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レノファなスタジアムの話(25)スタジアム基準の話

前回のnoteを多くの皆様にお読みいただけたようで、感謝しております。
(普段の10倍のアクセスがあったようです)
やはり「日本共産党のスタジアム・アリーナ建設反対運動」に関しては興味をお持ちの方が多いようで…

さて、前回のnoteの中で、日本共産党はスポーツ施設の整備そのものに関してはかなり前向きである一方で、その場合の施設はあくまでも「するスポーツ」を前提にしたものであって、「見るスポーツ」は想定外であることに触れました。

では「するスポーツ」の施設と「見るスポーツ」の施設の違いって何かと問われれば、やはり「観戦環境(観客席)」となるのではないでしょうか。
Jリーグの場合、クラブライセンス基準の中で観戦環境をはじめとするスタジアムの設備について細かい定めがありますが、今回はここら辺の話を中心に据えたいと思います。(少し長くなります)

前回の最後に「次回からは最近整備された(あるいは整備中)の球技専用スタジアムの話に触れたいと思います」と書きましたが、前回記事の反響を受けてこちらの話題を先出しすることとして、これは次回以降に回します。すみません。


Jリーグのスタジアム基準

Jリーグに参加するに当たっては、一定の基準を満たしたスタジアムを用意する必要があります。

中でも広く知られているのが「スタジアムの収容人数(入場可能数)」で、これについては以前の回でも触れました。

Jリーグのスタジアム基準には、他にももっと細かい基準があって、「スタジアム規模等」で必須とされている事項に絞っても、入場可能数以外に以下のような項目があります。

  • どの座席からも、ピッチ全体が見渡せること。各スタンドは、異なるセクターに分離できること。

  • 車椅子席は介助者の椅子を備えること/観戦の際の安全が確保されており、特に前列の観客により視野を妨げられないように設置すること。

  • VIP席はメインスタンド中央部でスタジアム全体が見渡せる位置に屋根付きで個席を設置すること。

  • マッチコミッショナー席はメインスタンド中央部でスタジアム全体が見渡せる位置に屋根付きで設置すること/テレビモニターを設置すること。また、机付きで4名着席でき(マッチコミッショナー、補助員、審判アセッサー、副審アセッサー)、ピッチの笛が聞こえること。

  • 記者席はメインスタンド中央部でスタジアム全体が見渡せる位置に屋根付きで設置すること。また、ノートパソコン、ノートが置ける十分な広さの机と電源を設置すること。

  • 新設及び大規模改修を行うスタジアムについては、原則として屋根はすべての観客席を覆うこと。

  • 屋根または照明に雷保護設備を備えていること。

  • 照明はピッチ内のいずれの個所においても照度1500ルクス以上の明るさを保持し、均一であること。

これはいずれも2022年版のJリーグスタジアム基準から抜粋したものですが、他にも入場券売場や待機スペース、入場ゲートの設置、救護室や記者会見等を行うための諸室の確保、トイレ数や飲食売店・グッズ売店まで事細かに基準が定められています。

これらの基準は、いずれも「Jリーグの試合を開催するために」必要になる設備なんですね。そして、これらの基準は、「サッカーをする」だけなら必ずしも必要ではない(と思われる)設備ばかりです。

なので、スタジアム建設に反対する人たちは、ここら辺に噛みついて「(するスポーツにとっては)オーバースペックで税金の無駄遣いだ」みたいなつつき方をして反対運動を繰り広げる…というわけなんですよね。

野球場の場合

では、(球技専用)スタジアムとの比較対象とされることの多い野球場の場合はどうなのか。
実は、プロ野球の取り決めである「日本プロフェッショナル野球協約」には、野球場の扱いについて以下の記述しかありません。

第29条 (専用球場)
この組織に参加する球団は、年度連盟選手権試合、日本選手権シリーズ試合、及びオールスター試合を行うための専用球場を保有しなければならない
第30条 (球場使用)
コミッショナーは、前条による球場使用につき満足が得られない場合、実行委員会及びオーナー会議へ、その球団の参加資格の喪失の決定を要求することができる。

日本プロフェッショナル野球協約2019」より

野球協約にある野球場に関する記述はこれだけ。
つまり「専用球場を確保しろ」とは言っているものの、専用球場に「観客席を何席確保しろ」とか「観客席に屋根をつけろ」とか「照明をつけろ」とか、そういう決まりは一切無い
フィールドの広さについては公認野球規則2.01で諸々の寸法が決まっていますが、観客席等のスペックに関しては一切の記述がないのですよね。

正確に言えば、かつては日本選手権シリーズの開催球場に関して「収容3万人以上」という決まりがあったのですが、東北楽天ゴールデンイーグルスの専用球場である宮城球場(楽天モバイルパーク宮城)が3万人収容を確保して以降は全ての専用球場が収容3万人以上となった結果、有名無実化したとして記載が無くなったようです。

この辺に関しては、プロ野球の運営組織である一般社団法人日本野球機構 (NPB) がJリーグやBリーグのようなエクスパンション(新たな球団の参加)を想定していない、すなわち専用球場が増えることを想定していないのと、重要事項をオーナー会議で決定するという合議制を採っているため、規則規約を細かく定めなくとも柔軟に対応できているという見方が出来ると思っています。
北海道日本ハムファイターズの新本拠地であるエスコンフィールド北海道が公認野球規則の基準を満たしていなかったことで話題になりましたが、これも日本ハムにNPBへの寄付を求めることで事実上の罰則として、さらに後から公認野球規則を訂正するという荒技で乗り切った、なんてこともありましたね。

その一方で、プロ野球の開催される地方球場が、たいした反対運動もなく、Jリーグ界隈やBリーグ界隈がうらやむようなハイスペックな野球場として出来上がるのかと言えば、「プロ野球に観戦環境に関するルールがない」ことを逆手に取った上で、必要な観戦環境を確保することを考えた結果ではないかとみています。

いわぎんスタジアム(盛岡市)の隣に2023年に完成した「きたぎんボールパーク」
フルスイング - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=131061203による

これはどういうことかというと、地方球場で入場可能数を一番確保しなければいけない場面は、実はプロ野球ではなく「高校野球の地方大会」だったりするからです。

ご存じの通り、高校野球の場合は平日休日関係なく、地方予選から各校が生徒を集めた応援を繰り広げるために、一塁側或いは三塁側だけで千人規模の観客(=高校生)が発生し、内野部には相応の観客席を作る必要があります。(その「見返り」ではないでしょうが、ほとんどの地方球場は外野席が芝生席ですし、野球は雨で試合を続行することがほぼないので観客席に屋根もほとんど付いていませんよね)
しかもこれらの設備はほぼ年間を通じて使用され、主たる利用者は学生。
高校野球公式戦のための野球場」の名目でハイスペックな球場が出来てしまう、というわけですね。

そして、プロ野球に関しては、先述の通りフィールドの基準さえ満たしていればどこで開催することも出来るので、野球場建設に際して「プロ野球開催を誘致して地域活性化!」みたいな、ある種詭弁を弄したような謳い文句が流れてくることもあったりするのですよね。

(これはこれで個人的にどうかと思うのですが、この辺を掘り下げすぎると話が拡散するので今回はここまでにしておきます)

スタジアム基準の求める目的

そういう状況を考えると「Jリーグのためだけにハイスペックな(球技専用)スタジアムは必要なのか」という(サッカー界の外側からの)批判的な意見は一定数存在しても仕方が無いだろうとは思います。
多くのJクラブが上位のカテゴリーを目指す中、スタジアム(の整備計画)が観客動員に見合わないような上位カテゴリーの基準に合致していなければ昇格もままならないというのは、ある意味理不尽であるようにも見えます。
実際、今季のJ2で平均観客動員数が1万人を越えているのは清水と仙台のみ、J3に至っては平均観客動員数が5千人を超えているのが松本と鹿児島のみ、という状況で、下位カテゴリーのクラブにとって「(J1基準の)1万5千人収容のスタジアムの整備が本当に必要なのか」という疑問の声が上がってもおかしくないだろうとは思います。

ここら辺に関して、Jリーグが2018年12月にスタジアム基準を改定した際の資料と、記者会見時の発言録が公開されています。

これを読むとJリーグは「Jリーグ発足とクラブライセンス制度(スタジアム基準)の導入により、常緑の天然芝や夜間照明の設置など、競技面と観戦環境、安全性、ホスピタリティにおいてスタジアム環境の向上に寄与してきた」と考えており、スタジアム基準は必要なものだったとの認識を持っているようです。

フットボールスタジアム整備を推進するためのスタジアム基準の改定について (要約版)」より

ただ、2018年の見直しに当たっては、スタジアムの基準の取扱いについて、Jリーグ側はこういった認識を持っていたようです。

二つ目は、基準充足に重きを置いた施設整備と書かせていただきましたが、これまで、競技面と観戦環境、安全性、ホスピタリティを重視し、より良いJリーグを運営するためにスタジアム環境向上を推進してきましたが、スタジアム基準によって、J1、J2への昇格の足切りをすることを考えて基準化したのではありません。

しかしながら、逆に基準を満たしたい方々からすると、基準充足に向けた投資が検討されるケースがあり、我々が重視している、観戦環境や収益性の向上が置き去りになって検討されるケースが見受けられるようになりました。

例えば具体的には、入場可能数がJ1:15,000人、J2:10,000人、J3:5,000人をクリアできさえすれば、ホームタウンのどこにスタジアムを置いてもよいという考えにならないように、新たな基準をしっかり整備しなおして内外にお伝えする必要があると考えています。

フットボールスタジアム整備を推進するためのスタジアム基準の改定について 発言録」より、
青影宜典経営本部クラブ経営戦略部部長(当時)の発言

この部分で見えてくるのが、現在のスタジアム基準、特に1万5千人収容の基準というのは、あくまでも「観戦環境や収益性の向上」が目的だった、と読めるのですよね。
言い換えれば、Jリーグは「1万5千人収容」の基準を、J1昇格のための足切りルールと考えているのではなく、「J1で戦うには、1万5千人以上収容のホームスタジアムがあり、そこが常時満員近くにならないと(増大する人件費等を確保するための)収益性が保てない」と考えているのでは無いかと思います。

スタジアム基準に囚われる前に

そうやって考えていくと、スタジアム基準が真に求めているのは、あくまでも「自分たちが現在、そして将来に戦うステージで収益性を確保するために、どこにどのくらいの規模のスタジアムが必要かを考える目安」なのではないかと思うのですよね。
なので、新たなスタジアムを考える際には「1万5千人収容」という数字ありきで考えるのではなく、(立地なども含めて)「満員にできるスタジアム」という規模感で考えることが必要になってくるのではないかなとも思います。

先日、金沢で新たなスタジアムがほぼ完成し、ツエーゲン金沢の選手による視察が行われたそうですが、完成時点での収容人数は約1万人止まりで、J1基準の「1万5千人収容」は将来的な拡張要素としています。
今季の金沢の平均観客動員数が約4,100人(最多動員でも8,461人)であることを考えれば、こういうやり方の方ががスマートでいいのではないかと思うところなんですよね。

レノファにも、山口市の商工関係者と専用スタジアム建設に向けた機運を高めようとする動きがありますが、ぜひ「どこら辺にどういった規模のスタジアムを作るのが最適なのか」というのをじっくりと吟味していただきたく思うところです。

というわけで、クラブライセンスにおけるスタジアム基準というのは、なぜそれが求められているのかということを考える必要があるよね、というお話でした。
ここら辺の話は色々と話を広げられる要素があるので、次回以降に書いていくかもしれません。

そういうわけで、今回はここまで。

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