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野良猫ミウからの伝言(5)

第五章 恋の季節


そのひからボクは、まいにち、テントのにんげんたちとあそんであげることにしたんだ。

みんなボクをみると、「ミウ、かわいい~~~。」とか、「これって、野良猫だったんでしょ。ずいぶん慣れていますね。」とかいうんだ。それで、ボクは、せんせいとよばれているにんげんだけではなくて、ほかのにんげんたちからも、ごはんをもらうようになったんだ。

テントには、ほんとうにいろんなにんげんがいたよ。あたまのけがわのいろが、きんいろ【作者注・金髪】のにんげんとかもいたし、ふだんきいたことのない、にんげんごをはなしていたよ。なかには、こえのおおきなにんげんが「Miu,you eat too much!」とかいうんだ。

そうやって、あついなつもおわったころ、ボクはたびにでたんだ。ボクたちオトコの猫は、たまにじぶんのなわばりをでて、とおくにいくんだ。

どうしてかって?

それは、もちろんガールフレンドをさがすためさ!【作者注・野良猫のオスは十キロほども歩いてメス猫を捜すと言われている。】

それで、ボクは住田町の石でできたはしをわたって、川のむこうがわにいったんだ。そこは、はじめてきたばしょだったから、ボクはちゅういして、ほかの猫のにおいがないかたしかめていたんだ。そうしたら、とつぜん、あたまのうえのほうから「みゃう?【あなたはだれ?】」ってこえがきこえたから、ほんとうにびっくりしたよ。

うえをみてみると、そこには、いままでみたことのないかわいい、おんなのこ【作者注・メス猫】がいたんだ。その子のけがわは、こげちゃいろで、めが青いんだ!そのこは、ぼくにこういったんだ。

「みゃう?【あなたはだれなの?】」

「??」

「みゃう?【ねえ、きこえているの?】」

「に、に、にゃあ。【あ、あああ、きこえているよ】」

「で、あなたはどこからきたの。」

「ボ、ボクは、かわのむこうの、こうえんからだよ。」

「ああ、そうなのね。ずいぶん遠くからきたのね。」

「そうでもないよ。だって、ボクのなわばりだし、ボランティアもしているし、それで、いつもさかなもたべているし・・・。」

ボクは、なにをいっていいか、わからなくなったんだ。

そのこは、にんげんのいえの、にかいにいたんだ。そして、ボクのことをみながらこういったんだ。

「ねえ、上まであがってきてくれない?」

ボクはすぐにへいにじゃんぷして、そのこのいる、まどのところまでいったんだ。

「わたしは、チャコよ。海のまちからきたの。」

「え、そうなの。」

「そうよ。このあいだの津波でわたしのママの家がこわれちゃったの。」

「つなみ?」

「ああ、しらないのね。津波っていうのは、海がとつぜん大きくなって、いえも、何もかも、ぜんぶこわしちゃうことなの。」

「しっているよ。クロさんがおしえてくれたよ。」

「そう?わたしとママは、ものすごく家がゆれてから、すぐににげたの。ママはほんとうにあわてていて、わたしをつかまえると、毛布をいちまいだけもって車にのせてくれたの。それから、ものすごいスピードでさかの上にいったの。そうしたら、そこにはにげてきたにんげんたちがたくさんいて、海のほうをみていたわ。わたしは車のなかで、こわくてまるくなっていたの。そうしたら、ママが『チャコちゃん。たいへん。ああ、家が流されて行くわ!ああ、たいへん!あら、みんな逃げて!』ってさけんでいたの。」

「・・・・」

「そのよるは、わたしママと車のなかでねたの。ママは『チャコちゃんがいるから暖かいわ。でも、これからどうなるのかしら。電気も水道もないのよ。気仙沼は壊滅だってだれかが言っていたけど・・・。チャコちゃん。これからどこに逃げようかしら・・・』わたしは、ママが泣いていたから、涙をなめてあげたの。わたしにはそれしかできなかったし・・・。」

「ふーん。たいへんだったんだね。」

「それから、何日かしてから、ママはやっと知り合いの人に連絡がとれたの。そしてママはこういったの。『住田町は安全だから行ってみるわね。そこは猫も連れ来ても良いっていってくれたの。だから、しばらくそこでお世話になるわ。あなたも大変だけど一緒に行ってちょうだいね。』だから、わたしとママはここに一緒にいるの。でも、夜になるとママは眠れないの。まだ、あのつなみの絵が、夢にでてくるんだって。そして、これから壊れたお家を、どうやってなおしたらよいかわからないって言うの。ママは毎日泣いてるの。だから、わたしはいつでもママのそばにいることにしているの。でも今はお買い物にいっているから、外をながめていたら、あなたが歩いてくるのがみえたの。だから、あなたが来るのをまっていたの。だって、わたしもひとりでさびしかったし・・・。」

「ボクは、はじめてここにきたんだ。ボクはにんげんのボランティアっていうのをたすけているんだ。そのにんげんたちも、まいにち、うみのまちにいって、こまったにんげんをたすけているんだって。だから、キミのママもきっとだいじょうぶだよ。ボランティアがいるからね。」

「ボランティア?そういえば、ママもそんなにんげんたちに、おうちのおそうじをたのむっていっていたわ。あなたは、なんでも知っているのね。」

「そ、そうでもないよ。」

「ねえ、あなたの名前はなんていうの?」

「ボクはのらねこだから、なまえはない・・・っていうか、みんなはボクを『ミウ』ってよんでいるよ。」

「ミウ・・・。すてきな名前ね。」

「あ、ありがとう。キミもきれいな目のいろ・・・、いや、きれいな、なまえだね。」

「あら、そうかしら。チャコは、あなたとあえてうれしいわ。わたしはずいぶん長いあいだ、ほかの猫とはしゃべっていなかったから、うれしいの。」

「あ、あのさあ。また、あしたもくるから、よってもいいかな?」

「もちろんいいわ。まどからそとを見ながらまっているわ。」

「わかった。じゃあ、またね!」

ボクは、その家からおもいっきり、じゃんぷして、ぜんそくりょくではしって橋をわたったんだ。だって、チャコちゃんがボクをみているから、いいところをみせたかったんだ・・・。

そして、ぼくは、おおごえでさけんだんだ。

「チャコちゃん!ボクはまたくるよ!」

それからまいにち、ぼくはチャコちゃんにあいにいったんだ。そして、らいねんの春には、いっしょになるやくそくをしたんだ。つまり、「婚約」ってこと!!

それからしばらくしてから、ボクはひさしぶりにこうえんのテントにもどったんだ。ちょうどそのとき、ちゅうしゃじょうにはこ車がはいってきた。おりてきたのは、マサオとよばれているにんげんだった。せんせいがテントからでてきてこういっていたよ。

「おう。マサオ。ひさしぶりだなあ!」

「先生、お久しぶりです。仙台から来ましたよ。やっぱり住田町はいいですねえ。このあいだ、先生の誘導質問で「また来ます。」って皆の前で言っちゃったから、戻ることになりましたよ。ハハハ。」

「そうだな。告白は重要だ。人間は告白した通りになるって聖書に書いてあるからな。【作者注・箴言三・二七】」

「ホントそうですね。でも今回は一週間だけですが、よろしくお願いします。」

「いやあ。マサオが仙台に移ってから、ボランティアの現場リーダーが足りなくて困っていたんだ。来てくれて本当に助かるよ。ところで、マサオは今度婚約するんだって?」

「ハハハ。【赤くなって】あれ?よくご存知ですね。でもまだまだ準備中です。お祈りください。ハハハ。」

「もちろん祈っているよ。早く孫、いや子供の顔を見せてくれよ!」

「ハハハ。先生まだ早いですよ。婚約もしていないんですから。あ、先生。あの猫まだいるんですね?」

「うん?ああ、ミウか。久しぶりだなあ。どこに行っていたんだ。一週間もいないから心配したぞ。」

ボクはあたまを、せんせいのズボンにすりつけたんだ。

「うーん。怪我もしていないようだから、きっと遠征にでも行っていたんだろうな。どうだ、ガールフレンドは見つかったか?見てみろ、このマサオの幸せそうな顔を!お前も、はやく嫁さんを見つけるんだな!」

「みやあ!【ボクはもう、みつけたよ!】」

「うん。そうか。お前もがんばっているってわけだ。まあ、とにかく元気で何よりだ。」

せんせいは、またボクにごはんをくれた。それは、いつまでもつづけばよいとおもう、しあわせなしゅんかんだったんだ。

>第六章

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