに特化した専門性も、それを必要とするビジネスにとっては価値があるということです。

マーケティング・ブランディングの成果は「データで測れる」
ここで重要なのは、今の時代においては、マーケティングの成果もブランディングの成果も「データで測れる」ということです。

マーケティングの成果やブランディングの成果は、究極的な成果は売上の拡大であり、売上は要素分解をすれば顧客行動に落とし込まれます。以前のnote記事「続・データを使って仮説を作る(データをマーケティングに活用する Part3)」では、ファネルとそれにもとづく活用データについて以下のように整理をしました。

上記の場合はSaaSなどのオンラインで完結するプロダクト、よって自社サービスへの接触以降が行動データとして取得可能なプロダクト例ですが、店頭販売が主流の消費財等でも、POSデータ(自社でID-POSを取得している場合もあります)やアンケートデータを組み合わせることで、自社製品への

・認知の有無(認知率)
・具体的な認知のされ方
・購買意向
・過去の購買有無
・現在の購買頻度

といった顧客行動をデータをTrackingすることが可能で、それによりマーケティングやブランディングの成果(ある施策を実施したときの顧客行動の変化と、それに伴う売上への効果)を定量的に把握することが容易になりました。

このように、売り上げを顧客行動に分解した上で、顧客に聞いた結果 or 顧客行動の結果をデータとして集めて分析することで、マーケティングやブランディングの成果を把握します。その際には、どのようなデータ収集・分析手法をとるかを設計する必要がありますが、分析手法や、分析対象の広がりも重要なトレンドです。

分析手法には機械学習を中心とした分類・予測、因果推論が用いられるようになり、分析アプローチ手法も増えて来ました。また、分析対象とされるデータも、これまでの構造化データ(アンケートデータやPOSデータなど何らかの規則に従って構造化されたデータ)だけでなく、SNSやブログ記事などのテキストデータ、監視カメラ画像、目線、脳波など、利用可能なものが増えて来ました。勿論こうした手法は、既存の調査手法を上回るROIが必要ですが、技術開発と用途開発は各社が進めているところなので、トレンドとして注目すべき分野だと思います。

こうしたトレンドを踏まえて、仮説を作るためのデータ収集なのか(1 shotで終わるのか)、モニタリングするためのデータ収集なのか(継続的に実行する必要があるのか)、その時の期間や予算は、といった論点を踏まえて、データ収集の手法とタイミングを設計して行きます。

具体例:顧客の認知のされ方を測定する
では、先ほどの定義にたちもどると、マーケティング・ブランディングの効果はどのように具体的にデータで把握できるのでしょうか。例えばブランディングにおける「顧客の認知のされ方の管理」を考えて見ます。

認知のされ方は顧客の頭の中にしまわれているので、認知の変化を全ての顧客に対して外部からTrackingすることは難しいです。この点を取り上げて、「ブランディングの効果は測定できない」と思われるかもしれません。勿論、厳密に正しく測定することは困難ですが、測定する方法は複数あり、実務上効果のあることが知られています。

具体的には、認知のされ方に対して仮説が深まっていない場合は1対1のインタビュー調査を繰り返して仮説を構築することもありますし、一度作った仮説を経過観察する(認知のされ方の変化を時系列で追う)場合は定期的なアンケート調査やBlog/SNSのログ解析を通じて顧客の認識変化を把握するという手法が現実的です(参考:以前のnote記事「データを使って仮説を作る」でも仮説構築の話を少しだけ触れています)。また、認知のされ方を通じて期待すべき行動は「ファネルを進んでもらう」ことですから、顧客行動を詳しくTrackingすることでこうした結果に繋がっているかどうかも把握することが出来ます。

このように、特にブランディングの効果を測定する際には

・観察不可能 Unobservable な知りたい情報について(ex. 顧客の認知のされ方)
・観察可能 Observable な情報を集め(ex. アンケートで本人に聞く)
・集まった情報を分析することで知りたい情報を推論し、意思決定につなげる

という流れを踏むことが多く、データで測定をしたからといって顧客の認知のされ方が100%正しくわかるわけではありません。ただし、様々な調査手法やアカデミック(特に統計学)からのアプローチ、経験則から、実務上十分に売り上げ改善につなげられる調査手法は色々なところで確立されており、これらの手法を正しく適用することが必要です。

また、個別の施策(例えばある時期に配信したTVCM)と、こうした認知のされ方の変化を、1対1でひもづけることもコストをかければ可能です。例えばMMM (Marketing Mix Modeling) 手法であれば、ファンダメンタルな売り上げの推移とテレビなどの個別施策の押し上げ効果を推計し、ROIを測定することが可能です。ただし、過去データを整理した上でのモデリングが必要で、時間とお金がかかります。(一方で、こうした手法を適用しなくても、TVCM後即購買につながるので効果が把握しやすいプロダクトもあります。スマホアプリなど)

そのため、データや分析リソースの制約から、個別施策の効果を分析することが難しい場合は、「各種広告施策を幅広く実施したトータルの結果として、全体的な顧客の知覚がどう変化したか」という粒度で把握せざるをえないこともあります。

もう一度、マーケティング・ブランディングの定義(ショートバージョン)にたちもどると、

マーケティング:
「事業を継続的に成長させることを目的とし」「顧客の行動を変化させることによってそれを達成しようとする」「活動の総称」
ブランド:
人々の中にある、認識・連想の集合体

ブランディング(Brand+ing)or ブランドマネジメント:
「顧客に望ましい行動をとってもらうために」「顧客の認識・連想を変化させる」「活動の総称」

ですから、売上を成長させるために、顧客の行動や認識を定期的に測定・管理する必要があり、そのためにはデータによるTrackingとそれに基づく改善が必要で、その Trackingの方法が売上改善の施策に繋がるよう、きちんと測定のアプローチ方法を設計することが重要です。

<続編: ブランディングの効果測定も併せてどうぞ>

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