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ビブリオバトルでの『午前0時のラジオ局』プレゼンテーション内容の要約(5分)

以下、チャンプ本に関するプレゼンテーションの要約です。

●この小説『午前0時のラジオ局』は、村山仁志さんというNBC長崎放送の現役のアナウンサーさんが書いた作品です。

●山の中の小さな煉瓦造りのラジオ局で毎日午前0時からスタートする深夜番組を舞台の一つとしていますが、作者の言葉を借りると『幽霊がディレクターで、生きてる人や死んでる人たちが番組にメッセージを寄越してくる(爆笑問題『日曜サンデー』で村山仁志さんが実際に使った説明)』というファンタジー小説です。

●注目すべきは、生きているリスナーの多くが、死んでいるリスナーからのメッセージを『演出』だと思っている点。つまり、この番組では、死者と生者がボーダレスに交わっています。

●私(川崎)は実際に深夜放送の現場にいたことがありますが、ラジオネームで送られてくる投稿は、メッセージの背景に肉体性がないので、実際のところ、幽霊からのメッセージだと言ってもおかしくありません。

●深夜放送には、切実なメッセージがたくさん届きます。思いのすべてをパーソナリティにぶつけたいのだろうが、字数も紙面も限られており、実際には自分から『見せたい自分、見られたい自分』の表層を剥ぎ取って、そこにメッセージを載せて、番組に投げかけてきます。

●これは、まさに幽霊と一緒ではないでしょうか。幽霊は、実体から表層だけが剥がれて浮遊し、そこに何か伝えたい無念や想いが宿ったものですが、幽霊は必ず『伝えたい何か』があり、その強い思いを解決したいのです。

●メディアには、本来、そうした寄り集まった『情報』が抱えている『想い』を組んでやる役目があると思います。

●近年、SNSなどの普及で、ニュースや情報が断片化したり、情報として実体が『発信』したがった理由や想いを引き離し、単純なデータで流通させることが多くなりました。しかし、想いが空席なデータは、流通過程でいろんな想いに乗っ取られることがあります。同じ一枚の絵、ひとことから全く違うニュースが流布することです。

●情報は『データと想い』がセットになったものです。本来は浮遊している、あるいは記者が剥がしてきた表層的なデータ(事実)をもとに、そのデータは本来は何を発信したくて遊離したのか。そのデータは記者のどんな想いを受けて剥がされてきたのか。その『想い』を探り出してやることがメディアの役目なのではないでしょうか。データ報道ばかりで、そのニュースを生み出した『想い』を、特に新聞や放送のようなオールドメディアに携わる者は意識すべきでしょう。情報は幽霊と同じように『成仏させなければ』いけないのです。

●情報を幽霊で比喩的に扱う…村山さんはそんな事を考えてこの小説を書いたわけではないでしょう。しかし、送られてくる情報の一つ一つを、丹念に見つめて、その芯を見出そうとしている村山さんの番組での姿勢をみると、そのように思います。村山さんは、現在、長崎と佐賀に向けて午前中のワイド番組を担当されています。

●過剰なデータ報道が世の中をギスギスさせている昨今ですが、ぜひこの小説からニュース、情報が、幽霊のように『想い』を抱えてメディアに寄り付いてきたのだ、という感覚を実感していただければと思います。第2巻、3巻、スピンオフ1巻。全4冊ありますが、実は後の巻が第一巻が投げかけた疑問の答えを握っています。ぜひ手にとっていただけたら幸いです。


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