野良猫ミウからの伝言(6)
第六章 別れ
ある日せんせいは、ボクのことをよんではなしかけてきたんだ。せんせいはいつもになくまじめなかおをしていたんだ。
「ミウ。少し話があるんだがな。」
「にやあ?【なあに?】」
「じつは、仕事が変わって、住田町から離れることになったんだ。」
「にやあ?【え、どうして?】」
「教会の活動を助ける仕事が増えてきたし、仮設住宅に物資を運んだりするんだよ。だから、違うところに住むんだ。そして、気仙沼ってところに、新しいキャンプを作っているんだ。それが一一月末には完成するんだ。だから、そのときには、住田町のキャンプは撤収することになるんだよ。」
「・・・・」
「ということは、お前にご飯をあげることができなくなるんだ。これから寒くなるのに、大変だと思うけど、お前はもう一度、自分で餌を捜さなくちゃならないんだよ。」
そういうと、せんせいはボクのからだをもちあげたんだ。ボクは、きゅうくつだから、せんせいのうでの中からでようとしたんだけど、つよい力でおさえられたんだ。
「なあ、ミウ。住田町の冬は厳しいそうだ。もし、食べ物に困ったら、神様に祈るんだぞ。どうぞボクに食べ物のある場所を教えてくださいってな・・・・。天の神様は、何でも知っているから、お前の状況にも目を注いでくださるだろう。聖書には『食物を獣に与え、また鳴く小がらすに与えられる。』【作者注・詩篇一四七・九】」って書いてあるくらいだから、野良猫一匹の命も守ってくれるはずなんだ。」
「・・・」
「だから、今から祈るから聞いてるんだぞ。イエス様、ミウに会えたことを感謝します。恐れに満ちていた野良猫でしたが、今は神の愛でずいぶんと変えられました。これから、このキャンプも移転します。そのとき、この猫にも生き延びる道を与えてください。ずいぶんと甘やかしましたので、この冬が心配です。無事乗り切れるようにお願いいたします。主イエスの御名で祈ります。アーメン。」
ボクは、そのとき、おもいっきり力をだして、せんせいのふくの中からとびだしたんだ。
「ミウ!元気でな!」
「みやう!【わかったよ!】」
せんせいは、そういうと、ぎんいろの車でこうえんをでていったんだ。それから、ぼくはせんせいにはあっていない。それが、さいごの日だったんだ。
それからテントのにんげんたちはいつもとかわらないで、いそがしそうにはたらいていたんだ。ボクはまいにち、ごはんをもらっていたから、このままにんげんたちとくらせるのかなとおもっていたんだ。でも、だんだんとさむくなってきて、雪がふる日がふえてきたんだ。
そして、その日がきたんだ。
朝はやくから、ちゅうしゃじょうに、にんげんたちがあつまっていて、はなしはじめたんだ。
「はい、みなさん。今日はすべての家具を運びます。テントとシャワー室、仮設トイレ以外は、すべて運び出します。それぞれの担当の場所をおねがいします。それでは、怪我をしないように気をつけて作業してください。」
にんげんたちは、おおきなはこ車に、にもつをはこんだんだ。はこ車がいっぱいなると、どこかにむかってはしっていたんだ。いちだい、にだい、そしてさんだいと。ボクはそれをとおくから見ていたんだ。そして、さいごのはこ車がでるまえに、ひとりのにんげんがいっていた声がきこえたんだ。
「これで住田町キャンプの使命も終わったってわけね。住田町のみなさんありがとうございました。ここにキャンプができたから、私たちは被災地で働くことができました。七ヶ月の短いあいだでしたけれど、いろんな思い出がうまれたわ。ボランティアのみなさん。いっしょうけんめいはたらいてくれてありがとう。それからあの猫はこれからだいじょうぶかしら・・・。きっとお腹がすくでしょうね。みんなで、あんなに甘やかしたから、これから自分で餌を捜せるのかしら・・・。心配だわ。がんばってね、ミウ。」
そのにんげんは、ちいさな、はこ車に乗ると、ぴゅーっとはしっていったんだ。そのとき、ボクはむかしクロさんがいったことばをおもいだしていた。
「あいつらもいつかいなくなるにちがいない。そんなやつらにちかづいてもいいことはない。いいか、あのにんげんたちにはかかわるんじゃねいぞ。」
クロさんがいっていたことは、ほんとうだったんだ。やっぱりにんげんはいなくなっちゃうんだ・・・。
でも、せんせいがいっていた。
「ということは、お前にご飯をあげることができなくなるんだ。これから寒くなるのに、大変だと思うけど、お前はもう一度、自分で餌を捜さなくちゃならないんだよ。・・・天の神様は、何でも知っているから、お前の状況にも目を注いでくださるだろう。」
ボクは、だれもいなくなったテントのまわりをいっしゅうしてみた。
「みゃう?【だれかいるの?】」
・・・・・・
テントにはだれもいなくて、そして、なんのおともしなかったんだ・・・。それからずっとね。
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